その日は、大雨の夜だった。

梅雨に入り辺りは蒸し暑く、大雨が安いアパートの屋根を叩きつけるかのように降っていた。ザーザーと降る音は他の音を遮断し、近距離にあるテレビの音すら聞こえない。
仕方がないのでテレビを消し、書類に目を落とした。明日の会議に使う大事な資料だった。
その時、ブワッと大きな風と、雨が吹き込んできた。
まさかどこかの窓が壊れたのかと風の方を向くと、そこは玄関だった。玄関の扉は吹き飛んでなどおらず、キチンとついていた。普段と変わらず。

ーーーただ、来客者を前に開かされていた。

風と雨と共に、人影が玄関の扉を背に立っていた。
嵐のように荒れ狂う雨も風も、彼の前にすれば彼を引き立たせる風景と化す。まるで雨と風を連れてきたかのように共に、俺の玄関から侵入してきた。
身構えることすらできなかった。
彼は、俺が認識するよりも早く、俺の喉を掴み、その場に押し倒した。ポタポタと落ちる雫は雨なのだろうか。
ーーーそれとも、血か。
冷たく長い指が俺の喉を這う。
「弱いね」
それは侮辱めいた声だった。
指だけが器用に苦しむ一歩手前で止まり、それが無言の警告だと思い知る。
「アンタは、こんなにも簡単に倒せる。オレなら五分もかからないうちに指だけで殺せるね」
人差し指が、ゆっくりとくい込んだ。鈍い痛みと血が流れるの感じた。
「こんなに弱いくせに、オレに歯向かったんだ。バカでしょ?」
ハッハッと浅い息で呼吸する。息苦しい。だけど動けない。動いた瞬間どうなるか、それは長い間忍として生きてきた自分が一番よく分かっていた。
「ねぇ、アンタそんなにバカで弱くて生きてる価値あるの?」
彼は可笑しそうに笑う。
クククッと喉で嘲笑う。
「ないよね?ねぇ、ないよね?」
彼は顔を歪め、口だけで笑ったが、目は射殺すかのように鋭く冷酷だった。
顔を近づけられると彼の声が低く響き渡る。それが鼓膜を震わせ、脳を震わせ、体を震わせた。
「だから、オレが使ってやるよ」
そう言うとあいている片手で、服を引きちぎった。そう、俺は彼の片手だけで押さえられていたのだ。圧倒的な力の差だった。
ひきちぎられると、体に彼から滴り落ちた水が濡らし、あんなに蒸し暑かったのにブルブルと震えた。
ハッハッとまた浅い息を吐いた。
「アンタってムカつく。見てるだけで吐き気がする」
そう言うと首から手を退け、齧り付いた。鮮烈で目がチカチカした。
彼の手が、口が、体が。
俺の体を余すところなく犯していった。
「やめろっ!やめろっ!」
そう叫ぶ度に嬉しそうに顔を歪ませ、まるでオシオキのように齧り付いた。それは捕食されるような強さで、刻みつけるかのようにくっきりと俺の体についた。
手を縛られ、それ以前に恐怖で動けなくなった俺を見下ろし、ズボンはゆっくりとむしり取られた。下着も。
上半身での荒々しさが嘘のように、下半身に触れる手は優しく、欲を孕んでいた。それがとても恐ろしかった。
「許してって言って」
全裸の俺を間探りながら、ポツリと呟いた。
「怖い、許してって。そしたらやめてあげる」
それは一筋の光のようだった。
言葉の意味などどうでもよかった。
そう言えば、この突然現れた恐怖から逃れられるのか。
(言わないと)
そしたらこんなコトやめてもらえる。
この恐怖から逃れられる。
彼に平伏し、屈服し、許しを乞えば。
(許す・・・?)
俺が何をしたと言うのか。何を謝ればいいのか。その意味すらないのに頭を下げたところで満足して帰っていくのか。
(俺は間違っていない)
ここで頭を下げれば何もかも台無しになる。俺が何を思って意志を貫いたか、全部無駄になる。
恐怖で屈服するだけの弱い意志ならあの時言うべきではなかった。言うからには責任を伴わないといけない。
でなければあの言葉は何の意味も無くなってしまう。
ぎゅっと唇を噛み締めた。震えてガチガチと鳴る歯を何とかおさえた。
彼はじっと俺の言葉を待っている。
恐怖でしゃくりあげながら何とか声をあげた。

