「ハイハイ、さっさとしてね。日が暮れちゃうヨ」
そう言いながらカカシ先生は日陰から動かずエロ本を見ながらニヤニヤしてる。こっちは炎天下の中で草むしりしてるってのにっ。
「カカシ先生も手伝ってくださいよー」
ちょっと可愛く言ってみるとはチラッとこちらを見てフッと鼻で笑った。
何よ何よ何よーっ!
「サクラ。もうちょっと色気を出さないと意味なーいよ」
「い、色気・・・」
確かに「サクラは色気が皆無ね」とイノに笑われたことがある。
胸を見下ろすと真っ平らだ。悲しくなってきた。
「サクラちゃんは色気あるってばよ!」
ナルトがカカシ先生に向かって叫んでくれた。全然タイプじゃないけど、ちょっとキュンときた。
嬉しくてナルトを見ると、彼はクルッとこちらを向いて指をたてた。
「サクラちゃん大丈夫だってば!胸はそのうち大きくなるってイルカ先生が言ってたってばよ!」
「やかましいっ!!」
アッパーをくらわす。ぐげぇっと蛙が潰れた音がしたが知らない。胸がなによっ!そのうちおっきくなるんだから!C、うんん、Bぐらいはいくんだから、きっと!
「サクラ、ダメデショ?女の子はおしとやかにしないと」
「そういうのセクハラです!」
「サクラも姫を見習わないと」
ぽわっとした表情でカカシ先生は空を見た。その顔はまさに幸せいっぱいで浮かれた顔だった。
先生がよく言葉にする、姫。
最初は何のことを言っているか分からなかったし、アイドルかペットの名前かと思ったけど。
毎回見せる、その幸せそうな笑み。
その顔はよく知る顔だった。

アレは、好きな人を思い浮かべた時に見せる顔にそっくり。

それってつまりカカシ先生には恋人か好きな人がいるってコト。
エロ本を堂々と人前で見て、顔のほとんどを隠して猫背で胡散臭い遅刻魔のカカシ先生が!
イノのところの先生とヒナタのところの先生が恋人のように、先生たちも恋してるのよね!やっぱり忍は命短し恋せよ乙女よ!
「カカシ先生、姫って誰?」
彼女かしら?それとも任務で護衛きた本物の姫だったりして!そしたら禁断の恋よね?キャー!
カカシ先生は静かにニッコリと笑った。

「オレの前世からの恋人」

「・・・・・・」
ぜんせ?
割と現実主義でストイックに見えたカカシ先生からそんなファンシーな言葉が出てくるとは思わなかった。
「前世って、あの前世?カカシ先生、生まれる前の人生の記憶があるって言うの?」
「そー。みんな持ってるものかと思ったけどそうでもないみたいだーね。因みにサクラもナルトもサスケも前世でみたことある顔だったからね。やっぱり運命は繰り返されるのかなぁ」
なんて呑気そうに笑う。
へー、前世。
物語で読んだことあるけど、そんなもの空想の世界だと思っていた。だけど、もしあるなら素敵よね。しかも前世でもサスケくんと知り合い!やっぱり私たち運命よね!キャー!
「わ、私はどんな人だったの?」
「んー?今と変わらないよ。元気で可愛い娘さんだったーよ」
「サスケくんは?」
「貴族の息子。不良息子だったけどね。結婚して落ち着いたかな」
結婚!
だ、誰とだろう。聞きたいけど私じゃなかったら立ち直れないぐらいショックだし。前世だけど、今に影響したら嫌だし。
・・・・・・怖いから聞くの止めとこ。聞かなかったから私かもしれないって思えるから。
「先生は?」
「オレはね、騎士だったの」
「騎士!?」
うーん。似合ってるような似合ってないような。でもどこへいってもカカシ先生は戦ってばかりなのね。
「そんなに大きくないけど、豊かで優しい国だった。国王は民を第一に考えて下さる方で、飢えて死ぬなんてなくて、皆平和に暮らしていた。オレはね、元々他国の人間だったんだーよ。父親が暗殺されてオレだけ命からがら逃亡したの。闇雲に走って、行き倒れになってたところを姫に拾われたの」
当時を思い出したのかキラキラとした目で空を仰いだ。
私もまるでドラマみたいなロマンチックな出会いに胸がキュンキュンした。
「なーんだ、カカシ先生弱っちいってばよ」なんて軽口を叩いたナルトにはボディーブローを食らわした。全くナルトはデリカシーの欠片もないんだから!
「それで!それで!」
催促すると、カカシ先生は嬉しそうに頷いた。その顔はなんだか幼くて夢心地のようで、こんなに大きなおっさんなのに、ちょっとだけ可愛いって思っちゃった。
「姫直々に看病してもらってね、なんとか一命をとりとめたオレは、姫に忠誠を誓って彼女の役に立つためだけに生きてた。おかげでねー騎士の中でトップになったけど」
まぁ毎日狂ったように体を鍛えることしかしなかったらそうなるよねー、なんて軽口を言う。不思議とカカシ先生が言うと似合ってしまうから悔しい。天才は生まれる前も天才ってこと。
「姫はね、よく演習場とかに見に来てくれてね。姫自ら作ったケーキとか差し入れしてくれて、本当優しい方だった。オレだけじゃなくて騎士全員、いや国中姫に夢中だった。彼女のためなら命だって惜しくないって皆思ってた」
「素敵な姫なのね」
ほぅ・・・とため息をついた。
まるで本物の物語にでてくる姫のよう。優しくて美しくて素敵な人。
カカシ先生は大きく頷いて「前世のサクラも姫のこと大好きだったよ」と教えてくれた。

