脳みそをかき混ぜられているようだ。
頭がポーッとなる。
体に流れる血は全て下半身に巡っていくようだった。
「コレはね、女に入れなくてもとっても気持ちイイんだよ。オレならイルカが自分でスるよりずっと良くしてあげる」
そういいながらねっとりと舌を這わす。輪郭をなぞるように全体を撫で回す。
初めて感じるその快楽に思わず「はぁあぁぁっ」と声が出た。
全身を包み込む熱と、うねうねと動く舌、そして時折感じる吐息。どれも腰にキて無意識に腰が揺れた。するとその動きに合わせてカカシさんが前後に動く。深く口に含みチュウチュウ吸われたり、先端だけを舌で撫で回されたり。どれも男の性を熟知しており、それだけ数をこなしてきたのかと思うとギュッと心臓を握りつぶされるようだった。
「どうしたの?痛い?ちょっと夢中になりすぎたかな」
カカシさんは手で扱きながら顔を近づけて聞いてきた。その手の使い方も上手くて、気持ちイイのにポロポロと涙がこぼれた。
「だって、カカシさんうまいから・・・っ」
「は?」
「恋人いないって言ったくせにぃっ」
やっぱり嘘だったんだ。本当はモテモテで女とも男ともたくさん経験していて。

たくさん、愛してきたんだ。

それの何が悲しいのか分からないけど、とにかくそれが理解して悲しくて堪らなかった。
そう言うと眉を顰め、頭をガリガリと掻いた。
まるで面倒くさそうなその態度に泣きそうになる。何で、急にそんな態度とられるのか分からない。さっきまであんなに優しかったのに。
「カカシさ・・・っ」
ギュッと肩を掴むと、色違いの目がこちらを睨んだ。

「なんでアンタそんなにオレ好みなワケ!?」

あーもー限界!と叫びながら尻をグイグイ触ってきた。
「オレがどれだけ我慢してるか全っ然分かってないよね!分かってないからそうやってオレのこと無意識に煽ってるんだよね。可愛い、すっげー可愛い。もームリ、限界。オレはね、イルカ」
くちゅっとどこかで濡れた音がした。

「こんな偶然、絶対逃がさねぇ」

低い声にゾワッと全身が震えた。
「っ!やぁぁああっ」
体内に自分ではない、何かが侵入してきた。
ゆっくりと確実にナカに入ってくる感じは未知の感覚だった。恐怖であったが、それ以上に何か分からない、湧き上がる激情にただひいひいと息を吐いた。
「入口はキツイけど、ナカは気持ちよさそう」
「カカシさっ、やだぁっ!」
「ん、足閉じないで。大事なとこ見えない」
そう言って俺の手で足を開かせる。あまりの羞恥に頭が追いつかない。
「カカシさん、やっ、恥ずかしっ」
「なんで?」
なんでって。
だって。
だって。
「見てるのはオレだけだよ」
カカシさんが耳元で囁く。
「ここにいるのは二人だけ。誰も知らない。イルカがどんなにえっちで可愛いかなんてオレしか知らない」
甘い声で誘うように。

「世界にはオレしかいないんだから、イルカはただオレに愛されて。オレを愛して。それ以外何もない」

そう言われて。
理性のストッパーがガラガラと崩れていくのが分かった。
もうすぐ死ぬのだ。
俺も、カカシさんも。
何に、誰に、遠慮することがあるんだ?


世界は二人きりなのに。


「カカシさっ、俺っ何にも分からなくてっ」
だけど彼が望むならと、足をめいいっぱい広げる。そうするとカカシさんは嬉しそうに笑って頭を撫でてくれた。
「全部オレが教えてあげるよ。ほら、ナカで動くと気持ちイイでしょ?」
「分かんなっ」
「そのうち堪らなくなるよ。ほらイルカの舐めてあげる。これは気持ちイイでしょ?」
れろーっと下から上へ舌が這う。上に到達した時、蜜が溢れるのが分かった。
「んんっ、きもちい」
「チンコ舐められるの好き?」
「すきっ、チンコ舐められるの気持ちいいっ」
「ん、可愛い。えっちなイルカ大好きだよ」
大好きと言われてキュンとなる。
もっと言われたい。
もっと愛されたい。
ねだるように彼を掴み、キスをした。
「ん・・・っ」
彼の舌が愛撫するように動く。
するとブワッと温かいモノが胸から溢れ出てくる。
それは今まで感じたことのないモノだった。
心地よく穏やかなのに激しく体中を駆け巡る。溢れ出ていくほどあるのにもっともっと欲しくてたまらない。
あぁ、そうか。
おれは嬉しくなって、無意識にポロッと涙が零れた。