「俺は、間違ってない・・・っ」



その瞬間、確かに彼は笑った。



可笑しくて可笑しくて仕方がないかのように喉を震わせ、目を見開き、笑った。
その禍々しさに、息をするのも忘れた。
「だからアンタはバカなんだ」
笑いながら熱い熱を俺の中に埋め込んだ。
痛くて。
熱くて。
苦しくて。
そして、悲しかった。
「ーーーっ!あぁああーー!あぁああぁ!」
「アンタはそうやって、泣きながら喘いでいればいいんだ」
容赦なく腰を押し付けた。彼の腰が尻に当たる度、体が、心臓が萎縮し、その度に体内に侵入してきた異物の大きさがリアルに分かった。
彼の手はこんなに冷たいのに、体はなぜこんなに熱いのだろうか。
セックスとは、「子どもを作るため」であり「愛情表現」であり「快楽を楽しむ」行為である。そう信じていた自分はなんてお気楽なのだろうか。
これは暴力だ。
弱いものを痛めつけ、侮辱し、屈服させるだけの行為だ。
泣きわめく俺をみて、彼はなんて楽しそうなのだろうか。そしてこんな状況で興奮し続けている彼は狂っている。
「ころ、す…っ」
殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺してやる。
睨みつけるつける俺を彼は愉快そうに笑った。
太股を内側から押さえつけ、めいいっぱい広げながらガンガンと腰を振った。
俺は泣き喚きながら彼を罵り呪ってやった。
下半身の痛みが鈍く重くなった頃、ようやく彼は俺の中から出ていった。ごぼっと溢れるソレは彼の精液か、俺の血か。
ピクリとも動けない俺を見下ろしながら彼はまるでなにもなかったかのように涼しい顔で衣服を身につけた。
「いい眺めだねぇ」
ククッと笑いながら言われたが、動くのも億劫で彼が犯したまま横たわった。
「これから何度でも来るから。ケツ穴洗って待ってな」
それだけ言うと玄関のドアを開けた。外は真っ暗で雨が変わらず降っていた。永遠に感じるようなアノ時間は僅か数時間だった。
「なんで…」
そこまでする必要がどこにある。
こんな、彼の足元のにも及ばない実力しかない俺に、どうしてここまで徹底した暴力をふるわなければならない。
彼は振り返り冷たい目をしてニヤリと笑った。


「イヤガラセ」


それは簡素で明白な理由だった。
その言葉以外似合うものなどないだろう。


あんなにビュービュー吹いてた風も雨も。
全く聞こえなくなった。
その瞬間、俺の世界は彼だけだった。


「アンタは、オレを侮辱した。オレの計画を全部ぶっ壊した。これぐらい当然でしょ?」
フンと鼻で笑いそのまま静かに出ていった。
ドアを閉めた瞬間、止まっていた時が動き出したかのように、またアパートに響くような大雨の音がした。
侮辱?
計画?
嘘つけ。俺が何したところで何も変わらなかったくせに。結局は彼の意見が通って、俺はただ上忍に盾突いた事実しか残らなかった。
そう、なにも変わらなかった。
覆ることもなく、彼らは、ナルトたちは中忍試験を受けることになった。
その結果がこれだと言うのなら、なんてひどい代償だ。
(あぁ、違うな。一つだけ確かに壊れたものがある)
ほんの僅かにあった、彼との交流。
ナルトたちの情報交換として開かれた飲みは、いつの間にか完全にプライベートにまで侵入してきた。
それが、あの日以来ぷっつりと途絶え、そして今完全に失った。
これも全てあの言動の代償なのか。
「う…っ、うぅ…」
体が痛い。痛くないところなんてないかのように全身痛くて痛くて堪らなかった。
特に、心臓が痛い。
串刺しにされ、掻き回され、跡形もなくグチャグチャにされた。
集めてくっつければ、元に戻れるのだろうか。
ゆっくりと起き上がる。
白い精液と赤い血と透明な雨と茶色の土と黒い衣服の残骸。
そして散らばる書類がグチャグチャになっていた。それはまるで俺の心そのものようだった。
彼が確かにいた跡はそこに確かに残っており、それだけでもひどく心にダメージを与えた。
殴るわけでも人前で侮辱するわけでもなく、犯したことに意味はあるのだろうか。
ひどい痕が、まるで烙印のように体に残っていた。
痛い。
痛くて堪らない。
「ーーーぁっ、あぁああーーっ!」
俺は声を上げて泣いた。
それは痛みによる苦痛か。
彼に裏切られた悲しみか。
これからも続くと言われた「イヤガラセ」への恐怖からか。
最も、彼が連れてきた大雨にその声すらかき消された。