それは何故かじんわりと心が温かくなって、知らないのに堪らなかった。

まるで前世の私が喜んだ感情が蘇ったみたいで不思議な感覚なのに幸福感で包まれていた。
ぼんやりと姫がみえるような気がした。
名前を呼ぶと振り返り頭をなでてくれる。難しい言葉を教えてもらったり、お話を聞かせてくれたり。
優しくて可憐で大好きで、憧れの人。
(・・・ひめさま)
もう完全に私は先生が話す物語の中にどっぷりとハマっていた。
「姫はおてんばでね、よく城外へ一人で行こうとするから大変だったんだーよ。オレは毎回必死で探していた。姫は大体子どもたちのいる教会か、お気に入りのレストランにいたの。毎回息を切らせて駆け寄るオレに『注文しといたから!』って笑ってくれるの。可愛くてね、・・・オレは密かにデートみたいだって、いつも心の中で喜んでた」
そこで初めて言葉が曇った。カカシ先生を見ると今にも泣きそうに笑っていた。
どうして?
今の話に少しも悲しいところなんてないのに。
「身分違いだった。サクラにも何度も笑われたよ。そんな想い国中の人がしてるって。オレもわかってた。これはただの責務で姫はオレが追いかけなくても、きっと誰にでもするんだって。誰も姫を独り占めなんかできない。姫は国のもので、誰のものにならないんだって」
前世の私は笑ったのに、今の私は笑えなかった。こんなに愛してるのに、どうしてダメなの?国のものって何?じゃあ姫は好きな人ができたらどうしたらいいの?
「それでもよかった。姫は定期的に城外へ行き、オレは必死で追ってた。国外へ行く時は護衛して近寄ってくる虫どもを潰してた。姫はオレのこと『一番信頼できる私のナイト』と呼んでくれたときは本当に嬉しかった。一度だけ姫が足を捻ったときおんぶさせてもらったの。見た目以上に細くて軽くてね、ちょっとでも力を入れ過ぎると壊れてしまうんじゃないかって本当焦った。そおっとそおっと背負いながら、このままどこかへ連れていけたらって悪いことばかり考えてた。姫は足が動けないから逃げられないし、近くにいたのはオレ部下二人だったから倒そうと思ったら倒せる自信があった。このままどこか遠くに行けたら。治療しないで動けなくなった姫を閉じ込めてオレだけのものにしてしまえたらってずっとずっと考えてた」
悪い大人デショと笑ったが、やはり先程のように幸せそうではなかった。
「なのに姫はぐうぐう幸せそうな顔して無防備に寝てて。こんな悪いこと考えてるオレの気持ちなんて疑いもせず体を任せてくれて。・・・オレ、それ見たら誘拐なんか出来なくて、起こさないように更に慎重に泣きながら歩いた」
胸がぎゅうぎゅうと痛かった。
大好きなのに言えない人。もし、私がカカシ先生で、姫がサスケくんなら。
私は諦められるかな。仕方ないって割り切っちゃうかな。
分からない。でもとても悲しい。
「でもね、それでも幸せだった。オレのものにはならないけど、オレの傍にいてくれたから。姫は皆のもので、オレが触れられるのはほんの少しだけだけど、それでも姫は誰のものでもなかったから。でもね、ある日姫の結婚が決まったの。しかもオレでも、いや国中誰一人として太刀打ちできないような偉大な人に。オレは知らなかったけど、生まれた時から決まっていたらしい」
「えぇ!?」
結婚!!確かに姫はどこかへ嫁ぐのはよくある話だけど。政略結婚とか、許婚とか、そんなものだろうか。姫はその人のこと愛してたのかな?それともそんなこと関係なく決まったのかな?
だけど、じゃあ、カカシ先生は・・・?
何年も見守ってたカカシ先生は・・・?
「先生、どうしたの・・・?」
先生は眉を下げたまま小さく苦笑した。
「我慢しようと思ったんだけどねぇ。相手は偉大な人だし、姫も受け入れてたし。オレといたって幸せにできるかどうか分からないから。だってオレ、剣のこと以外からっきしダメだったし」
「そんなことっ!」
そんなこと、どうでもいい。
相手がすごい人とか、カカシ先生が何もできな人だろうが、胡散臭いおっさんだろうが!
カカシ先生の話を聞いただけでも分かってしまった。

