絶対生きて帰れないようなAランクの任務がきた。
任務は二日後だった。
荷物をまとめて、部屋を片付け、折角なのでと酒を飲んだ。まぁあと一ヶ月で十八歳になるので許してほしい。
人生初の酒が美味すぎてガバガバ飲んで千鳥足って本当になるんだなぁと思いながらも無事に帰ってそのまま寝てしまった。
それが昨日のできごとだ。
そして今朝、これが二日酔いかとガンガンする頭を抱えながら起きると、トントンとノックされた。
何だろう、もしや明日のことかと慌てて玄関のドアを開けると、イケメンの見知らぬ青年が立っていた。
「えっと・・・、どちら様でしょうか?」
「恋人です」
「は?」


「貴方の、今日限定の、恋人です」


彼の名前はカカシさん。二十二歳。独身。らしい。
「あー・・・えー・・・、え?」
ごめんなさい。誰?
「昨日アンタのところに書類を持って行ったんだけど覚えてる?」
カカシさんは落ち着いた様子で俺の正面に座って説明する。
「昨日?」
あーすみません、夕方から記憶が曖昧です。
「何とかっていう制度で、実力以上の任務に従事する者に特例で里から望みを叶えてもらえるというやつで」
「はぁ」
「アンタ昨日『じゃあ恋人がほしいです!俺いたことないし。あーでも俺明後日には死んじゃうから俺が死んでも悲しまない人がいいなぁ。でも愛してほしい』って言ったから、派遣されたんだけど」
うっわ!
なにそれ恥ずかしい!
拗らせ童貞がガツガツしてて、でも制度頼みとかめっちゃ恥ずかしい!
愛してほしいとか、わーー!!
怖い!酔っぱらった口の軽さとか怖い!
なんで酔っぱらった時にその人きちゃうの!素面の時に来てくれたら「いや、俺は里のために命を捧げるので」ってカッコ良く言って去るのに!
この人も何真面目な顔して言ってるの!余計恥ずかし!恋人ぐらい自力で探せよこれだから童貞は・・・とか言ってやって!そしたら恥ずかしさで死ぬから!あ、死ぬのは任務でだけど。
「あ、りがとぅございます・・・」
「いえいえ」
というか、そんな制度あるんだなぁ。そういうのは里に貢献しまくった一部の上忍レベルの人たちだと思っていたけど。
「それで、えっと、何で貴方が?」
この人イケメンで優しそうでチャクラ的に強そうだけど何で?そういうお仕事の人?
「該当する人がオレぐらいだったから。オレ今休暇中で暇だし」
えー、えー・・・。
それってそんなことしてもいいよっていう人がいなかったのか。まぁそうだよな。なんか気持ち悪い願いだし。むしろこんな茶番に付き合ってもらえて感謝しなくてはいけない。
でも恋人って言ってるんだからせめて性別考えて欲しかったです。
「あ、りがとぅございます・・・」
「いえいえ」
先程から一度も表情を変えず答えた。忍らしい忍だ。でもちょっとやりずらい。
「それで、えーっと、・・・恋人って何するんですか?俺、本当に恋人いたことなくて」
恋人と言われてもいまいちピンとこない。
できれば初心者の俺を引っ張って、気持ちのいい一日が過ごせたらいいなぁと思っていると、彼はキョトンとした。
「さぁ?」
さぁ?

「オレもいたことないから知らない」

「・・・・・・・・・・・・」
チェンジをお願いします。
そんな失礼なこと言えないので心の中で十回ほど叫んだ。
そっか。
そっかぁ。
こんなイケメンでもいないなら、俺なんか恋人なんか一生できなかったな。その事実が知れて良かった良かった。
「あーそうなんですかー」
帰ってもらおうかなー。残りの時間自分の半生を振り返りながらのんびりしようかな。
「でも恋愛小説結構見てるから大丈夫だと思うけど」
「お、おぉ!」
よく分からないけどそれでもいっか。確かに恋愛ごっこみたいなものだ。
「えっと、まず肩を掴んで」
「ふんふん」
「そのまま押し倒す」
全く理解する前に綺麗に倒され、馬乗りにされた。
「それから服を剥ぎ」
「ちょっちょっちょーっ!!!」
違う違う違うぅぅ!
慌てて止めに入ると全く分かっていない顔をしてる。おい、冗談と言え。
「それって官能小説じゃないですか?」
「何言ってるの?イチャパラは恋のバイブル」
「官能小説の代表作じゃねーか!」
おかしい。この人おかしい。
「すみません、別に俺そういうことしたいわけではなくて」
「そうなの?」
いや、できればそんなことも憧れていた。だけど相手は女性がいい。男とか無理。むしろ何故。むしろ何故だ。
「じゃあ・・・・・・本当になにするの?」
悪意のない目で見られて言葉に詰まる。そんな目で見られては何も答えられない。確かに若いので頭は常にエロいことかもしれないけど。
だけど。