あぁ、これが。
これが、恋か。

「カカシさん、すきっ、すきぃ」
そういうと、カカシさんは蕩けそうな笑みで俺の頬にキスしてくれる。
「イルカ」
「好きですっ、すき・・・」
「ん、ありがと。大好きだよ」
そう言った瞬間、指を抜いた。
え・・・、と思う前にゴリッと熱いモノが入口を撫でた。
「ごめんね、限界」
そのまま一気にナカに押し入った。
「ーーーーーっ、ああぁ!!」
「あーすごい。相性バッチリだね」
パンパンッと腰がぶつかる音が部屋中に響く。ガンガンと休むまもなく生み出される快楽に目がチカチカして息を吸うのもやっとだった。
「あんっ・・・あっ、あっ、あっ」
「涎垂らして、かわいー」
もう何をされているのか、自分はどうなっているのか、まったく分からなかった。ただ押し寄せてくる激情に身を任せていた。彼はひたすら俺の体を貪った。
気がつくと彼が上から覆いかぶさり、嬉しそうにしていた。荒い息と流れる汗をみて彼の必死さを感じた。
「気持ちよかったね」
そう言って笑うから、俺も嬉しくなってニコッと笑い「気持ちよかったです」と答えた。
「かわいー。もーどれだけ理想通りなの」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、厚い胸板に顔を埋める。汗でしっとりとしてる肌は白くまるで雪のようだった。
(もしかしたら俺は雪の中に遭難してて、これはただの夢なのかもしれないなぁ・・・)
そうなら、なんて幸福な夢だろう。
このまま寒い現実には戻らず死ねれたら、なんて幸せな最後だろう。
そう思ってくると、崩壊した理性は塵と消え、本能のままに脳が動く。普段なら絶対しない、ベタベタと甘えてキスを繰り返した。今まで忍であれとひたすら律していた己はどこにもなく、ただ人間らしく己の欲望のまま動く。
「カカシさん、もっと」
「んー、もっと?」
「もっと、ぎゅーしてください」
そう言うと、彼は本当に嬉しそうに笑うから。
俺は限度なしに、もっともっと甘えてしまう。
「カカシさん好きです」
「オレも好きだよ」
「でもカカシさん、すごく慣れてた。本当は付き合ったことあるんでしょ?」
「かわいーなー。ヤキモチ?男としたことなんてないよ。全部自主トレっていうかイメトレ?だってイルカとスるのに痛いと可哀想でしょ?」
冷静に考えてみればおかしな返答だった。だってこの任務で初めて出会い、つい数時間前まで上司と部下だ。まさか任務中妄想していたぐらいであんなに上手くできるはずない。だが、その時正常な思考ができない俺はただ「俺のために」ということしか頭に残らなかった。
「嬉しいです。カカシさん、俺たちずっと一緒ですよね」
「勿論、ずっと一緒だよ。死ぬまでずーっと」
死ぬまで。
それはあとどれぐらいだろう。
どれぐらい俺はこの人と一緒にいれて、愛せて、愛されるのだろうか。
この人に何が残せて、どれぐらい幸せにできるだろうか。
残された時間は、決して長くはない。
一瞬も無駄にはしたくなかった。
「カカシさん・・・」
ギュッと抱きしめるとなにを勘違いしたのかもぞもぞと下半身を触ってきた。
「カ、カシさ・・・?」
「休憩終わり。二回戦しよっか」
そう言って目をギランとさせた。


そこからの記憶は曖昧だ。
濃厚で淫靡な世界だった。
「恥ずかしい」と言えば「恥ずかしくない」と更に恥ずかしいことをさせるし、「気持ちいい」と言えば「もっとキモチイイコトしてあげる」ともっともっとシてくれた。
知らなかった世界の殆どを知れたのではないだろうか。
そしてぐずぐずと甘えさせてくれた。優しく体を撫でたり、髪をとかしたり。腕枕も初めてだし、誰かと一緒に寝るとこんなにも心地いいのだと初めて知った。
カカシさんのことも知った。幼い頃から優秀でだけど同じぐらい苦悩して挫折して大事な人を失って。一人ぼっちで寂しく生きてきたのだと。


