朝起きると彼が小さなベッドの上で優しく抱きしめてくれていた。そう言えば以前からそうされていたが、やはり意識すると気恥ずかしいがとても嬉しかった。
朝一番に好きな人の顔を見れるのがこんなにも幸せだと強く実感した。
そっとベッドを抜け出し、朝食の準備をする。彼は昨日食べず仕舞いだったからきっとお腹を減らしているだろう。張り切っている自分に小さく笑った。
昨日は優しく抱かれた。思った通り体は今までとは違う歓喜に震えた。はしたないことをしたが、彼はとても嬉しそうだった。
一通り準備が整うと彼がのっそり出てきた。
「あ、おはようございます」
「おはよー」
ふあぁぁとあくびをしながら洗面所にむかった。今日はきっと休みで昼まで寝ると思ったがお腹が減ったのであろう。
かけていたラップを外す。
「ご飯どのぐらい食べますか」
「山盛りー。あーお腹すいたー」
椅子に座ると一緒に食べだす。
「今日はお休みですか」
「そー。アンタは?」
「俺はアカデミーだけなので定時には帰ります。何か食べたいものありますか?」
「魚」
大雑把な答えに思わず笑ってしまう。
「…アンタさぁ、なんかあった?」
「え?」
「アンタいっつも無表情で覇気がなかったのに、昨日は大泣きするし、今朝は笑うし」
「…すみません」
昨日の失態を思い出し、思わず俯いた。
彼にしてみれば面倒なことばかりだろう。嫌な顔せず慰めてくれたが任務明けにそんな態度を取られれば迷惑に決まっている。
興醒めされれば、彼は二度とここへは来てくれない。
その恐怖にじんわりと汗をかいた。
「別に責めているわけじゃないし。むしろ…」
そこで一度言葉を切った。
「…昨日の乱れるアンタ、最高だった」
言っている意味が分からず顔を上げるとまるで余韻に浸るようにうっとりと頬を染めていた。
「耐えてるアンタも良かったけど、素直に反応するアンタは最高によかった。ねぇ何があったの?発情期?発情期ってどういう周期で来るの?」
嬉々として尋ねられて、昨夜の光景が浮かび思わず赤面した。恥ずかしくてたまらない。少しでも反応すると彼が喜んだので加減なく乱れた。
「ちょっと、何その顔…」
低い声に自身の失態に気づく。
俺みたいな冴えない男が赤面しても気持ち悪いに決まっている。さっきから失敗してばかりだ。
「すみませ…っ」
「あーもーアンタ可愛過ぎる。アンタさぁ朝からひん剥かれたくなかったらその顔止めてよね。家に閉じ込めて一日中犯したくなる」
「……はぁ」
さっきから会話が微妙にかみ合っていない気がする。
「我慢してあげるから早く帰ってきなさいよね」
そう言いながら少し頬を赤くした彼が嬉しそうにご飯を食べた。




魚屋で旬のアジを4匹購入した。
「先生最近二人分買うねー。イイ人でもできた?」
顔なじみのオヤジに言われて思わず苦笑した。そんな幸せな関係ではない。
そのまま帰宅すると彼が居間で寝そべっていた。
「おかえりー」
その姿はまるで家の主のようだった。
「ただいま戻りました」
台所に行き、購入したアジを焼き、味噌汁と里芋の煮っ転がし、簡単なサラダを作った。
後ろから視線を感じ、何度か振り返ると彼が本を見つつ、ちらちらこちらを見ていた。目が合うと慌てたように本で顔を隠すが、白い彼の頬が赤くなっているのが分かった。それにつられるように俺も赤くなる。
まるで付き合い始めた恋人のような初々しさだった。
そんなはずないのに。
予想していた通り、彼の行動に一喜一憂している自分がいた。
出来上がった料理を並べて向い合せに座る。
綺麗に魚を食べている様子にくすっと笑う。相変わらず綺麗な箸使いをしている。
「あのさ」
魚を一匹食べ終わり二匹目をつつきながら声をかけられた。
「イイ人だって言っていーよ」
「…………はぁ?」
「だーかーらー、今日聞かれたデショ、魚屋で!オレとのこと別に隠さなくてもいいじゃナイ。受付に来る奴らには知れ渡っているしさー」
言われて魚屋で冷やかされたのを思い出す。
「あそこにいたんですか?」
「た、たまたま!本屋の帰りに偶然見つけたの!別に一日暇だったからアンタのことずっと観察してたわけじゃないからねっ」
真っ赤になりながら懸命に釈明する。
「近くにいたなら声をかけてくれれば一緒に選べたのに。どの魚が好きか分からず適当に買いましたけどアジ好きでしたか?」
「えっ、あっ、ウン。アジ好きだよ。っていうか、そーだよねー」