明日死ぬなら、話は別だ。

「せっかくなので楽しい一日を過ごしてみたいなぁと思ってるんですよ」
「友人とか家族とかいないの?」
「家族はいないですけど、友人はいます。でも全員里にはいないし、第一会ったら泣かれます」
泣かれるのは嫌だ。置いていかれたと言われるのも嫌だ。
俺が死んだって世界が変わらないように、明日も明後日も俺のことで悲しいと思うことなく世界が回ってほしい。
「えらく潔いいんだね。そんなに死にたかった?」
声色は変わらず無表情は相変わらずなのに、どこか苛立っているように聞こえるのは何故だろう。
死にたいか。
そんなわけない。
「そんなわけないじゃないですか。でも命令だから断れないし」
「断れるでしょ?アンタ三代目のお気に入りなのに」
あーあーあー・・・。
そうか。そういう事まで知っている人か。
「・・・身内に甘いなんて知られたら三代目に傷がつきます」
「生死に関わることが甘い?」
「俺のことで三代目が気を病むのはもう嫌なんですよ」
元はと言えば、俺のせいだった。
「困ったことはないか」と聞かれて、ふと前回の任務での理不尽な対応のことを話してしまった。本当に軽い愚痴のように。よくある親にその日あったことを報告するような気軽さで。
そしたらいつの間にかとても大きな話になり、三代目は結果として手柄を得たが、その分恨みをかった。だから彼らから守るために動き、その分三代目が得るものはあったが、よけい恨みをかう。
それを何度か繰り返して段々と俺に矛先を変えられてきた。
それを更に三代目が庇うからもっとややこしくなる。
そして先日手渡された任務をみて、ここまで敵がやってきたのかと理解した。
よくある内部のいざこざだった。
終りのないこの戦いに終止符を打つのなら、俺の死しかないと思っただけだ。
「ふぅん」
どうでもよさそうなのにどこか納得出来ないような声を出した。
「あの、そういう話がしたいわけじゃなくて」
「あぁ、分かってるよ。恋人だもんね」
うーんと顎に手を当てた。

「キスでもする?」

すみませんチェンジをお願いします。
「すみませんチェンジをお願いします」
「声に出てる声に出てる」
あ、しまった。
ついに心の声がでてしまった。
「まぁ時間が勿体ないし、せっかくなのでデートでもしよっか」
「あぁ、それっぽくて良いですね」
カカシさんは初めてニコリと笑った。俺もつられて笑う。
「定番の映画館でいい?何やってるか知らないけどまぁなんでもいいでしょ」
「いいですね。あー何時ぶりだろう。ポップコーン食べながらみるの好きなんですよ」
「塩派?キャラメル派?」
「塩以外認めない派です」
「気が合うね」
辛気臭い空気は一変して、まるで友人のような気軽さを感じる。奇妙な縁だがこんな最後の一日も悪くないような気がしてきた。私物は捨ててしまったので支給服しかないが、相手も支給服なのでいっか。そのままの格好で部屋から出た。当たり前のようにカカシさんも並んで歩く。猫背の彼は目線が同じ距離にある。片目しか見えないが、その目は深く底がない。何を考えているのか全く読めなかった。
何を考えて今隣に並んでいるのだろうか。
ぼーっと考えているとフッと小さく笑った。そのまま整った顔が必要以上に近づいた。まるでキスするかのように相手の吐息が感じられるぐらい。

「天国を見せてやるよ」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・いきなり何ですか」
「え?こういう時はこう言えば良いってイチャパラに」
おかしいなぁみたいな顔してるが、おかしいよ。特にあんたの頭が。いいからそろそろそのエロ本お手本にするのやめろ。現実にそれをするとただの犯罪者だ。
何となくこの人がイケメンなのに恋人が出来なかった理由が分かった気がした。
まぁ、ただ。



一瞬ドキッとしたのは内緒だ。



□□□□□□□□




映画館には朝の早い時間だからだろうか人が疎らだった。
恋愛もの、感動系、アクション、アニメ、ホラーと様々だった。
恋愛ものはさすがに男二人はキツい。ホラーもパスだ。アニメは知らないヤツだし、アクションか感動系か。悩む横でカカシさんはR18の映画をジッと見てる。
「カカシさん。俺まだ十七歳です」
あと一ヶ月で十八だけど。でもそこは手を出したくない。特に初対面の人とは絶対お断りだ。
「そー?」
残念そうな声をしながらも目は離れていない。
いや、絶対嫌だから。絶対だ。
「っ、あ!これ!カカシさん犬好きですか?この犬可愛くないですか!」
感動系の映画は犬と人間の物語らしくブサかわいいパグ犬がアップで写っている。
どうやらカカシさんは犬好きらしくようやく目線をこちらに向けた。
「あー可愛いね」
「これにしましょう!ね!ね!」
「うん」
気が変わらないうちにさっさと券を購入し、言っていたポップコーンや飲み物を買う。
「オレもパグ犬飼ってる。忍犬だけど」
「へぇ!いいですね!俺も犬好きです!昔は飼いたかったんですけど親が許さなくて。今でも憧れます」
「今度見せてあげるよ」
是非、と言いかけて、慌てて誤魔化すように笑った。