何も考えなくていい、何も縛られないセックスは自由で気持ちイイ。何も考えずにこのままずっとシていければ・・・。

だが、少なくなっていく体力が、現実を呼び起こさせる。

もう体力はほとんどない。回復するための食料もほとんどない。あるのは兵糧丸一つだけ。
これは、カカシさんにあげようと思って大事にとっていたモノだ。
ふふっと笑う。
これで少しはカカシさんが回復してくれる。偶然にも外の嵐は少し治まってきた。
このまま体力温存していたら、もしかしたらカカシさんだけでも生き残れるかもしれない。
腕を上げるのも億劫なほどになってきた。
俺はこのまま、この幸せの夢のまま、死んでいけるのだ。
カカシさんは、きっと生き残るだろう。この兵糧丸があれば。
そして一人で里に戻り。
世界に人が溢れれば。
そしたらこんなちっぽけな世界などさっさと忘れて、新しい恋人を、今度こそ本当に好きな人を作って愛していくのだろう。
そうだとしたら、そんな場面を見なくて死ねるのだから良かったなぁ。
目が霞んできた。
早く言わないと。
俺の服の中に兵糧丸があると。
それを食べて、どうか一人でも生きてほしいと。
「カカシさ・・・」
「あれ?イルカもう体力切れ?」
俺のナカに入れてから一度も抜かないまま俺を見下ろした。
なんだかあっさりと言い切る彼に寂しさを感じる。
もう食料はないことになっているのに。体力切れ=死なのを知らないわけではないのに。
(俺が、死んでもいいのか・・・まぁこのまま死ぬ運命だけど・・・)
それは寂しさであるが、当然でもある。彼は死を悟っているのだから。
「すみません。限界です」
だからこそ、彼に生き延びて欲しくて、兵糧丸の在り処を伝えなければならない。
「あの、俺のポケットに」
「えーっと、あ、これこれ」
カカシさんは自分の服を漁るとどこからともなく大量の兵糧丸を出した。

「これオレ特製。元気になるよ」

え?
混乱して頭が真っ白になっている俺に気にせず、兵糧丸を口移しで食べさせてくれた。
普段とは違う苦味があるが、すぐに体力が回復していくのが分かった。
でも、え?え?
いや、ないなんて一言も言ってなかったけど。寧ろ持っていて当たり前だけど。だけど、俺が食料をこれしかないと言った時、哀しそうな顔をしたからてっきり・・・。
それだけ兵糧丸があるなら、もしかして生き残れるのではないのか。
思わぬ可能性に消えていた理性が甦ってくる。
いや、でもこれを持っていても死ぬってカカシさんが判断されたのだ。彼が嘘をつくわけない。ならば、やはり死にゆく運命なのだ。
俺が大事に彼のために取っておいた兵糧丸も、俺の浅はかな考えも、全部無駄だったんだ。
(じゃあ、やっぱり・・・)
カカシさんも、ここで死ぬのか。
このままこんな極寒の地に、二人きりの世界の中で。
ポロッと涙が溢れた。
苦しくて切ない。
それはなんて虚しくて、悲しくて。

甘美なことだろうか。

軽くなった腕を彼の首元に絡める。
もう誰にもこの人を取られることない。それが全てだ。
それが、全てだ。
「ん、元気になった?じゃあ続きね」
そう言って顔を埋める彼に抱きついた。それ以外何も考えたくなかった。





日が照りつけるのがわかった。
外は晴れている。嵐のような吹雪は終わったのだ。
あぁ、空が白く見える。
もうあれから何日たったのだろうか。
寝るか、セックスするか、穏やかに抱き合うか、気絶するまでセックスするか。
すごい日々だった。
こんなことがなければ考えられない世界だった。
彼の体の傷を全て覚えられるほど抱き合った。
彼の半生も聞いた。
今なら確かに誰よりも彼のことを知っていると豪語してもいい気がした。
「んーーっ」
カカシさんは背伸びをするとコキコキと固まった首を回す。そして外の景色を見ると「あーぁ」とどこか残念そうに呟いた。
「あと一日ぐらいのんびりできるかと思ったけど」
そう言って起き上がると早々に服を身につけた。
それだけではなく荷物を纏めている。
「カカシさ・・・」
「あ、イルカ起きてたの?体辛いでしょ?昨日は騎乗位頑張ってくれたからね。・・・スッゴクヨかったよ」
低い声とともにねろっと耳を舐められて、彼の愛撫に敏感になってしまった俺はそれだけで感じてしまった。
そのまま耳をしゃぶられ、甘噛みされて、息が上がった俺を押し倒すと、「あーダメだ」とひどく残念そうに体を起こした。
いつもならそのまま第一ラウンド始めるはずなのに。
どこか期待した目で見上げると、一瞬眉を顰められ、頭を撫でられた。
「えーっと、ざんね、・・・いや、幸運なことに天候が回復したから、なんとか下山出来そうなんだよね」
「・・・・・・え?」
それは思ってもみない言葉だった。
下山できる?
それってつまり。