姫もカカシ先生のこと好きだって。

わざわざレストランで待ってるのはカカシ先生と二人きりで過ごしたいから。
一番信頼できる私のナイトって特別だって意味でしょ?
おんぶなんて女は気安く誰にでもさせないの。寝てしまったのはカカシ先生の体温が心地よかったから。幸せそうな顔が何よりの証拠でしょ!
「愛し合ってるのに、離れ離れなんてダメ!絶対ダメ!」
そう言うと、先生は目を大きく見開き。

ギロッと睨みつけるかのような鋭い目で笑った。

ゾッとした。
それは初めて感じた、上忍の殺気だった。
まさにそれだけで人ぐらい殺せそうだった。
「だけど、姫の隣に誰かいること想像しただけで狂いそうだった。いや、もうおかしくなってたのかもしれない。オレはその日のうちに準備をすませると、部下を全員戦闘不能にし、姫を攫って逃げた。姫はとても抵抗したけど、オレは力でねじ伏せた」
それは私が願った結果だったのに。
なんだかとても悲しかった。
とてもとても悲しかった。
「姫、は・・・?」
そう聞くと、カカシ先生は静かに笑った。もう殺気なんかなくて、魂のない寂れてまるで老人のような顔だった。



「死んだよ。オレを残してね」



あぁ。どうして。

どうして好きなだけではダメだったんだろう。



ポロッと涙が零れた。
悲しいのは私なのに、どこか余所余所しい感情だった。
不思議な感覚だった。この涙は一体誰の涙だろう。
私?
それとも前世の二人を見守っていた私?


あんなに暑かったのに暑さなど感じず、静寂が耳に痛かった。
サスケくんもナルトも何も言わなかった。
皆頭を垂れていた。
パンッと破裂音がすると、いつものカカシ先生が手を叩いていた。
「まっ、そーいうことで、死に別れした前世の恋人と先生は先日運命の再会したの。今度こそ幸せになりたいからね。協力してね」
いつもの調子で言うが、それが更に悲しかった。
その後は皆何も言わずに黙々と作業した。



❉ ❉ ❉



思っていた以上に任務はさっさと終わり、皆で受付に向かった。
悲しみがべったりと心にはりついて剥がれない。
「姫はね、昔と変わらず勤勉で、仕事もきちっとするの。その姿も可愛くてね。でも昔同様モテモテだから本当心配。だから任務はサッサと終わらせてーね」
先生は嬉しそうに言うが、私たちは頷くことしか出来ない。
カカシ先生を見る目が変わってしまった。
事あるごとに姫、姫と口にする彼が哀れでならない。前世では身分違いだから惚気とか言えなかったであろう。それが今は自由に言えるのだ。浮かれていてもおかしくない。
決めた。私カカシ先生の恋を応援しよう。
もう身分の差なんて大したことないはずだ。しかも先生は有名人だし、ちょっとぐらい身分が高くても平気よ!きっと。
今度こそ幸せになってほしい。好きなら好きと胸張って里中の人に言ってほしい。
「どうしたらいいのかしら」
「大人に相談するべきか」
「大人?イルカ先生なんかピッタリだってばよ」
「イルカ先生!」
確かにイルカ先生ならこういう話でも信じてくれるし親身になって聞いてくれるだろう。受付もしてるから顔も広いし、きっとアドバイスしてくれる。
「いいわね!早速今日相談してみましょう!」
受付に入るとイルカ先生を探した。
イルカ先生はごった返す受付の真ん中の席で書類とにらめっこしてた。
「イルカせん」