今度なんてない。

そんな無責任な約束はしたくなかった。





映画はとても良かった。
ある男が幼い頃から飼っていた犬がある日亡くなる。その一年後、猫が男の元へと訪れた。直感で亡くなった犬だと分かる。その猫を飼い、また亡くなり、その一年後に今度は馬が訪れる。その繰り返し。犬は姿を変え、死んで一年以内に彼の元へ訪れる。男はそれをずっと待っている。姿が違うが決して見間違えたりしなかった。そうやって何年も何年も一緒に暮らし別れ、また出会っていく。だが亡くなって一年後、何も訪れなかった。こんなこと今までなかった彼は酷く慌て、悲しみ、絶望した。何年も何年も待ち続け、ある日ふと思ったのだ。
自分から探しに行けばいい、と。
今までだって見間違えたりしなかった。出会えはすぐに分かった。
あてはない。どんな姿か分からない。
だけどきっとどこかに存在し、彼を探してくれているはずだ。
待っているだけでは駄目だと漸く決心した彼は荷造りを始め、出かけようと玄関を開けた瞬間、幼い女の子が立っていた。
その瞬間、あの犬だと分かった。
人間に生まれ変わったので訪れるのに長い年月が必要だったのだ。
泣きながら再会を喜ぶ彼を見つめている幼い女の子はにこりと笑い、口を広げた。
「 」
紡ぎ出した言葉は、音にならなかった。
そしてそのままエンドロールが流れた。





「素敵な話でしたね」
カカシさんが選んだ適当な店で昼飯を食いながら先程の映画の話をした。
「パグ犬ちょっとしかでなかったけどね」
どこか不満げに言う彼はやっぱり論点が違う。
「彼の苦手な蛙になった時は笑いましたね!ぴょんぴょん飛ぶ蛙に逃げ回りながら餌をあげたりして」
「餌ぐらい自分でとれるのに過保護だよね」
「彼にとってどんな姿でも昔の犬に見えるんでしょうね。どんな生き物でも必ず散歩するところは素敵でした」
以前誰とどんな映画に行ったか忘れたが、こんなに楽しかっただろうか。
「最後、人間になって、なんて言ったのですかね」
ようやく喋れるようになった彼女は、何を言いたかったのだろうか。
「分かんないの?」
カカシさんはさらっと言った。
「分かるんですか?」
「アンタが鈍いのはよく分かった」
「えー、えー・・・」
「分からず屋」
ちょっとムッとしたが、よく言われるのでとても反論できない。
鈍いのは知っているが、映画と関係あるのか?
「ま、オレの忍犬なら生まれ変わらなくても喋るけどね」
この人相当忍犬好きなんだな。さっきからちょいちょい自慢を挟んでくる。
「お待たせしました。初めて詰め合わせ大きなウインナーと白いオムライスです」
本日のオススメを頼んだが、出てきたオムライスはハート形の人参が所狭しと並べられ、白いクリームたっぷりの一見普通のオムライスだが、上にはでかいウインナーが下のファンシーなイメージをぶち壊すようにのっていた。
「いただきます」
まぁ見た目など気にしないので、でかい肉は大好きだ。ブスッとフォークを刺すとカカシさんが小さく「わぁお」と呟いた。
「?」
気にせず大きく口を開け、咥えると「んんっ」そのままガブッと齧り付くと「おぉ~」とまた小さく呟かれた。
「うまいっすね」
「うんうん。まぁ食べて。ほら肉汁垂れるよ」
じーっと俺の食べる姿なんて見ているが、楽しいのだろうか。ウインナーは美味い。
「来月はババロアかぁ」
来月のお知らせと書かれたチラシにはデコレーションされた器の上にババロアが二つのっていた。
料理名は「すてきな誘惑」
「・・・なんだかおっぱいみたいですね」
「んー?うん、そーだね」
とっても良い笑顔で相槌された。
こんなに大々的におっぱいを売り出していいのか。
今更周りを見渡すと、やけにピンク色が目立つ変な内装とカップルだらけの異様な店内だった。あと店員さんの服ダサい。
「なんか俺たち場違いじゃないですか?」
「んー?」
「ほら、カップルだらけですし」