つまり、生きて里に帰れることなのか。

不思議だ。
どこかで諦めきれなかったのに。
いざ、その場面になると、何の感情もなかった。
「そう・・・ですか・・・」
この人と、カカシさんと、生きて帰るのだ。
生まれ育った里へ。
それは同時に別れと同じだった。
この甘い時間とも。
この優しい恋人とも。
あぁ、確かに最後の恋人だったなぁ。
だって俺はこの人以上に人を好きになる自信などない。
きっと死ぬまで彼のことを思っているだろう。

彼が好いてくれなくても。

その証拠に、彼はなんの感傷もなく、荷物を纏めている。躊躇いもなく、ただ帰ることに期待して。
あぁ、世界に人が戻ってくる。
世界はまた人で溢れ、俺なんかその中の一人になる。何の変哲もない、階級も低い俺は、きっと世界に埋もれ、有能な彼の目にはうつらなくなる。
この恋人関係も、世界に俺と彼がいないからこそ生まれた関係だ。
人か溢れかえる世界には、そんなモノないも当然だ。
そしたら、俺は・・・?
以前の生活に戻るのか。
誰もいない部屋で、昔あった両親との思い出を夢見つつ、一人で暮らしていくのか。
一人のベッドで眠れるのか。
(あ、れ・・・?)
どうしてだろう。涙があふれる。
嬉しいはずなのに。
生き残れると分かっているのに、なんで全然喜べないのだろうか。
「あ、でも俺動けなくて・・・」
気がつくとそんなことを言っていた。
でもこのままだと足でまといになるし、などとここに残れるのように言い訳がつらつらと浮かぶ。
ここに残れたらいいのに。
そしたら、この二人の世界で静かに幸せに死んでいけるのに。
だけど彼はにこりと笑って。
「大丈夫だよ。オレが背負ってあげる」
得意げにそんなこと言った。
その優しさに何だかズクリと胸が痛む。
その優しさは、恋人に対して?
それとも。
それともただの同胞の仲間として・・・?
「いえ、俺は足でまといになります」
「何言ってるの。ひとり背負うことぐらいどうってことないよ」
「またいつ天候が悪くなるか分かりません。回復しない俺なんかなんの役にたちません」
「もぅ、強がらないの。イルカは寂しがり屋なくせに意地っ張りなんだから」
嬉しそうにそう言った。

俺のこと何でも分かっているような。

そんなこと言われれば、逆らえない。
だってきっと彼は分かっている。
「ほっといて」と言ったって、それは本心ではないことを。それは「置いていかないで」の裏返しだ。きっと言えば言うだけ本心を暴露してしまう。
それだけ一緒にいたのだから。
「・・・はい」
俺は素直に彼におんぶされた。
広くて温かい背中だった。
もういい。
生きてる限り、俺の体は里のモノだ。
それだけだ。
彼の背に隠れて、少しだけ泣いた。


外は白で埋め尽くされていた。
雪だけだ。世界を一色で染め上げられるのは。
険しい道に彼の足跡だけが残る。
こうしていると、世界に二人だけのような錯覚になる。
「重くないですか?」
「大丈夫だよ。イルカこそ体辛くない?大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
優しいなぁと思った。こんなときでも俺のことを気遣ってくれる。
ぎゅっ、ぎゅっと雪を踏みしめる音が鮮明に聞こえた。はぁっと息を吐くと冷たいのにどこか清々しい。
そっとポケットを触った。
そこには兵糧丸が一つだけある。
これはカカシさんの分だ。二人で空腹になった時、彼に差し出そう。俺はいいから、と。
生きてほしいから。
貴方が大好きだから。
ずっとずっと大好きだから。
「寒いと鍋が食べたくなるよね。イルカは何が好き?やっぱり〆はラーメン?」
「あ、そうですね」
「おでんもいいよね。大根なんて普段そんなに食べないのにおでんの時だけは主役にみえるもんね」
「そうですね」
「今年は炬燵だそうかな。あれ出すと動けなくなっちゃうけどやっぱり寒いのよりはいいよね」
「はい・・・」
「それでさ」
カカシさんはくるりと後ろを向いた。
その顔は寒さゆえか頬と鼻が真っ赤だった。白い肌に赤がよく映えており、にゅっと笑った目が柔らかくて、まるで少年のような無邪気な笑みがなんだかとてもキュートできゅんとした。