中忍試験で衝突してから三日目の夜の出来事だった。



◆◆◆



翌日の体調は最悪だった。
節々は痛かったし、噛み傷は服が擦れるだけで鈍い痛みを伴った。全体的に熱っぽく、何より彼に入れられたソコはジンジンと熱くて痛くて異物感が半端なかった。
幸いなことは人目に触れるようなところに傷がないことだろう。同僚からは顔色が悪いと心配されたが、熱っぽいと言えば信じてもらえた。
これも全て彼の作戦なら笑える。どれだけ用心深く、そして冷静だったのだろうか。圧倒的な力の差を感じ、その恐怖に震えた。
今日の会議で必要だった書類はどうしようも出来ず、一日伸ばしてもらえた。痛む体に鞭打ってなんとか仕上げれば、もう日付けが変わる頃だった。
静かな住宅街を歩く。昨日の雨が嘘のように綺麗な月が見えていた。
腹は減ってるが、どこかへ食べに行く元気も気力もない。非常食のカップラーメンでいいからさっさと胃に入れて寝たい。
フラフラと歩きながら空を見上げる。光り輝く月が今日は一段と大きく正面に見える。
そう言えば昔ナルトが言った。
「月って、何でついてくるってば?」
あの問いは可愛かった。思わず頭を撫でた。
月と同じ色の、金色の髪を。
「お前を見守っているモノはお前が知らないだけでたくさんいるんだよ」
そう言った時の、ナルトの顔。
照れくさそうにへへっと顔をくしゃくしゃにした。時々空を見上げ、月を見てあの顔をしている。それを見た時俺は何とも言えない気持ちになる。
そんな月ぐらいで喜ぶんじゃない。他にもたくさんの人がお前を見守ってくれる。
三代目だって、カカシ先生だって。
ふと浮かんだ顔に、ぎゅっと眉をひそめた。
カカシ先生。
カカシ先生、だと。
そんな風に呼んでいた。ナルトたちが呼んでいるのがうつって。そして彼がそう呼んで欲しいと言って。彼も俺のことをナルトたちのようにイルカ先生と呼んだ。
カカシ先生。
イルカ先生。
笑いながら酒を飲み交わした。ナルトたちのことを話した。お互いのことも話した。最近のことも過去のことも未来のことも。
ナルトは良い先生に恵まれたと笑いあった。

これからも二人で見守っていこうと。

ナルトを特別視し、まるで肉親のように接する俺を諌めることなく、逆に受け入れてくれた。彼もまたナルトを特別視していた。彼の知り合いの子どもらしい。小さな頃から見守っていて、いつかナルトに何か教えてやれたらと思っていたと言ってくれた。でもオレは戦術しか教えられないから一般常識とか教えられなくて困っていたと笑ってくれた。
だから二人で。
お互い補いながら、導いていきたいと言ってくれた。
まだまだ差別が残るこの里で、そんなことを言ってくれる人がいるとは思わなかった。だからあの言葉がどれだけ大きかったか。ようやく重く先の見えない道のりに兆しが見えたと思っていた。
なのに。
『潰してみるのも面白い』
冷たい目だった。
『口出し無用』
卒業したって、特別視したっていいんだよと言ってくれた口で。
無理しないでいい、今度は二人で見守っていこうと言ってくれた口で。

『アイツらはもうアナタの生徒ではない。今は・・・私の部下です』


あの日、俺の想いはバッサリと切り捨てられた。


月を見上げながら帰る。相変わらず月は俺の正面にいた。変わることは無い。あの日変わってしまったのは彼なのか。あの日から変わらないのは俺なのか。
そして今、変わったのは何なのだろうか。
ピタッと無意識に足が止まった。それは忍としての本能だろうか。
月と同じ光が、俺の部屋から輝いていた。
誰かいる。
誰か、俺の部屋に。
肉親のいない俺の家に無断で上がり込む奴などいない。ナルトだって俺がいなかったら帰る。そんなことするような奴は俺の周りにはいない。
いや、昨日までいなかった。
ゴクッと喉を鳴らす。
汗が吹き出してきた。昨日のことを思い出し体は震え出す。
彼がいる。
彼が、俺の家に。
その瞬間頭が真っ白になった。
ただ、無我夢中で翻し、あてもなく走り出した。
あそこへ行っては駄目だ。また犯される。犯される。圧倒的な力を前に俺は。
まるで追っ手から逃げる抜け忍のようだった。
とにかく遠くへ逃げたかった。どこでもいいからとにかく遠くへ。
シャッターの下ろされた商店街を抜け、アカデミーを過ぎ、とにかく走った。息は上がり、足をもつれそうになるのを何度も堪えて。
走って走って走って。

「なーんだ」

ザワっと風が吹いた。気がつけは人気のない林の中だった。目の前にまるで最初からそこにいたかのように圧倒的な存在感で人影が見えた。
辺りは街灯もない林の中なのに。
目の前の人影は顔すら見えなかったのに。
俺は、それが誰なのか嫌という程分かった。
もう足は動かなかった。いや動けなかった。
ゆっくりと進んでくるソレに、もう体は屈服していた。
恐怖で動けなくなるなんて。
そんな恐ろしいモノ、任務でも会わなかったのに。
ゆっくりと近づいてくる。段々と大きくなる人影は俺の目の前にくると俺よりも少し背が高かった。
そう思った瞬間、世界は反転した。
「せっかくアンタの部屋で待っててあげたのに」
首を押さえられたまま押し倒された。

