三代目から帰還するよう指示があり、五年ぶりに里に戻った。
あれからとにかく里に根強くある強い者が弱い者に何をしても良いという風習を打破すべく、任地で目を光らせた。少しでもそのような場面を見つけると強く罰した。伽も勿論なくした。仲間からの風当たりは強くなるだろうと思ったが、意外にオレの意見に賛同してくれる者は多く、段々と浸透していった。
上が下を思いやれば、下からの士気は上がる。おかげで効率も上がり死者も少なくなった。切々と仲間を思いやる態度をとると、皆がついてきてくれた。
気がつけばビンゴブックに載り、里一の遣い手と呼ばれるまでにもなっていた。


「はたけカカシ参りました」
「おぉ、入れ」
「失礼します」
入ると三代目は笑顔で迎え入れてくれた。
「そちの名はあちらこちらでよく聞くぞ。頑張っているようだな」
「はぁ、まぁ」
まだまだだと思っていたが、三代目の耳に入るぐらいになっていたのか。
ならば理想に一歩近づいたようで誇らしかった。
きっと天国にいるイルカも今のオレなら惚れてくれるかも知れない。いや、勿論まだまだ頑張るが。もし、今会えたらどう思ってくれるかな。
「カカシさん、三代目に褒められるなんて凄いです!付き合ってもいいですよ?」
なんて言われたりして。
ムフフと口布の中で笑う。
「次期火影に、と言う声もあるぞ」
火影、か。
「カカシさん火影なんですか!カッコイイ!抱いてっ!」
うん。悪くはないな。
「そんなお主に上忍師となり導いてほしい子どもがいるのじゃが」
「上忍師、ですか・・・」
正直まだまだ任地での規律がいいとは言い難い。もっと厳しい戦地で今なお戦っている仲間を救いに行きたい。
考えていると、三代目はフッと笑った。
「お主の任地の様子は聞いておる。仲間を思いやり部下を思いやる姿勢はとても立派で皆の見本じゃ。じゃが、その思いは最早お主だけのものではない。里が一丸となって取り組むべき内容じゃ。お主が進んで行ったおかげで道標はできた。後は他の者たちが考え、進むであろう。そんなお主じゃからこそ、この三人の子供たちを任せたいのじゃ」
そうか。
どうやらオレの役目は終わったみたいだ。
それなら、言われたとおり上忍師をしてみてもいいか。
頷くと嬉しそうに笑った。
「前任者がの、是非お主にと強く薦めたのじゃ」
「前任者?」
「アカデミーの教師じゃ。お主に惚れ込んでてのぅ、一番大変な生徒をお願いしたいと直談判に来たのじゃ。打ち合わせのために呼んでおるのじゃが」
「失礼します」
その声は、記憶よりは少し低くなったが、忘れもしない、愛しい声だった。
まさか、なぜ、こんなところで聞けるのか。
入ってくる者を凝視した。
「おぉ、来たか」
スッと、入ってきたのは。
黒髪を高く束ね、強い意志の強い目と、なにより一目で心奪われた淀みのない笑みがそこにあった。

あんなにも、恋焦がれた、イルカだった。

「うみのイルカと申します」
「・・・イ、ルカ」
「覚えて下さっているのですか。恐縮です」
そう言って嬉しそうに鼻の傷を撫でた。
それは笑う時のイルカの癖だった。
オレの頭の中だけでずっと見てきたイルカが、何故か目の前に立っていた。
「はたけ上忍の噂は兼兼聞いています。ナルトが、下忍になりこれから先導いて頂けるのは、はたけ上忍しかいないと思い」
「噂・・・?」
「え?あ、はい。仲間を思いやり、地位の低い者たちを理不尽な上忍から守ってくださると聞いてます。やはり、はたけ上忍は素晴らしい人です」
そう、あの日のように目をキラキラさせ。
まるで宝物のように。
あぁ、ようやく。
ようやくその目の先に堂々と胸を張って映ることができる。
今度こそ偽りなく、イルカの尊敬できる人になれる。
「イルカ・・・」
そうか。
オレは任務中死んだのか。
だからきっとここは天国で、頑張ったご褒美に、イルカと会わせてくれたのだ。
そうか。よかった。
ようやく、会えた。
立派な人間として、ようやく会えた。
もう、我慢しなくていい。
これからはずっと、ずーっとイルカといれるのだ。
イルカに近づき、抱きしめた。
「えっ!?あ、ちょっ」
「イルカ」
腕の中に、イルカがいる。
懐かしい匂いが体を包みほぅと息を吐く。
あぁ、愛おしい。
ずっと待っていたのだ。この瞬間を夢見て頑張ってきたのだ。
ようやく、報われる。