「いつ引っ越す?」

「ひ、ぇ・・・?」
笑顔に見とれて言葉が耳から耳へ流れていった。
「上忍専用のマンションが便利だからとりあえずそこでいい?そのうち一軒家でも建てよっか」
「いっ、けんゃ?」
「こんなに頑張ったんだから二日ぐらい休みもらえるかな。そしたら買い出ししないとね。食器とかベッドとか」
「えっと・・・」
なんだかひどくご機嫌に話すのに、俺は一向についていけない。引っ越すってカカシさんの家か?なんで?一緒に暮らすのか?なんのため?え?
「ん?なんかオレ、変なこと言ってる?」
さも当たり前のことを言ってるように言う彼に、俺の方がおかしいのかという気になる。
おかしい、よな?
彼が?
俺、が?
混乱している俺に、カカシさんは当たり前のように言った。


「ずっと一緒だっていったでしょ?」


それは。
それはあの場だけの話だ。
死にゆく、俺しかいない世界だから。だから俺が選ばれたんだ。
でも今、この世界は俺一人じゃない。
沢山いる。
その中で選ばれるなんて。

それって。


それって、ただの告白だ。


昔からどこの国でもありふれてる、愛の告白だ。
妥協なんかじゃない。
他に誰もいなかったからじゃない。
たくさんの人の中から選ばれた、よくある愛の告白だ。


「俺は」
カカシさんの肩に顔を埋める。顔がかぁぁっと熱くなり、寒いはずなのにひどく全身が熱かった。
世界は彼一人じゃない。
沢山いて、選べて。
でも、それでも。
選んで、二人でいられるなら。

「死ぬまで、一緒にいたい」

あぁ、この熱で雪が溶けそうだ。
この真っ白な世界が、溶けて、色付いていく。


「いるよ。約束したでしょ」
あまりに明るい声に、嬉しいのに泣けてきた。
「カカシさん、好きです。大好きです」
「嬉しいけど、ちんちん痛くなるからやめて」
急に冗談を言うので可笑しくてクスクス笑った。
凄いなぁ。
こんな幸せな気持ちがこの世にはあるんだ。
ふわふわして温かくて気持ちいい。
「カカシさんは好き?」
「大好きだよー。世界で一番好き」
「どこが好き?」
「んー頑張り屋さんのとこ。何でも一生懸命で困ってる人放っておけなくて、それでちょっぴり不器用なとこ。甘えたいのに甘えられないとこ。オレなら甘やかしてあげれるのにな、ってずっと思ってた」
ずっと?
ずっと、って何時からだ?
任務が始まってから?
こんな世界から遮断された雪の世界より前から?
カカシさんのこと色々聞いて全部分かっていたつもりなのに、やっぱり全然分かっていない。
それでもいい。
これからたくさん聞けばいいだけだから。
「カカシさん」
俺はポケットから兵糧丸を取り出した。
ずっと、ずっと、これを彼にあげるつもりだった。
彼だけでも生き延びて欲しかったから。

でも、今はそうじゃない。

それをちぎって、半分こにする。
「あとこれぐらいしかないんですけど、二人で食べて、二人で里に帰りましょう」
カカシさんとしたいことが、たくさんあるのだ。
こんなに寒かったのだから温かいお風呂に入りたい。俺のコレクションである入浴剤を見せて、一緒に入りたい。
炬燵で蜜柑もいいけど、部屋をガンガン暖かくしてアイスを食べたい。もう暫くは雪は見たくないけど、雪だるまぐらい作ってみたい。カカシさんも俺も顔に傷があるから、きっとそっくりな雪だるまがつくれそうだ。

そして、暖かい春を迎えたい。

「ありがとう。イルカの兵糧丸は元気が出る味で、オレ好きだよ」
カカシさんは笑いながらそう言った。
不格好であまり上手に作れてないのに。カカシは一々優しくて、俺を幸せにしてくれる。

真っ白だった世界から、漸く緑の大地が見え始めた。
早く二人で里に帰りたくて堪らなかった。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。