「外で犯してほしかったの?」
それならそうしてあげる。

月の光に照らされて銀髪は金色に染まる。
息すら切れてなかった。
汗の匂いすらしない。
俺に気がついて追ってきたはずなのに。
こんなにも。
こんなにも、違うのか。
彼に勝つことも抗うことも、逃げることすらできないのか。
「逃げられると思ってた?」
土と草の匂いがする。
ただ場所が変わっただけだ。服を破かれうつ伏せにさせられ尻を高くかかげられた。まるでケモノの交尾のようだった。
尻を揉むように撫でられる。
「あーぁ。あんなに可愛かったのに。傷ついちゃった」
吐息が尻に触れたかと思うと、ぺちゃっと音が鳴り響いた。
「ケツ穴洗っとけって言ったのに。・・・アンタの匂いがするよ」
ゾワッと鳥肌が立った。
舐められてる。
彼が、俺のアソコを。
まるでときほぐすかのようにぺちゃぺちゃと音を立てて舐める。
「あ、きゅってなった。感じてる?」
クスクスと笑われる。
羞恥で頭が沸騰するかと思った。
気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ。
まるで準備するかのようなその行為が吐きそうなくらい気持ち悪い。そんなこと不要だ。それに何の意味がある。犯すだけの存在なのに。
違う。ただ犯すだけじゃ物足りないのだ。
もっと屈辱を。プライドも理性も溶かすような快楽を与えて、よがり狂う俺を見て笑うのだ。
そんなこと耐えられない。
「ーーーっ、ぁああ!!」
無茶苦茶に体を動かした。何がどうと言うよりとにかくこの状況を打破したかった。なのに尻を押さえられた俺は起き上がることすらできない。ただ二三度尻が震えただけだ。
「誘ってるの?もう入れて欲しい?淫乱だねぇ」
ぬぽっと彼の指が液体と共に入ってきた。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「入口は狭いけど中は濡れてて気持ちいいね。優しく纏わり付く」
違う。それは排出行為だ。異物を押し出そうとする人間が生まれながら持っている行為だ。決して、決して同性とセックスのまがいものをするためじゃない。
「ほら指三本楽に入るよ」
わざわざ教え込むようにバラバラに俺の中で動かす。異物と疑わない俺の中はソレをぎゅうぎゅうにしめつけ外に出そうとする。
当たり前の行為だ。決して快楽ではない。
快楽などない。
思いこむように何度も頭で反芻した。それ以外考えることをやめた。とにかく心は侵されないようにそれだけを考えていた。
彼の指がモノに変わる。昨日と同じ。気持ち悪くて吐瀉物がこみ上げた。これを女は気持ちイイと感じられるのか。拷問と何ら変わりないこれが愛の営みと同じ行為なのか。ならば女とはなんて偉大なのだろう。
「あぁ、アンタのケツいいよ。クセになる。ぎゅうぎゅうに絡み付いてくるとこなんかアンタそっくり」
侮辱したような下品な言葉を何度も投げかけられた。そしてそれに必死で顔を背ける俺を見て嬉しそうに笑う。
拷問のような時間だった。
終われ終われと呪文のように繰り返す。気が済めば終わる。そんな何時間も続けられるものじゃない。早く終われ終われ終われ。
「・・・っ、ナカ出すから、終わったらちゃんと掻き出しなよ。じゃないとお腹壊すからね」
そう言うと擦れた声と共に中に熱い飛沫が飛び散った。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
腹の中に彼が入り込んだようで、じわじわと内部からいたぶるように侵蝕されているようだった。
泣き腫らした目が痛い。
「明日から三日間任務だから。大人しく待ってな」
自分一人身支度を整えると涼しい顔をしてそう言った。
三日間、いない。
それだけが頭に響く。
「帰ってきたら犯してあげる。アンタが好きなところで足広げてまってな。どこでも犯してあげるから」
それは忠告のようだった。今日逃げた俺への忠告。どこに行ったってどんな場所でも犯すのだろう。人目だろうが関係なく。
力の差はこの二日間でよく分かった。彼は、決して逃がしてなどくれない。どこまででも追い掛けてくる。
逃げられない。
たった二回の出来事で、それを徹底的に叩き込まれた。
自力で逃げるのは不可能だ。
ならばどうするか、彼の不在中に考えておかなければならない。
様々な案が浮かんでは消えていく。どれも現実的ではない。
『イヤガラセ』
彼の言葉が鳴り響く。
あぁ、確かに嫌がらせだろう。



