彼との出会いは初めて合格を出した上忍師の元教師として出会った。
出会ったときから、彼はきらきらと輝いて他の人とは違っていた。
あとから思えば一目ぼれだったのだろう。
だが、恋も愛も初めてなオレはそれが分からなくてずっと彼を見ていた。
暇な時はずっと。
朝起きて寝るまでずっと。
彼の笑顔が大好きだった。
誰もいない、彼だけの部屋で彼が笑う顔を見ていると、まるでオレに笑いかけてくれるみたいだった。
それをずっと眺めていた。
触れることも話しかけることもしない。
そんなこと考えられなかった。
だがその笑顔が他人に向かられるのが嫌で堪らなかった。それはオレだけのもので他人と共有するつもりはなかった。彼を眺めるたびに、目を閉じて妄想する。
もし、彼が女性だったら。
オレみたいな男でも手が出せる人だったら。
オレから告白できたら、彼女から好きだと言われたら。
そしたら一緒にいれるのだろうか。
あの笑顔を独り占めして、オレだけのものにできるのだろうか。
そうだ。
オレは本当はあの笑顔を独り占めしたかったんだ。
だが拒否されるのが怖かった。
もし嫌われてしまったら、このまだ何ともなっていない関係がさらに悪化したら。
受付で見せてくれる笑顔がなくなったら。
オレは生きていけるのだろうか。
それが怖くて、妄想の中でしか彼に触れられなかった。
そうやって妄想しながらぐるぐるあいまいな世界を渡り歩いてきた。
その彼が、初めて誘ってくれた。
「よかったら、一緒に夕飯でもどうですか」
嬉しそうに向けられた顔はオレだけのものだ。

そこでオレの思考は壊れた。

戸惑う彼を捕まえて、逃げられないよう脅して、彼の自宅に行った。抱いて抱いて抱きまくった。
起き上って憎悪で渦巻く瞳で見上げたときひどく興奮した。
あぁよかった。オレが映っている。
オレだけが。
オレだけだ。
彼を抱きながら、彼女を思った。
拒否される言葉を脳内で彼女に変えて愛を囁かせた。
そうしていかないと心が壊れてしまいそうだった。
そうやって彼を脅して強姦してそれを全部彼女に変換させて、愛し合って満足していた。
幸せだった。
だって、彼はオレだけのものだったから。
狂った関係のまま、それでも誰のモノにもならない彼をみて安心していた。
ある日、一緒の任務がでた。大きな戦だった。
緊迫していて、一瞬の油断も許されない環境だった。
それでも彼がそばにいるのがオレの支えだった。
その夜はひどく綺麗な夜空だった。たくさんの星が流れていた。
彼が空を見ていた。
オレはそんな彼を見ていた。
彼は嬉しそうに目を細めて、口を少しあけて。
その姿が、神々しく、まるで彼を引き立たせるように星が集まっているかのような錯覚を感じた。
その美しさは満天の星など霞むほど美しく、気高い。
誰も、誰にも彼は掴めない。掴んではいけない。
こんなにも、こんなにも美しい彼を、誰も汚してはいけない。
あれはオレのものじゃないのだと、痛感した。
それに気を取られて、敵の気配に気づくのが一瞬遅くなった。それでも彼を庇うように前に出て、腹にでっかい穴あけて、敵の首飛ばしたオレは初めて忍でよかったと思った。
血を吐きながら、倒れこんだオレに彼は初めて抱きしめてくれた。
あぁ、なんて幸せなのだろう。
彼が泣いてくれた。オレを抱きしめてくれた。あんなにひどいことばかりしたオレなのに。
今までたくさん人を殺して、ひどいこともたくさんして、きっと死ぬときは独りでさびしく死んでいくのだと思っていたのに、こんなに幸せな死があったのだろうか。
温かい彼に包まれて、オレは死んでいくのだ。
カカシさん、カカシさんと叫び声が遠くから聞こえる。
大好きな彼の顔が霞んでいく。
あぁ、まずいな。
オレに残された時間はもうほとんどないのだと悟った。
もう怖いものなんてない。
嫌われても、もうオレはそれを感じる前に死ねるのだから。
言わないと。
言えなかった、本当の気持ちを。
「イルカ、愛してる」
愛している、愛している。
世界で一番大好きだ。出会ったときからずっと。
こんなひどいことしてごめん。
どうしていいか分からなかった。
こうでもしないとイルカが誰かに取られそうだった。
ごめん。ごめん。
もし、生まれ変われるのなら。
もし、こんな環境じゃなくて上下関係もなくて一人の人として出会えたら。
今度こそ間違えない。
ちゃんと恋をする。
ちゃんと好きだって伝える。
きちんとイルカに向かい合って対等に生きていきたい。
大好き、大好きイルカ。
イルカ。
イルカ