「ヤダなー、オレたちもカップルでしょ?」


そう言われて、すっかりそのことを忘れていた。俺は完全に友人のように接していたが、彼は律儀にデートのようにしてくれていたのだ。
そうか。これがデートなのか。
「あれやってみる?」
「あれ?」
指さした方向にはカップルが、俗に言う「あーん」をしている。確かにカップルぽい。
「楽しいですかね?」
「したことないから知らない」
確かに。お互い恋人いないからそうだろう。
だがせっかく彼がデートっぽいことをしてくれようとしているので拒否するのは悪い気がした。恥ずかしいけどここにいる人にはもう二度と会わないだろうし。
ハート形の人参をスプーンですくって、彼の口元に近づけた。
「お願いします」
「固いなぁ」
まだ食べてないのに人参の固さが分かるのか!?確かにまだ煮込み足りないなとは思ったが。
パクッと食べると食べきれなかったホワイトシチューがタラりと口の端から垂れた。それを指で拭う姿はさすがイケメン、絵になっていた。
「ん、おいしーよ」
「そりゃ店が作った物ですし」
「ムードがないねぇ。間接キスとか思わないわけ?」
「そんなイチャパラのような・・・」
そこでハッと気がつき周りを見渡す。よく見ればイチャパラの世界観に似てる。読んだことないけどこの浮かれた感じとダサい店員の服はまさにイチャパラの世界観だ。
これは俗に言う、こらぼかふぇ、的な?
「あ、今更気づいたの?ここ、来てみたかったんだよね。でもほら、独りだと来にくいし」
「もしかしてそれで今回の任務受けたんですか」
「さーね」
飄々としていて表情は全く読めない。でもきっとそうだ。
好きな世界観がリアルに楽しめる喫茶店があるらしいが、なるほど、邪魔にならない程度にわかる人にはわかるような、そんな感じの店だ。



そうか、この人イチャパラが好きなのか。

「・・・・・・」




まぁ関係ないけど。





「来月はおっぱい食べに来ない?」
「もっと隠した言い方で言ってくださいよ!ババロアでしょ」
「生クリームかけ放題だって。あるよね、そういうプレイ」
「カカシさん!」
この人下ネタになるとイキイキするな。
「でも今日のメニューは普通でしたよね?そういう日もあるのか」
「今回のはイチャパラででてくる彼女が初めて自宅に呼んだときに出したメニューだーね。その思い出のオムライスの上にデカいチ、・・・いや、ウインナーを置くとはよく分かってる」
「確かにウインナーは太くて大きかったですね。他もトロトロでうまかったし」
「うんうん、イルカはそのまま純粋でいてね」
何故かとてもいい笑顔で言われた。