空を見上げれば星がさんさんと輝いていた。
前にあった月も、いつの間にか真上に来ていた。
見守っていてくれていたと思っていた月が、静かに俺を見下ろしていた。



◇◇◇



三日後の襲来は、また大雨の深夜だった。
俺は静かに外を眺めていた。
風の音と共にトントンとドアを叩く音が聞こえた。それは静かな訪問だった。
俺は自らドアを開けた。
任務帰りなのか全身どす黒く汚れたままの姿で俺を見てニコリと笑った。
「イイコで待ってた?」
そんな事を平然と言った。
「どうぞ」
「んー、玄関でもいいよ。汚れるでしょ?」
そう言って伸ばしかけた手をパチンと叩いた。
「汚れが気になるなら風呂でもどうぞ。衣服も使えそうなのは洗わせてもらいます」
そう言うと、彼は目を見開いた。
「なんの心境の変化?えらく従順になって」
その言葉にほくそ笑みならが、正面から彼に向き合った。

「作戦です」

そう言ってニヤリと笑った。
スルリと言い淀むことなく出た言葉はひどく自分の心を満たしてくれた。
彼は目をぱちくりさせている。
きっと混乱しているだろう。彼が思い描いたどの対応とも違うから。
抵抗すれば彼を喜ばせるだけだ。それはあの二日間で学んだ。
だから、別の作戦でいかないといけない。
忍同士、得意な騙し合いをすればいい。力では勝てないのだから、残る手は頭脳戦だ。
俺は三日かけて作戦をたてた。
その作戦は、他人から見ればひどく呆れられるような理解できないものだろう。だけど、俺はこの作戦を思いついた時、未だかつてないほど頭は冴えていた。

彼に一泡吹かせてやる。
そのためなら羞恥もプライドも尊厳も何もかも捨ててやる。

そのためには絶対俺の手を読ませないようにしなければならない。知られればそこでゲームオーバーだ。なんの価値もなくなる。
俺の作戦はタイミングが命だ。そのタイミングを見落とさないようにすればいい。それまではただ、彼に従い、彼を満足させなければならない。
長期戦になるだろう。だが、構わない。
彼に一泡吹かせてやれるのなら。
さすが優秀な彼はすぐさま頭を切り替えて、俺と同じようにニヤリと笑った。
「弱いアンタが何してくれるのか、楽しみだねぇ。ま、そういうことなら風呂でも入るよ」
靴を脱ぎ、俺の隣に立つと耳元に口をよせた。
「今日もメチャクチャにしてあげる」
ゾクリとするような低い声にブルッと体が震えた。その姿に満足すると、迷いもせず風呂場に向かった。

あぁ、そうか。
何度か泊めたことがあった。

それを思い出すと胸にどす黒いモノが渦巻いた。



長いシャワーの音が止み、そろそろ上がってくると感じた俺は静かに寝室へいった。
座って待ってると、まるで生贄になった気分だった。あんなに色々と考えていたのに、さっきまで強気で、作戦を実行するまでは従順でいようと思っていたのに。
手を見ると震えていた。
当たり前だ。あの二日間の恐怖を忘れてなどいない。あの他人に体の中に入り込まれる感覚が今でもハッキリと思い出せる。
入り込んで中から引き出されて埋め込まれてバラバラにされるのだ。
怖い。気持ち悪い。痛い。苦しい。
それでも相手にそれを気が付かせたくなくてギュッと手を握った。
「待ってたの?今日はイイコだねぇ」
気配すら感じず、突然現れた彼に小さくヒッと悲鳴をあげた。
彼は腰にタオルを巻いている状態でたっていた。
白くて美しい体が光に照らされている。
何度も見たはずだった素顔が今日は一段と美しく、不気味だった。
まるで悪魔のようだった。
彼が一歩一歩歩く度に歯はガチガチと鳴り、手は震え、足は逃げ出しそうに暴れる。それを必死で抑えながらも彼の顔から目を反らせなかった。
彼は近づくと俺の横に座った。
髪の毛から水が滴り落ちる。
その感触にビクッと震えると、クスリと笑われた。
「イイコにしてたら、痛いことはしない。痛いの嫌でしょ?」
ガクガクと震えながら頷くとフフッと耳元で笑った。とても愉快そうだった。
「服脱いで足広げな」
言われるがまま足を広げた。羞恥などなかった。今は従ってさえいればいいのだから。
彼は俺の股間に顔を埋めた。
「うん。綺麗に洗ったね。石鹸の匂いがする」
「ーーッ、ひぃ」
ぺろっと何の躊躇もなくソコを舐めた。彼の触れた手や体は冷たく、冷水を浴びていたのかと思うぐらい冷たかった。
「今日はアンタに土産がある。コレ何かわかる?」
取り出されたのは小さな小瓶だった。見たことがないが、きっと液体が入っているのだろう。
「クスリ・・・」
「そう。媚薬。ちょっと任務で必要でね、オレも使ったの。まだ抜けきれなくて・・・分かるよね?」
つまり抜け切るために相手をしろというのか。普段でさえひどいのに、薬の効いた彼はどんなのだろう。そしてその相手を務めるために彼のように薬が効かない人でも効くような薬を俺も飲まされるのか。
媚薬は軽いものしか飲んだことがなかった。効きすぎるとドクターストップがかかったのだ。それ以来飲んだことがない。
「の、飲まなくても、ぁ、いてしますから・・・っ」
「んー?でも薬を飲んだオレの相手するの大変だよー?飲んだ方が気持ちイイし、すっごく濡れるしね」
「俺、効きすぎるから・・・」