オレはなんてひどい人間なのだろう。
そんなことすっかり忘れて、自分が作り出した幸せな夢をみて、満足していた。
薄情だと言った彼の言葉を思い出す。
不機嫌そうな顔が一層いびつに歪めらた顔を思い出す。
彼は、どうだったのだろう。
もし、オレと一緒なら。
オレのように前世の記憶を見ていたら。
その内容が、現実のものだったら。
ゾッとする。
もしかしてオレとのことを見ていたとしたら。
幼いころから、何度も何度も。
「イ、イルカ…」
オレは茫然と彼を見つめると、疲れたようにはぁっと息を吐いた。
「だから、思い出さなくてもいいのに」
「だって、こんな」
「前世の話、ですよ」
ガシガシと髪をかく。

「今のあんたじゃない」

なんで、彼はこんなに優しいのだろう。
こんな非道な人間なのに。
ぽろぽろと泣くオレを子どもにするように抱きしめてあやしてくれた。
あぁ昔から見ていた彼だ。
優しい、どんな人にも手を伸ばし、抱きしめてくれる。
オレもその一人になりたかった。
いや、その一人じゃない。特別な一人になりたかった。
「あんたが死にながら約束されましたからね。今度は間違えないでくださいよ」
軽くお腹を殴られる。いたい。
「まぁ間違えてもいいように俺空手習ってますからね。次変なことしようとしたらぼっこぼこにしますからね」
白い歯がきらっと光った。
たくましくなった彼が違う意味で光っていた。
「イルカ、大好き。ずっと一緒にいたい。ねぇ結婚しよう?イルカのためならなんでもするから。お願い」
「あんたは話しが飛躍しすぎです!」
「いいの。もう決めた。イルカ大好き。イルカ、イルカ」
ぎゅっと抱きしめる。
その腕を振り払われたりしない。
強く、オレよりもたくましい腕で抱きしめ返してくれる。
「とりあえず、彼女さんと別れてくれますか?」
「うん」
「それから、極度な束縛は禁止です」
「うーん」
「異常な嫉妬も止めてください」
「んー・・・」
「あと、今俺未成年なので、淫行はダメですよ」
「・・・・・・」
黙り込むオレに困ったように笑った。
だって無理だよ。
こんなにも大好きなのに、それを現せなんて。
「まぁ時間はたくさんあるんです、ゆっくりやっていきましょう」
「なんかイルカたくましいね。惚れ直しちゃいそう」
「ははは。おかげさまで」
こつんと殴られた。やっぱり痛い。
「オレも空手習おうかなぁ」
「止めてくださいよ!カカシさん器用なんだからすぐに俺より上手くなるじゃないですか!」
「んーイルカと組み手するのかぁ。いいなぁ」
「いや、本当。本気で習ったらしばらく口ききませんから」
ブスッとしているイルカの顔がおかしくて、ふふっと笑う。
そうすると、イルカもつられて笑った。
あぁなんて幸せだろう。
想いを口に出せて、彼もオレのこと好きで、大好き同士抱き合って。
それだけで、こんなにも満たされる。
「イルカ」
「はい?」
「イルカはなんで声をかけてくれたの?だってあんなひどいことしたのに、話しかけるなんて」
オレなら絶対しない。
だって話しかければ同じ目に合わされるに決まっている。
そういうとクスクス笑った。
「そんなの」
大好きなイルカの目がこちらを見ている。
あの黒い瞳が情けない顔を映して笑っている。


「ずっと好きだからに決まってるじゃないですか。前世からずっと。ずっと好きです」


あぁ、なんて幸福なんだろう。
夢ならどうか、どうか覚めないでくれ。


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