□□□□□□□□




食事が終わりると、次は・・と何も浮かばなかった。
「・・・普通のカップルはどうしてるんでしょうね・・・?」
「んー、まぁ腹もふくれたし」
ポンっと手を叩いた。
「ホテルでも行く?」
「チェンジでお願いします」
やっぱりやべぇよこの人・・・。本当気がついたらヤられそうだ。
いや、どうせ死ぬんだし、一度でも経験していた方がいいのか。いや、でもこんなことで気持ちが揺らいでも嫌だし。なにより男とはちょっと、あの、生理的に無理そうだ。
断るとそれでもどこかワンチャン狙ってそうな顔をする。話題を変えるためにも次行く場所を考えなくては。
(と言っても行きたいところか・・・。一楽は今日は定休日だし)
本当なら。
本当なら、慰霊碑に行く予定だった。
最後に両親に挨拶したかった。
だけど。
今更、何を報告できるのだろうか。
これか里のために死にますって。
そんなこと意気揚々と報告できるわけない。
説教なら、あの世で直に言って欲しい。
そんなところではなく、もっと別の悔いが残らないところがいい。
「あ、そうだ」
行ってみたかったところがあった。
「木の葉横丁って知ってますか?」
「あぁ、あそこね。いいね。真昼間から酒飲むなんて」
「俺は流石に明日任務なので飲めないんですけど、雰囲気だけは味わってみたくて。カカシさんは酒強いんですか?」
「そこそこかなぁ。昨日の酒はそんなに美味かった?」
「クセになりそうです」
「ンー、最高」
カカシさんは歩き出した。
木の葉横丁とは飲み屋が数十件連なる木の葉名物の路地だ。俺の父親は大の酒好きでよくそこに通っていた。
そこに行けば知り合いでもそうでない人でも仲良く酒が飲める場所だとよく聞かされていた。
「飲み屋のくせにいつでも開いてる店ばっかりだからね。オレのオススメはえんがわ。酒の種類がクセが強いものが多いし個室が多い」
「へぇ」
「焼酎からカクテルまで出してくれるよ。今日は雰囲気だけね」
「はい」
凄いな。大人みたいだ。
昨日は独りだし行く勇気はなくてよくある街中の居酒屋で飲んだけど実は昔から憧れていた。
昔父ちゃんに連れていってくれた店で飲んだ酒はキラキラと綺麗だったのに飲んでみると苦くて吐き出した思い出がある。
あれ以来昨日まで飲んだことは無かったか、あの苦味が美味く感じるとは十年そこらの変化が実感できた。
少しづつ、体は大人になっているのだ。
入った店は薄暗くボンヤリとした光が店内を優しく照らしている。和柄タイルや蔵戸をあしらっており古民家のようなあたたかくてほっとする空間で、よく行く定食屋にはない雰囲気があった。
カカシが店員に声をかけると奥の個室を通してくれた。外の景色を見れるよう窓に面して横並びに座ると腕が当たりそうにカカシさんが近くにいる。少し薄暗くて狭い空間は隠し部屋のようでどこかワクワクする。
「まず何飲む?王道のノンアルのビール?」
「よくあるのは昨日飲んだので変わったのが飲みたいです!」
「・・・分かった」
ちょっと呆れられた顔をされたのはなぜだろう。
「ここには幻の酒があって三年に一度、十本しか製造されない酒があるんだよね。独特のクセがあるんだけど熟成されているから繊細で、一度飲んだら忘れない、旨い酒なんだけど」
「へぇ、凄いですね」
「キープしてるから、今度ゆっくり飲も?」
すごい、さすがカカシさん。
お金持ちの大人みたい。
そんな幻の酒、是非飲んでみたい。
頷こうとして、躊躇って、俯いた。
お通しと呼ぶにはお洒落すぎるナッツと一緒にきたのはカクテルだった。
「わーきれいな青色ですね」
「イルカっぽいでしょ?」
薄暗い照明の下でカカシさんの銀髪は鋭く光った気がした。
カカシさんは覚えられないような不思議な名前の飴色の酒を飲んでおり、それが周りの雰囲気と合わさってよく似合っていた。
見れば見るほど、この人本当にイケメンだな。
鼻がシュッとしてるし、色白で顔が小さくて手足が長い。
今まで恋愛とか考えたこと無かったけど、ずっと隣で見るなら綺麗な人がいいなぁ。
「ん?なぁに?」
「あ、いや・・・、カカシさんこんなにイケメンだから恋人がいないの不思議だなぁって思って」
「あーそーねー」
カカシさんは考え込むようにウーンと唸った。
「昔は自分には戦地で戦うしかないってただただ任務に明け暮れてたんだよ。人の言うことも聞かずに任務達成出来たらいいって無茶苦茶してた。自分に酔ってたっていうよりそれしか自分の存在価値を見い出せなかった。いつか大きな戦地で華々しく死ねれば本能だって」
「・・・分かります」
「うん。オレもイルカの気持ち分かるよ。実力社会でどれだけ任務が達成できたで優劣付けられて、失敗すれば無能の烙印を押される。だから余計なこと考えず任務のことだけ考えて生きていけば良いって思ってた」
俺だって思ってる。
だって、それしか生きる道を知らない。
「ある任務で内通者がいるからってチャクラ抑えて変装して下忍として戦地にいたことがあるんだけど、そこで変な下忍がいてさ。すっごく一生懸命にやってるって思ってたら嫌味な上忍に気が付かれないようなトラップかけたり、料理の肉をできるだけ多く食べれるために計算しながら配膳したり」
思い出すようにクスクスと笑った。
この人、そんなくだらない事で笑うんだ。
「その時は気が付かなかったけど、終わってから気がついた。ずっと、こうしていれたらいいのにって。地位も名誉も財産も、何にもいらないからこうやって生きていけたらどんなに幸せだろうって」
俺の聞く限り、大した事でないのに。
この人ってそんなことを幸せと思うのか。


「世界って案外簡単にひっくり返るんだと思ったよ」


任務だけの日々に、それしかないと思っていた。
だけどそれだけではない、それ以外の道だって、案外近くにある。
それに気がついて、踏み出すかだけの問題だった。
「そう考えたらさ、任務に命かけるのも馬鹿らしくて。任務はもちろんするけど、他の楽しみもあってもいい気がしない?オレだって幸せになりたいって思ってもいい気がしたんだよね」
「幸せ・・・」
幸せ。
そんなこと考えたのは何時までだっただろう。
「俺は、両親が上忍で」
「うん」
「一人っ子だったし、親からも周りからも期待されてて、でも俺自身そんなに素質がなくて」
何かが欠けているのではなく全部が平均的で秀でた物はなくて、きっとこのままなれて中忍だろうと自分自身思っていた。
「分かるよ」
「いや、カカシさんはきっと分からないと思う。エリートそうだし」
「・・・うん、ごめん。全然分からない」
「とにかく何が悪いわけでもなくて、でも努力しても頭打ちで、期待に応えられるほどの実力はなくて、このままでいいのかってずっと焦っていたんです。もう両親も周りの人もほとんど居なくて、あとは三代目だけだったんです。そんな三代目が、俺のせいで」
何度ひっそりと一人で深いため息をつかれただろう。
疲労を隠せないぐらいになっていく日々に、ここしかないって思った。