忍は例えどんな状態でも己の弱点を言ってはいけない。
さらけ出した瞬間、そこを狙われるのは当然の摂理だ。

どうしてそのことを忘れてしまったのだろうか。
そう口にした瞬間、彼はニタリと意地悪く笑った。

ヒュッと喉がなった。


彼は口で小瓶の蓋を開けると自身の口に含んだ。
全部口に入れると、俺を見下ろした。
ゾクッとするような色気と、狂気を含んでいた。
そのまま頭を押さえられて唇を重ねた。彼の舌が液体と共に口の中に入ってきた。
あまりのことに口を閉じることも出来ず、促されるまま液体を喉に通し、舌に絡まらせた。
口の中にあった液体を飲ませるとゆっくりと口を離した。そして口の端から溢れた液体を丁寧に舐めた。
人生二度目の媚薬は花の蜜のような味がした。
甘い甘い、禁断の果実のような。
ジワリと体が熱くなってくるのがわかった。即効性だ。ドクドクと心臓は高鳴り頭が真っ白になっていく。

「アンタなんか狂えばいい」

媚薬のように甘い声がする。
僅かに残っていた理性が彼の形を捉えた。
何て顔してるんだ。
ポロッと涙が溢れたのを感じた。
俺の意識はそこまでだった。




目が覚めると辺りは夕方だった。
まさか一日寝ていたのかと慌てて起き上がり時計を見ると日付があの夜から二日後だった。
二日間も眠っていたのか。
記憶を辿るが、媚薬を飲まされてから後が一切記憶になかった。薬の副作用だろう。その代わり下半身は怠かったが、前のように強い痛みはなかった。
辺りを見渡すが、勿論彼はいなかった。
居間も彼が来る前の姿をしており、まるでこの二日間何も無くただ時間だけが過ぎていったかのように思えた。
洗濯物もからっぽで彼のいた痕跡はない。
奇妙なことに腹も満たされ、体も綺麗だった。
まるで白昼夢のようだ。
(仕事、どうなったんだろうなぁ・・・)
今からでも式を飛ばすべきか、そもそも今すぐにでも行くべきか悩み、怠くて億劫になった。もうここまできたなら仕方ない。明日まとめて謝ればいい。
ふと台所を見た。綺麗に片付けてあり、いつものように炊飯器に明日分の米がセットされていた。
いつもと変わらない。
だが、流しに二つ並べるように湯のみが置いてあった。俺が普段使っているものと、来客用の湯のみだった。



◇◇◇



それから一週間彼は姿を現さなかった。


珍しく定時に終わり、久々に自炊でもするかと晩飯の材料を買い込んで部屋に入ると当然のように彼が居間に座っていた。
「遅かったね」
心の準備が出来ておらず固まる俺に、彼は気にもせず近づき、スーパーの袋を取った。
「もう少し遅かったら迎えに行こうと思ってたこと」
つまりもう少し遅かったらスーパーで犯されていたかもしれないと言うことか。
ブルッと背筋が震えた。
「こ、られるなら・・・っ、早く帰ります」
知らなかったのだと言い訳みたいなこと言うと、どうでも良さそうにひらひらと手を振った。
「別に?怒ってないよ。イイコにしていたみたいだし?」
それは何を指して言っているのだろうか。
最近どこも寄らずに帰っているところか。
誰にもつけ口しないところか。
それとも・・・。
彼から袋を取るとそのまま台所へ向かった。食材を全部冷蔵庫へ入れた。
今日はカップラーメンになりそうだ。
「準備しないの?」
呑気そうな声が聞こえる。
「貴方が来てるのに無視して俺だけ晩飯食うのは」
「待つよ」
待つのか。俺が晩飯食うのをそばでじっと待ち、片付けして風呂入るまで待つというのか。
そんな鉛のような飯を食うぐらいなら彼が帰った後即席めんでも食べた方が何倍も旨い。
勿論そんなこと言えず、小さく息を吐いた。
「いいです」
「いいから」
「俺だけ食べろって言うんですか」
「邪魔しないで待ってるよ」
「俺だけ食べるなんてできません。・・・あ、よければ一緒に」
そこまで言ったところで、凄まじい殺気を感じた。
体が震えさえできず、呼吸すらできない。俺のありとあらゆる機能が停止したかのようだった。
唯一見える右目がギラギラと光っていた。