「大好き。結婚しよ」


そのまま瞬身して、自宅で押し倒した。






はたけカカシ。
今や誰もが憧れる里随一の忍だ。
俺は過去二回だけ共に任務についたことがある。その時も頭のキレやケタ違いの強さだけでなく仲間を大事にする姿勢にひどく憧れた。
五年前の任務で伽を命じられた時は、こんなたいした力のない俺だが彼の役にどんな形でもなれるという喜びに満ち溢れていた。
あれ以来彼の活躍は毎日のように噂されてきた。
内勤になった俺はもう共に任務にはつけないと思っていたが、それでも彼が守る里を俺も守りたかった。
そんな彼に、教え子の上忍師として再び会うことになった。打ち合わせをするため彼に会った。
そこまではいい。
なのに、今、なぜか彼の部屋におり、なぜか二人とも全裸で、しかも伽でもないのに何度もヤられた。
なぜだ・・・?
「イルカ・・・」
泣きそうな顔ではたけ上忍が頭を撫でた。疲れきった体はピクリとも動かない。それをいいことに彼はギュウギュウ抱きしめ、離そうとはしない。
「五年ぶりだから、加減出来なくて、ごめん・・・」
シュンとなっている顔を見ると、それ以上怒れない。
きっと、久々に里に戻られて、溜まっていたのが爆発したのだろう。俺を抱いたのは、アレだ。昔具合が良かったのを思い出して手近にいたからだ。いくら抱いても妊娠しないしな。
「大丈夫ですよ」
俺も責任をとれなど言わない。
何年経とうが、彼の役に立てるなら何でも嬉しかった。
安心させるようににこりと笑うと、彼も嬉しそうに頬ずりした。
「ようやく会えた。ずっと待ってた・・・」
ほぅと吐息を吐くように言った。
相変わらず意味の分からない事を言う。でも久々の再会に胸を熱くしているのは同じだ。
俺も、会えてとても嬉しい。
「ね、イルカ。もう一回してもいい?次はちゃんと優しくするから」
「もっ、無理です」
怪しげな動きをする手を払いのけると不満そうな顔でこちらを見た。
「そんなに欲求不満なら、恋人のところか遊郭でも行ったらどうですか?」
何気ない言葉だったが、途端彼は目を見開き、固まったかと思うと急にボロボロ泣き出した。
「えっ!?あっ、どうされたんですか」
「・・・・・・怒ってる?来るの遅かったから?それともまだイルカの理想に追いついてないから?」
「え?え?」
「ごめん。でもオレ頑張ったでしょ?三代目もイルカも褒めてくれたでしょ?」
「ちょっと、はたけ上忍、意味が」
「もう死んだから今更何も出来ないけと、でも」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!冷静に!落ち着いて!俺に分かるように話してくれませんか?」