上忍になれない、出来損ないの俺の存在価値を表すのはここしかないって。


「イルカが命かけるほどのことなんてこの世にはないよ」
カカシさんは静かに、キッパリと言った。
「上忍になれば幸せってこともないし、上忍になれなかったからって存在価値がないなんてそんなこと絶対にない。オレはあの日、なんてことない日を好きな人と過ごせたら、どんなに幸せだろうってそんなことばかり考えてるよ」
青いカクテルに映る自分が、どこかぼんやりと虚ろに見える。
俺の大切なものは次々となくなっていき、あとは里と三代目だけだった。
だから俺に出来ることがあればって、いつも模索していた。人並み以上のことができなくて悲しかった。俺の周りには凄い人ばかりだったから尚更だった。
「三代目は、イルカが死んでくれて助かったって思うかな?これで問題が解決したって」
「・・・・・・いえ」
「それよりもさ、幸せに生きてくれていたらいいって願ってると思うよ」
「カカシさん、もしかして・・・」
ずっと。
ずっと感じていたことがある。
彼は常に未来の橋をしていた。
映画館でも、喫茶店でも、ここでも。
彼は必ず『次』の話をしていた。



「もしかして、明日戦場に行くこと止めようとしています?」


彼は何も言わずにガリガリと頭をかいた。


「自ら死を選ぶ人は、なんて言うか・・・、嫌いだ」


弧を描くように細くなった目は、どこか新月のように感じた。
変な人だなぁと改めて思った。
もう今日だけで何十回と思っている。
よく分からない制度のために、休みだからと経験もないくせに恋人のように一日付き合ってくれて。
なんにも考えていないような飄々とした顔をして、ゆっくりと確実に俺の心を洗いざらいにし、頑なになっていた心を解きほぐし、狭くなっていた視野をこレでもかって広げてくれた。
俺の気持ちを理解した上で。
「カカシさんって、・・・すごい人なんですね」
「あれ?今頃気がついた?」
得意げに笑う顔はなんだか子どものように無邪気だった。
「俺、絶対帰ってきます」
自然とそんなことを言っていた。
「カカシさんの飼っている優秀で可愛い忍犬たちを見てみたいし、十八禁の映画も、こっそり見てみたい。来月のおっぱいのババロアも見てみたいし、カカシさんのオススメの幻の酒も飲んでみたい」
どんどんやりたいことが浮かんでくる。
吹きさす風はだいぶ暖かくなってきていて、これから俺の好きな夏がやってくる。茹だるぐらい暑い日差しの下で、またこの里を見てみたい。
「んー・・・、あの戦場じゃあ、ちょっと難しいかもしれないねぇ」
「えー」
カカシさんはわりとあっさりそう言った。
励ましたりダメって言ってみたり変な人だ。
「オレ的に言えば今すぐにでも三代目に言うべきなんだけどねぇ」
「それは絶対できません」
「・・・分からず屋め」
ジトッと恨めしそうに見られたが俺が意志を曲げないと思ったのかハァとため息をついた。





「・・・昨日アンタが恋人が欲しいって言ったなんてウソだよ」





「・・・・・・え?」
「本当はね、明日一日を笑顔で過ごしたい、だ」
アンタらしい言葉だねぇ。
片方しか見えていない目が静かに闇に紛れていく。
じゃあ、またね。
カカシさんはそう言うと振り返らず路地の奥の方へ行って、消えてしまった。
もしかしたら飲み直すのかもしれないし、任務は終わったから帰るだけもしれない。
思ってもみない発言とあっさりとした去り際に、なんだか狐につままれたようで、暫く動けなかった。





□□□□□□□□






あれから三週間経ち、戦地のど真ん中にいる今は、とにかく全身が痛かった。
トラップを仕掛けては後退しているが圧倒的に不利なのは嫌でも感じた。寧ろ指一本も欠損していないのが凄すぎるが、時間の問題だろう。
「あークソ、痛え」
「物資も人員も足んねぇなぁ」
石みたいな食料をかじりながら休息をとる。
今はまだ日が高く安全な方だが、日が落ちればまた戦闘になるだろう。
息を吸うだけでも痛い体をかばいながらゆっくりと座った。
「こりゃ上忍何人か呼ばなきゃひっくり返らねぇぞ」
「上忍何人かで足りるか。暗部クラスか二つ名あるようなクラスじゃねぇと無理だわ」
「こねーよな。来るぐらいなら最初っから投入してるだろうし」
「まぁだからこそ俺らみたいなのが来てるんだろうがな」
ハハハとどこか乾いた笑いがうまれる。
「あー最後に女抱きてぇ。でっけぇ胸の」
「俺も俺も」
やはり人間は死ぬ前は本能だろうか子孫を残すことを考えるのだろうか。それとも満たされない性欲のせいかそんな話ばかりしている。
「イルカは?最後に何してぇ?」
「一楽のラーメン食べたい」
「はー、色気ねぇな」
いや、一楽のラーメンは全ての煩悩消し去っていくだろうと確信している。
「女なんてこの一ヶ月見てもねぇ」
「ここに来るまでなにしてたんだよ」
「普通に任務だわ。可愛い女引っかけてちょーっとヤったら親がカンカン。有力者だったみたいだからこんなとこにポーイ」
「すげぇな」
「あー結婚したかったなぁ。イイ女だった」
チャラそうに見えるソイツはどこかしんみりと言った。
そう言われるとその場がシンッと静かになった。誰にでも里に残している人はいる。ヘマしたり、志願したり理由は様々だが、こんな極地に飛ばされ今正に死に向かう中で、思うことは残してきた人だろう。
俺も偶に三代目が夢の中で呼んでいる。
そして、一度しか会っていないあの人も。
「里出る前に一目でも会いたかったなぁ」
「頼んでみれば良かったのに。あの何とかっていう制度」
「何とかっていう制度って何だよ」
「ほら、実力以上の任務に従事する者が特例で里から望みを叶えてもらえるというやつ」
あの制度を使えばさすがに有力者の親でも死に行く人に情けをかけてくれるんじゃないか。
俺にだってあんなに親切に寄り添ってくれた。