「それ以上言ったら殺す」

それだけ言うと立ち上がり玄関へ向かった。その間も禍々しい殺気を放っていた。
「二時間後来るから」
バンッとドアを閉めた。彼の気配がなくなってようやく息ができるようになった。
ハァハァと浅い呼吸を繰り返す。
何か気に触ったのだろう。それは分かったが、その原因が分からない。俺はどこに逆鱗を触れた?それが分からなければ、きっとまた繰り返してしまう。
だからこそ原因を判明したいのに、俺にはさっぱり分からなかった。俺は呆然とその場に動けなくなった。
きっちり二時間後に来た彼は、殺気はなかったが不機嫌な表情のまま、無言で俺をメチャクチャにした。




彼がこんなにも気性の荒い人だとは思わなかった。
地雷があっちこっちに埋まっているのにその回避の仕方も踏んでしまった対処の仕方も分からず、俺は何度も彼の逆鱗に触れた。
彼は不機嫌になると殺気を放ち無言になる。そしてセックスも荒々しくて、まるで口で言えない苛立ちをそこにぶつけているようだった。
それでもその苛立ちは翌日になると消え、次会うときには何事もなかったかのようだった。ただ、彼に理由を聞くのは躊躇われた。だから、あの媚薬を飲まされた日のことや、何が逆鱗に触れるのかはさっぱり分からなかった。
失言をしないようにと口数を減らせば、喋ろと催促された。そうして何度も地雷を踏んでしまった。
だが、人間は適応する生き物なのか三ヶ月経つと段々と慣れて来た。
彼は不規則にふらりと深夜に来て朝起きるといなかった。媚薬はあれ以来使われないが道具は使われた。気絶するまで攻められることもあれば一度で終わりさっさと帰るときもあった。
俺の体は媚薬を使われて以来、後ろで感じるようになっていった。それは彼をとても喜ばせた。
彼が深夜に現れても驚かず、震えなくなった九月のある夜、見慣れない式が届いた。
名前などなくただ場所を指定されたその式は誰のものかすぐ分かった。呼び出しなど初めてで何をされるのかと嫌な予感がした。その指示された場所は人里離れた何も無い所だった。
だが行かないという選択はなかった。
俺は支給服に着替えて指定された場所に向かう。
指定された場所は人の気配すらなくとても不気味だった。何をされるのかそればかり考えていた。
まだされてないことは沢山ある。
例えば、輪姦とか。獣姦とか。
そう思っただけでゾッとした。
人里離れた場所にわざわざ呼び出すとは人目に触れられたくないからだ。それはきっと恐ろしいことだろう。
俺はまた何かやらかしたのかとビクビクしながらそれでも前へ進む。
最後に会ったのは三日前。特に何もなかったはずだ。いつものように深夜にきて、二度ほどイった。あぁそういえば帰るとき、いつもはさっさと帰るのにその日は何故か口をモゴモゴとさせていた。何か言うことがあるのかと身構えたが、それが音になることはなく、小さな溜息をつくと帰ってしまった。
その時問わなかったからいけなかったのだろうか。「なんですか?」と一言言わなかったのが悪かったのか。だからこんな所に呼び出すのか。
ぐるぐると考えていると、ふと血の匂いがした。人の気配はないのに確かに匂った。それは奥に進めば進むほど強くなり、ようやく人の気配がした時は死体と間違えるかのように真っ赤な人が倒れていた。


それは彼だった。


暗部の服を着て狗の面をしていたが、全身ボロボロだった。彼の特徴的な銀髪は薄汚れており、脇腹はぱっくり切られていて特に酷かった。
ドクドクと心臓が高鳴るのが分かった。無意識に生唾を飲んだ。
冷や汗をかきながらゆっくりと近づく。
まさか、死んでいるのか。
息を確かめようと面に手を伸ばした。ゆっくりと外すと青白い顔が見えた。
その瞬間、目がカッと開き俺に焦点が合うと、ニコッと笑った。

それはとても幸せそうな無邪気な笑みだった。

そんな顔見たことなかった。こうなる前も、こうなった後も。
突然の笑顔にひどく動揺した。
「本当に来たんだ」
「貴方からの呼び出しだったので」
「偽者かもしれないのに」
「俺が見間違うとでも?」
そう言うとフフッと嬉しそうに笑った。
「だからアンタはバカなんだ」
「お好きに」
「怒らないでよ。絶好のチャンスに呼んであげたのに」
「絶好のチャンス?」
何のことだと目を細めると彼は更に笑った。


「オレを殺せるチャンス」


高らかに歌うようにそう言った。
「アンタこのチャンスを狙っていたんでしょ?力では勝てないから弱るのをずっと待ってたんでしょ?だから従順なフリしてオレの傍にいたんでしょ?過酷な任務に行ってるオレがいつ瀕死になるかジッと待ってたんでしょ?」
興奮しているのか声はいつの間にか叫んでいた。大声を出す度に脇腹から血が吹きだしたが痛がるそぶりを見せず寧ろ楽しそうにそう言った。
自分が殺されるのがそんなに嬉しいのか。
そんなに殺されたいのか。
誰でもない、俺に。
いや、誰でもいいのかもしれない。
フツフツと湧き上がるのは憤怒か憎悪か侮蔑か。
殴り飛ばしたいのをグッと堪える。こんなのでも病人だ。殴るのは治ってからでもできる。
馬鹿にするな。
馬鹿にするな。
死を待っていただって?
瀕死になったところでトドメを刺すとでも思ったのか。
馬鹿にするな。

馬鹿にするなっ!