そうして彼から聞いたのは突拍子のない話だった。
「だから、五年前死んでないんですって!死体誰一人なかったでしょう!皆で身を隠していたらいつの間にか終わってて、少し遅れて帰還しましたよ」
生きている間に頑張れば、あの世で会えると本気で信じていたのだろうか。そんなお伽噺今時誰も信じてはいないだろう。
「生きてるなら何で知らせてくれなかったの?」
「それははたけ上忍ずっと外回りされていたから。俺は内勤で受付してるからそのうち会えるかなって。それに別に俺のことなんか覚えてないと思ってましたし」
「ヒドイ」
そう言ってざめざめ泣いた。
彼に泣かれると本当に可哀想な気になるが、果たして俺は何か一つでも間違っていたのだろうか。
普通総隊長クラスの人に生きてましたと報告しないといけないのだろうか。むしろ後日報告があがっただろうに・・・。いや五年も里に帰らず外回りされていたのだ。そういう話は届かなかったのかもしれないが、だからと言って泣かれる意味が分からない。
「ヒドイって・・・。普通一介の中忍のことなんか気にされるなんて思ってないでしょう」
「一介の中忍って何?オレはイルカのこと好きなのに」
「は?え?好きって!?いや、ちょっと意味がっ」
「イルカのために、オレは今まで頑張ってきたの」
「俺のために頑張ってきたって・・・。それは俺のためというか、実力で、ななななんで泣くんですか!?え?結婚?頑張ったら俺と結婚できると思ってたって・・・、そんなことであんな偉業を成し遂げたんですか!?そんな訳ないで、・・・って何で泣くんですか!分かりました!分かりましたからっ!!」
本格的に泣き出し、どうしようもなくて途方に暮れる。
全裸でベッドの上で泣かれるなんて、中々シュールだ。
一体どう処理していいのか。
素直に話を信じるべきか。いや、無理だろう。俺だけのためにあんな偉業が成し遂げられるはずない。
だってビンゴブックに載ってるんだぞ、二つ名を持ったトップクラスの忍だぞ。
それだけではない。
彼は任地での理不尽な上下関係をなくそうと奔走した。何年も続く立場の低い者にとってはもうどうしようもない風習だったはずなのに、この人が動いたことで、皆が賛同し、今では目に見えるほど改善された。
元々部下を見捨てない、誰よりも仲間を大事にする人だ。何人も彼に救われたし、俺自身も救われた一人だ。
それが、全て俺とあの世で結婚するため?
ありえない。
っていうかあの世は同性婚できるのか?寧ろ結婚できるのか?
いや待てよ。
もしかして、あれか。
当時救えなかったことによる自責の念で、勘違いしてるんだ。
救えなかったと思っていたら生きていたから頭が混乱して、あと長年の疲れとかで頭がぐちゃぐちゃになって、それでこんなことになってるんだ。
仲間を大事にするひとだからな。
そうだ。きっとそうだ。
「あのっ、久々の帰還でお疲れでしょう!しばらく休暇ですし、ゆっくり休んでから」
「ここで暮らしていいの・・・?」
違う。
どうしたらそうなるのだ。
本格的に頭が痛くなってきた。
この人昔から言葉が少なく、いきなり突拍子のない意味不明なことを話すからな。今日は特に酷いみたいだ。
「・・・・・・イルカは、オレのこと、どう思っているの?」
「ふへぃあ!?」
どう思っている?
どう思っているって、それは・・・。
「そ、尊敬しています・・・」
「尊敬、だけ?」
「それは・・・その・・・」
尊敬は、している。それこそ、誰よりも。
彼と過去関わりを持ち、少しだが彼の役に立てたことは俺の誇りだった。彼の噂を聞く度に、まるで自分の事のように誇らしかった。
だけど、尊敬だけかと聞かれたら、素直に頷けない。
例えば。
そう、例えば、彼に愛されたこの体は、もう誰からの愛も欲しがらなかった。
どんな素敵な人に出会っても体は、心は何も反応しなかった。
彼に好かれたいとは思っていない。
そんな身の程知らずではない。
だけど束の間の、彼にしてみればただの性欲処理だったとしても、あの僅かな間愛された体は、もうこのまま誰にも触れられず生涯を閉じたいとは思っていた。過去に幾人か触れられた体。その体を彼が最初でなかったのなら、最後でありたいと願った。
それを、どう言葉に表せばいいか、分からないが。
分かってはいけないと言うことは、分かっているが。
(ヤバイなぁ・・・)
ジッと見つめる彼に、何もかも明け渡したい、前のように少しでも彼に役立つならどんなことでもしてあげたいと思ってしまう。
ここは戦地ではなく、里なのに。
戦地でなければ、それは全てプライベートになる。そこまで彼を侵入させて、果たして俺は正気でいられるだろうか。
理性とか立場とか身分とか、そういうのを見失わずにいられるだろうか。
もし。
もし、俺の底の底の底に閉まった感情を出してしまえば。
憧れではなく、尊敬でもない、そんな目で彼を見つめてしまったら。
取り返しのつかなくなることを、彼は気づいているだろうか。
「イルカ」
熱っぽく俺の名前を呼ぶ。
「大好き、愛してる」
ゆっくりと顔が近づいてくる。
それが何を意図しているか、分からないはずはないのに、俺はうっとりと目を閉じた。
理性の歪みが音を立てるのを感じた。
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