「なんだよ、それ。中忍がそんな権利あるわけないだろ」






当たり前のように。
至極当然のように、ハッキリとそう言った。
えっ?と周りを見ても皆怪訝そうにこちらを見ている。
「いや、あるだろ?」
「あるわけねーだろ。中忍の願いなんか聞いてたら里がパンクするわ」
「いや、でも」
「あー、極一部の上忍にあるって噂が昔あったな。里に貢献したそれこそトップ中のトップだけな」
どうしたイルカ?と口々に言われたが、何も言い返せなかった。
だって、俺は確かに叶えてもらった。
出立前日、カカシさんに。
そうでなければあの人は何故あのタイミングで俺の前に現れた?



「貴方の、今日限定の、恋人です」



あんなことして彼になんのメリットがあった?
私財なんて処分して何も無い俺と一日付き合って。



「分からず屋」



あの日、彼が何度か繰り返した言葉が頭の中で反芻される。
俺は何を理解していなかったのか。




「なぁ、カカシっていう二十代のこう、髪の毛が箒みたいな奴、知ってるか?」
あの人は何者だったんだろう。名前や年齢や姿は偽造だったのか。俺は一体何とデートしたのだ。
「カカシ?カカシってはたけカカシ?」
はたけカカシ。
俺でも知ってるような里では有名な忍だ。
生きる伝説のような里の誉れ。
その言葉を聞いて俺の心臓がドクンと嫌な音を立てた。
「いや、はたけカカシのわけねーだろ。そんなすごい人じゃなくて、こう、ボンヤリして何考えてるか分からん人」
「いや、まんまはたけカカシだろ。カカシなんて名前ほかにいるか」
「いや、でも」
心臓が酷く大きく脈打つ。
ありもしない制度を謳って俺と一日恋人という名目でいた得体の知れないカカシ。
地位も名誉も金もない俺の傍にいる理由は無いはずだ。
じゃあ、逆に。
逆にそこまでしてまで居てくれた理由はなんだ。
(考えろ。考えろよ⋯っ)
いつの間にか受け身ばかりになっていた。
周りの望まれるまま、相手の顔色を見て動いてた。
自分の考えなんか、そんなこと、思ってもみなかった。
そんな、昔。
ずっと昔。

両親に囲まれて過ごしたあの日々だけだ。

(見ろよ、今を見ろ)
どんな相手だ?どんな状況で何を思った?
片方しか見えない目は、どこか虚ろだった。
虚ろな顔をした俺を、ジッと見ていてくれた。
そうだ。虚ろだったのは俺だ。
周りなんか見ずに意地になっていたのは、俺だ。
彼ははっきりとこちらを見ていた。
(カカシ、さん)

俺なら。

俺ならそこまでしたい相手は、きっと。



「あー、そうなんだ。知らなかったな。あの何とかっていう制度」


その場にそぐわないような呑気な声がした。
「毎回聞いてくるから、そんなものかと思ってたけど限られた人だけだったんだーね」
「カカシ、さん」
そこには額当てを斜めにつけた彼がいつもの調子で立っていた。だが、その姿を見てはたけカカシではないとはもう言えなかった。
隙のないピリピリとした立ち姿は、まさに写輪眼のカカシだった。
「ヤボ用で遅くなってゴメンね。こんなとこいたらイルカが死んじゃうからさ、来ちゃった」
まるで地雷カノジョのようなセリフだが、何だか死ぬほど心強いのは何故だろう。
知り合ってたった一日なのに。
涙が出るぐらい安心できるのは何故だろう。
「こんなところでデートなんかできそうにないからさ、さっさと帰ろうね」
「はい⋯っ!!」
溢れる涙を抑えきれず泣く俺に、カカシさんはニコニコと嬉しそうに笑っている。
周りはポカンとしており、恐る恐る俺に近づいた。
「な、なあ。やっぱり知り合いだったのか?」
「知り合いっていうか、期間限定の恋人っていうか?」
「えーひどーい」
間延びした声では彼の本心は分からなかったが、彼は次の言葉を待っている気がした。
だから俺もジッと彼を見つめた。
もう目の前は開かれていた。