「貴方を殺せば俺は里から追われる立場になる。里から逃げ、追い忍から怯える日々になる。俺がそれを望んでいると本当に思ったのですか!」
そう言うと嬉しそうだった笑みはピタッと止まりじろりと睨まれた。不機嫌そうな顔だった。
「アンタつまんないね」
「お好きに」
「つまんないよ。バカだねぇ。バレずに殺すことだっていくらでもできるでしょ?」
「そんなに死にたきゃひとりで死んでください」
「それじゃあ意味ないでしょ」
バカだねぇといいながらむくりと起き上がった。どうやら今までのはポーズらしい。と思ったが腹の傷は本物だし、起きる時に足をかばっから怪我はまだ沢山ありそうだ。
「おぶって」
「何言ってるんですか。早く医療忍呼ばないと」
「病院までおぶってくれればいいでしょ?一々他の人の手を煩わさないで」
「そう言う問題の怪我ではありません」
「煩いな。さっさと運んで。誰か呼んだらあることない事言うから」
何だそれは。脅してるのか。
ギッと睨むが、まるで効果がなかった。
俺の言うことなど聞くはずないことはよく知っているつもりだった。まさかこんな状態でも自我を貫くとは天晴れだ。
もうどうでもよくなっていつものように彼に従った。なんだかその為に呼ばれた気がする。
背負うとそれなりに重く、体は硬かった。体臭はしないが血の匂いにむせそうだった。
なるべく揺らさないように一歩一歩気を使って歩く。正面には大きな月がでていた。
そうか今日は十五夜だった。
彼とのこんな関係ももう三ヶ月続いているんだ。そりゃ慣れるよな。とどこか他人事のように思った。
ハッハッと浅い呼吸音がした。やはり苦しいのだ。当たり前だ。半分死にかかっているのだ。
もし、俺が行かなかったら。
そう思うとゾッとする。
簡単に死んでもらっては困る。俺はまだ必死に反逆の機会を狙っているのだから。
じゃなきゃこんなのただの茶番だ。
死ぬな死ぬなと呟きながら病院へ目指す。
遅い足、揺らすなと自分を叱る。何で俺など呼び出すんだよ。どのぐらい待っていたのか知らないが、その時間があれば確実に助かるのに。
死ぬな死ぬな。
まだこんなことで死ぬんじゃない。
息を切らせながら走る俺に彼はクスッと笑った。余裕のある笑みだった。
「ねぇ、もしさっきアンタがオレを殺そうとしたら」
低く擦れた声で耳元で囁かれた。
それは時々発するアノ時の声のようで。
ひどく熱を帯びた色気のある声だった。
彼は右手をゆっくり動かし、俺の首を撫でた。


「死ぬ瞬間、アンタを殺してたよ」


その声は静かではっきりとした声だった。
冗談でも脅しでもない、まるでただ真実のみを伝える機械のようだった。
くだらない。
そんなことして、果たして何の意味がある。
アンタが死んで、俺が死んでその先に何があるというのか。
心中なら真っ平御免だ。
一緒に死んだって誰も救われない。
何も変わらず、世界はいつものように動く。
「俺を殺したところで何も変わらない」
キッパリと言い切ると、どこか嬉しそうに首を撫でられた。
「変わるよ。アンタがこの世から消えてくれる」
「殺したいんですか?」
「んー。どうだろうねぇ。今は違うかな」
クスクスと本当に可笑しそうに笑った。


「今はオレも、死にたくないし」


今は、という言葉にひっかかったが、死にたくないなら良かった。とりあえずその大怪我を治す気力はありそうだ。
少し足を早めながら前へ進む。

「死んだら困る」

俺がそう言うと彼は何も言わなかった。
ただ伸ばした腕に一度力を入れた。
「死んだら困る」
何度も繰り返すとその度に力を入れてくれる。それが生存確認のようで、声のない会話のようだった。
死んだら困る。まだ彼にはしてもらわなきゃいけないことがあるんだ。


「アンタはバカだね。オレを殺しそこなって。・・・もう逃がしはしない」


背中からフフッとどこか嬉しそうに笑った気がした。
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