先生は真面目だから、上下関係を大切にしている。
決して馴れ馴れしく話しかけたり、触ったりなどしない。
だが、それは皆に徹底していて、上忍であるアスマでも一歩距離を置いている。
オレだけでないと知り、ほっとした。
オレを恐れたりしない。
ただ殺すためのオレに。
奪うことしかできないオレに。
こんなキモチ悪い想いを向けている、オレに。
だが、触れないと知るとますます先生の体を見入ってしまう。
細い指とか、綺麗に焼けた腕とか、色っぽいうなじとか、きゅっと引き締まった腰とか。
オレは一生触れることすら叶わない。
それを望んだ瞬間先生との関係が崩れてしまう。
(ダメだ、ダメだ…)
先生には婚約者がいる。輝かしい未来が待っている。
オレはそれを遠くから見ているだけで幸せだから。
たまに言葉を交わして、稀に酒を飲めれば本当に本当に幸せだから。
それ以上、何も望まない。
だから、この幸せを奪わないでくれ。

(カカシさん、カカシさん)
先生は嬉しそうに、オレのそばに駆けつけてくれる。
澄み切った声で、オレの名前を呼んでくれる。
手をのばすと先生が嬉しそうにその手を取ってくれた。
「せ、先生…っ」
細い指をからませて、頬に寄せる。そして目を細めて口つけた。
先生、イルカ先生。
気が狂いそうだよ。
そんな顔しないで、先生。
そんな優しく微笑まないで。
手放せなくなる。
誰にも、とられたくない。
ぎゅっと力いっぱい抱きしめる。
温かい体温が、オレの体をじんわり温める。
くすくすと笑いながら、先生も抱きしめてくれる。
先生。先生イルカ先生イルカイルカ。
好きです、愛してます。

そこで、目が覚めて、手のひらを見る。
そこには、何もない。ぬくもりひとつない。
あぁ夢なのだと気づく。
どうしてあれが夢なのだ。
あの一瞬があれば、オレはすべてを擲ってもいい。
それぐらい大事なことなのに。
どうして夢なのだ。

夢を見てしまった日は先生の顔をまともに見れなくなる。
いつか同じことをして、先生を困らせたりしないだろうか。
いつか一瞬でも先生に触れられるのではないか。
先生、イルカ先生。
夢に出てくるくらい、先生が大好きだよ。
触れるだけで、例え夢でもこんなに幸せだよ。
先生、イルカ先生。
これが恋なんだね。
これが愛なんだね。
あぁ幸せ。幸せだよ、先生。
先生のこと考えるたびに体が熱くなる。
好きと口にするだけで気持ちがあふれてくる。
決して叶わない恋だけど、その痛みすら心地いい。
こんなきれいな感情があるなんて。
こんなきれいな感情がオレにあったなんて。
それだけでオレはこんなに幸せになれるよ、先生。

なのにあの女。
あの女の言葉で、オレの中で一番きれいな感情がどす黒く変わってしまった。
見ているだけでよかったのに。
たまに話ができるだけでよかったのに。
先生が幸せそうにしているだけで、オレも幸せだったのに。
そのすべてを持っているあの女が、そうじゃないと笑った。
いらないよ。
こんなきれいな感情、オレに似合うわけないじゃないか。
奪うだけのオレがこんな感情持っていたって仕方ないじゃないか。
なら、いらない。
オレはただ、奪うだけだ。
先生の自由も体も心も全部、全部奪えばいい。
泣いて嫌がる先生を押さえつけながら、ひどく興奮した。
あんなに触れたかった腕が、そこにあった。
あんなに感じたかった熱が、そこにあった。
キモチ良い、最高だよ。
ずっとずっとほしかったんだから。
その腕の強さが拒絶でもキモチ良い。
先生への綺麗な感情は、夢とともにどこかへいってしまった。
もう夢は見ない。見れない。


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