「俺の、愛してる人」




それを聞いて、彼は目を細めた。




□□□□□□□□




それからはあっという間だった。
いつの間にか任務は終わり俺は五体満足のまま歩いて里に帰ってきた。
それだけでも相当すごいことなのに、帰ると俺が危惧していたことがすっかり無くなっていた。
具体的に言うと俺を目の敵にしていた上層部の一族が物の見事に居なくなっていた。
あの三代目だってしがらみでそんなこと出来なかったのに、だ。
もしかしてカカシさんが言ってたヤボ用ってこれのことじゃないのかと本気で背筋がゾッとした。
三代目に報告すると数年ぶりにしこたま怒られた。
カカシさんに口止めしてなかったことを思い出し己の甘さに頭を抱えた。寧ろカカシさんが話を盛って喋っているから必要以上に怒られてる気がする。きっとこれがカカシさんなりの小さな復讐かもしれない。
もう十八歳になるのにこんなに怒られることはあるだろうか。
そして最後に「おヌシは本当に面倒事に巻き込まれるのぅ」と苦笑された。
「だけど俺、幸せです」
そうキッパリ言い切ると三代目は頭を抱えたし、どこからともなく現れたカカシさんには抱きしめられた。





「イルカはすごいよ。オレってこんなに出来るんだって初めて知ったんだよ。オレをこんなに使えるのはイルカぐらいだもん。それって凄いことじゃない?」
カカシさんはいとも簡単にそう言うけど、それって虎の威を借る狐じゃないのかなぁとは思う。まぁ借りるどころか着させて貰ってる気がするけど。
でもそんなことよりこうやってカカシさんとまた一緒に里で歩けることがなによりも大切だと感じる。
カッコつけて死んだところで報われるのは小さな自尊心だけだ。
なくたって生きていける。
今はそんなことよりもカカシさんの方が大事だってハッキリと言える。
「ずっと将来のことなんて考えなかったけど、これからちゃんと考えたいと思います」
「うん。イルカはイルカしかできない特別で偉大なことがあると思うよ」
サラッと当然のように俺を評価してくれる。カカシさんみたいな凄い人にまだ出会って日は浅いけどそう言いきってもらえる俺は、なんだか本当に何か大きなことができそうな気がする。
「まずはカカシさんの飼っている優秀で可愛い忍犬たちを見てみたいです」
「イイね。それから十八禁の映画も、二人でこっそり見てみようか。おっぱいのババロアは終わったけど違うメニューが出てるはずだから今度一緒に行こう。それから幻の酒もキープしてもらってるから、今度こそ堂々と飲みに行こう」
「はい!」
あの日を思い出す。今思うと色んなことが沢山あった初デートだった。
そう。俺のあれが正真正銘初めてのデートだ。
デートとは、つまり、好き同士が出かけること、だ。
「そういえばカカシさんって俺のこと好きなんですよね?」
「はぁあ?」
「いや、一応、意思の確認てきな?通販でも三回ぐらい買いますか?本当に買いますか?って確認されるじゃないですか。分かりますよ、男は背中で語るみたいな?硬派な男は気安く言葉で伝えずに態度で示すんですよね?」
「・・・そうだね、好きな人が死にに行くって聞いて必死で説得して、説得失敗したら外堀埋めまくってからカッコよく登場して戦場をひっくり返すぐらいはスキだよ。ウン、すっごくスキ」
「あ、ですよね。あはは」
「いい?すっごくスキだからね。すっごく、スキ」
「あ、はい」
真顔(殺気付き)で言われるととても告白に聞こえないけど、それぐらい真剣なのだと思うと嬉しいのは何でだろう。
「あの、カカシさん。俺してみたいことあるんですけど」
「なによ。こっちはこう見えて必死なんだから変なこと言わないでよ」





「キスしてみたい、です」






喜んでもらえるかと思ったけど、カカシさんはギュッと眉を寄せて険しい顔で近づいてくる。
箒のような髪が俺の額に触れる。左右で違う目がこちらを見つめながらゆっくりと細くなった。
薄い唇が触れて、熱い舌が下唇を撫でた。
チュッと本当に可愛い音がしてさっきまでの位置に戻る。
「エッチしたい」
「それはもうちょっと待ってください」
「エッチしたいぃ」
「すみません!今のでわりといっぱいいっぱいです!」
「オレだってそうだよ!急に可愛さぶち込まないでよ!」
「俺、今のが初キスです」
「止めて!可愛さ爆発させないで!」
悶えてるカカシさんに悪いなぁと思うがまだエッチは早いと思う。キスしただけで体に変化は起きないけどキスした事実だけで頭がパーンってなりそうになる。凄い。本当に恋人同士だ。イチャパラだ。
ヘヘヘッと笑いながら手を握る。
少しづつ慣れていこう。
俺のこと、すっごくスキなこの人に。
「そういえばいつから俺のこと知ってたんですか?どこかで出会いました?」
そう聞くとフッと小さく笑った。


「分からず屋」


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