「姫っ!!」

上ずった頭悪そうな声が響くと、カカシ先生がいつの間にかイルカ先生の前で膝まづいていた。

それはまるで忠誠を誓うナイトのようだった。

ポカンとカカシ先生以外している中、カカシ先生はそっとイルカ先生の手を取りキスをした。
「姫、ようやく会えましたね。貴方と離れていた時間はまるで牢獄の中にいるかのように暗く淋しい世界でした。ようやく出会えたこの奇跡に口づけを贈ることをお許しください」
完全に辺りは固まっているが、全く動じないカカシ先生はイルカ先生の手を取り見つめあっている。
「どうか軽々しく民の前にお出でにならないでください。また皆貴方に恋焦がれていきます。あぁ、いつ見ても美しく神々しい。天使と間違えてしまいそうです。また同じ時代に、そして同じ人間として会えたことに歓喜します」
姫、と呼ばれたのは間違いなくイルカ先生で。
イルカ先生とは私たちのアカデミーで担任してくれた先生で。優しくて逞しくて大好きだけど。

どっからどうみても、男らしい男なんですけど。

イルカ先生はスッと立ち上がった。
「あぁ、姫、立ち上がらないでください。ここは陰謀漂う忍の里。姫のように純潔で高貴な方には刺激が強すぎます。大変恐縮ですがオレにお掴みください。いえ、何もしません。ただ安全な所に瞬時にお連れできる術を持っているだけです。そこに二人で住みましょう。姫のことは貴方だけのナイトであるオレが命をかけてお守りします。さ、行きま」

ボコッ。

「お騒がせしてすみません。ちょっと出てきます」
いい音をたてて殴ったイルカ先生は動かなくなったカカシ先生を引きずってさっさと外へ行った。

シーンとなった受付は二人が出ていってからすぐにまるで何も無かったかのように動き出した。
もう何が何だかわからない。
とりあえず追いかけないと、と三人で無言で目を合わせ頷いた。



ナルトのイルカ先生レーダーを使って見つけ出すと、仁王立ちしたイルカ先生の前に正座したカカシ先生がションボリと座っていた。
「おぅ、三人とも。吃驚させて悪かったな」
そう言っていつものようにニカッと笑った顔は確かに見慣れたイルカ先生だった。
はっきり言って姫の要素など皆無だ。
「イルカ先生、姫なんですか」
そう言うとガクッと肩を落とした。
「この人から聞いたのか」
「そうだってば。カカシ先生残して死んじゃったんだろ?」
何故か凄い形相したイルカ先生がカカシ先生を睨んだ。
その姿に何だか違和感を感じる。
「まさか、作り話だったの・・・?」
「違う!姫は姫だ。オレの唯一の人。妄想なんかじゃない!姫だってオレのこと覚えてくれてたデショ!」
「あーもーカカシ先生はややこしいから黙っててください。・・・嘘ってわけじゃないけど、まぁ俺にも同じ前世の記憶のようなものがある」
「じゃあ・・・」
イルカ先生が姫なのか。
全然姫じゃないけど、だけど良かった。男同士で結婚できるかは知らないけど、でもこの里は割と寛大で同性同士のカップルなどよく見かける。つまり堂々と交際できるのだ。
「良かったですね!ようやく結ばれて」
そう言うとカカシ先生はふにゃっと笑ったが、イルカ先生は複雑そうな顔をしていた。
どうしてだろう?嬉しくないのかな?
もしかしてイルカ先生はカカシ先生のこと好きではなかったのかな?カカシ先生の一方的な話を聞いて勝手に想像して姫も、イルカ先生もカカシ先生のこと好きだと思ってたけど、本当かどうかは分からない。
これでカカシ先生の片思いならどうしよう。
あんなに再会できたことを喜んでいたのに。
「イルカ先生!」
私は思わず叫んだ。
「イルカ先生は、カカシ先生のこと好きなんですか!」
確かめずにはいられなかった。
これでもし好きじゃなかったらどうカカシ先生を慰めてあげようか。自暴自棄にならないようにしてあげないとなどと考えていた。
「え!?えっと、あの・・・」
イルカ先生は戸惑ったように目をキョロキョロさせた。
「先生!はっきりしてください!カカシ先生はこんなにイルカ先生のこと愛してるのに・・・。愛していないのならはっきりフッてください!」
えぇ!?フラれるの~?と情けない声がしたがこの際ムシだ。
だけど顔を真赤にさせて挙動不審なイルカ先生を見るとその疑惑は吹っ飛んだ。
なんだ、今でも両想いじゃない。
ホッと深い安堵に包まれる。
「好きならちゃんと付き合って二人で暮らしてください。もう死別なんかしないで!」
「死別・・・?」
あたふたと慌てていたのがピタリと止まり、地を這うような声でカカシ先生の方を向いた。
「お忘れですか、姫。オレを残してこの世から去った日を。オレは姫の亡骸を三日三晩抱えながら泣き崩れていました。そして三日後貴方の後を追うようにオレも死ねました」
カカシ先生の言葉にまた涙が溢れた。
きっと国のことを思い恋人の手と手を取れなかった姫は自ら命をたったのだろう。それを見たカカシ先生もその後を追った。まるで有名な悲劇のようだった。
そんな想いをして、来世でまた再会できた喜びは想像できない。浮かれて受付であんなことしても全然悪いとは思えない。むしろあれぐらいでは物足りないはずだ。
早く二人を結ばれて、あの日挙げれなかった挙式を。




「アンタ、俺が八十歳で病死したことそんな大袈裟に触れ回ってるんですか」




ん?八十歳?病死?
「病死でもなんでも死別デショ!オレがどんなに悲しんだか知らないから言えるんです!あの日の絶望をオレは今でも魘されます!」
「いや八十歳はよく生きた方ですから」
「オレは八十四歳まで生きました!」
「そんだけ長生きしたらもういいでしょう。まだ未練あるんですか」
「ありますよ!姫が亡くなった日、それはもう国中が悲しみに包まれて葬儀も盛大におこなわれました。まぁ、オレが式をメチャメチャにして亡骸を抱えて家に閉じこもりましたけど」
「そんなことするからバチがあたって死ぬんですよ」
「でもちゃんと息子たちに二人だけの誰にも寄せ付けないような墓を作らせましたから!その完成を見る前に死んだのは心残りです」
はぁ・・・とため息をつかれた。

えっと、本当にわけわかんないけど。

「え?カカシ先生、あの、攫って逃げた時死別したんじゃないの?」
「え?ナニソレ。そんなわけないデショ?その日のうちに犯して純潔奪って神との結婚を阻止したわけ」
「え?神?」
「国では姫は一生純潔で神の嫁になることで国を守ってもらう慣わしがあったのに、この人のせいでめちゃくちゃになったんだよ」
「それで姫としてはやっていけないからって城外に追放されて」
「追放させたんでしょう。国王脅すなんて貴方ぐらいですよ」
「部下を押し込めた牢獄の鍵をチラつかせただけですよー」
「戦闘不能って牢獄に入れただけ!?」
「貴方は何でも器用にできる方でしたね。剣を包丁に持ち替えてレストランを開いて」
「姫が嬉しそうに食べていただけるならオレはなんでもしますよ。レストランはオマケです」
「子どもは五人産まれましたよね。三人でいいって言ったのに」
「姫は夜も魅力的でしたから。止まりませんでした」
「もうこれ以上増えると破産するからやめてほしいと言ったのに。いやせめて避妊具をつけろと言ったのに」
「中で出すと姫は、もう最高でしたから。やめられませんでした」
「仕方ないからアナルにしろって言ったら」
「そちらもハマってしまって。むしろハマりすぎて来世は是非男でって願っちゃいました」
てへぺろっと笑った。
もう何だか全部どうでもいい。後半は聞き流した。
せっかく。
せっかくせっかく同情したのに!涙返せバカヤロー。
だけどまたポロッと涙が出た。
悔し涙ではない。
先程までの悲しい涙でもない。

良かった。
本当に良かった。
二人とも幸せで。
きっと最後の最後まで手と手を取り合って幸せに暮らしたのだ。

まるで、童話のように。



「あーもう心配して損しちゃった。悔しくて涙でちゃった」
悔し紛れの嘘はなんだか優しく響いた。
「バカバカしい」
サスケくんも吐き捨てるかのように言ったがなんだか柔らかい音だった。
「カカシ先生は言葉が足りないんですよ」
毎回毎回と呟くイルカ先生を見ると、こういうことはよくあるんだ。何やってるのよ、カカシ先生。
「貴方に捧げる言葉は地上には少なすぎて、オレは上手く操れません」
「そのキザっぽいセリフやめてくれませんか」
「姫はこれが好きだと!オレの低く囁くような声で甘く愛を誓って欲しいと」
「当時ですから!今は違う世界なんですから分別つけてください。皆引いてますよ!」
「貴方に好かれるためなら周りなど気になりません」
「気にしてください!俺にも立場があるんです!」
「何をいってるんですか。貴方以上の立場のものなどいません」
「います!この世界には!」
まだ二人で言い合いしているけど、なんだか生易しい目で見れる。
どうやら二人とも前世の記憶があって、しかもお互い好きだから、もうなにも問題ない。
きっと前世と同じように幸せな二人が見れるのだろう。
「なーんかよく分かんねーけど」
ナルトが不思議そうな顔をして振り返った。


「二人ともラブラブってことで、めでたしめでたしってことだってばよ」


ニカッと笑った顔は、イルカ姫譲りの幸せそうな顔だった。
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