ポリポリと頭を掻く。真っ赤な顔をした彼はとても可愛らしかった。
「アンタがさ、オレのこと隠しているみたいだったから。何となく出づらくて」
「はぁ」
「オレはアンタの元カレみたいに隠したりしなーいよ。だからアンタも隠さなくていーからね」
「…はぁ」
そう言われても、どう周りに言えばいいのだろうか。
彼とは性欲処理込の家政婦をしていますとでも言えと言うのだろうか。そこまで自虐的にはなれない。
「まだ帰ってこないの?」
「え?」
「元カレ」
まだ別れてもいないのに『元』が付かれると、しかもその張本人に言われると切なくなる。あの幸せだった日々が遠い過去にさせられ、今のこの理不尽な関係を現実に突き付けられている気がする。
恋人なんて烏滸がましい、これがお前のお似合いの関係だと。
一気に食欲がなくなり、茶碗を持ったまま俯く。
それに気付いたのか、彼も箸を置いた。
「あのさー、あんまり言いたくないけどアンタの元カレ正直最悪だよ。関係を隠したり、食事だけの関係だったり。何にもあげないなんてどんだけ貧乏臭いの。それにこんなにアンタのこと放置しておいて。普通手紙とか寄越さない?本当に任務なの?任務って偽ってどっか女のところいるんじゃナイ?」
「……ぃ」
「アンタが惚れてるからって甘えてるんじゃないの?気のあるそぶりして、アンタを振り回して弄んでるんじゃないの?本当最低だよ、ソイツ」
「……ください」
「その点、オレは関係を隠したりしない。望めばなんだって叶えてあげるし、なんでも買ってあげる。アンタのこと守れるし、ずっと傍にいてあげる、抱いてあげる。ねっ、オレの方がずっといいデショ?だから早くソイツのことなんて忘れて…」
「止めてくださいっ!!」
バンッと強くちゃぶ台を叩いた。
大好きなカカシさんの声で、大好きなカカシさんを侮辱されるなんて耐えられない。俺との関係を否定されるのも耐えられない。
なんでそんなこと言われなければならないのか。
アンタの望む通り食事だって、家事だって、セックスだってしているじゃないか。
カカシさんに好かれているなんて思ったことない。
でも弄ばれてたなんて考えたくない。
頼むから俺の大事なモノを汚さないでくれ。
彼とも思い出も、気持ちも、汚いモノにさせないでくれ。
「…何でまだ庇うの」
地を這うような低い声が響く。
抑えようもない殺気が全身を貫く。
「は、たけ上忍…」
「まだそんな名前で呼ぶの?昨日はカカシって呼んだくせに」
「!!」
そんなつもりはなかった。ということは無意識に呼んだのだろう。今までそんなことなかったのに。
つまり、彼とカカシさんが段々と境がなくなってきているのだ。
恐れていた事態が確実に、しかも思っていたより幾許も早く進行している。
恐ろしくなりカタカタと震えているとチッと舌打ちされた。
「…振り回されているのはオレか」
立ち上がりそのまま玄関へと向かう。
「あの…」
中途半端に呼びとめた手が宙を舞う。
彼は一度だけチラリとこちらを一瞥したがそのまま無言で出て行った。
取り残された俺は一人で呆然と立ち尽くした。



あれ以来、彼は俺の前に姿を現さなかった。
長期任務には名前が載っておらず、受付の同僚に確認すると俺がいないときには来ているので、これは避けられていると思っていいだろう。
正直、碌に眠れなくなってしまった。食欲もなく、鏡を見る限り顔色も悪い。ひどく落ち込んでいる。まるで遠回りの自殺をするかのように。
たかが、避けられているだけで。
俺の傍にいないだけで。
だから、嫌だったのだ。
こうなると分かっていたから彼の傍にいたくなかったのに。
手に持った任務表を見る。
遠方の長期任務。
あの時と同じだ。
彼に告白しようと思った、あの時と。
彼の隣に俺以外がいるのをみるぐらいなら、遠く貴方のいない地で貴方のことを想っていたかった。
なのに、あの人は止めてくれた。優しい人だから。
この里にいてほしいと願ったから、あの人が俺に願ったことだから叶えてあげたかった。だがらずっとここにいた。
でももう無理だ。
体が死に向かっている。
このまま里にいれば、いずれ自殺してしまう。
それよりは里のために戦地で死にたい。そして慰霊碑に、あの人の心に俺の名前が刻まれてほしい。
任務を拝命し、受付に戻ろうとすると、廊下の向こうから彼が歩いてきた。
銀色の髪を逆立てて、少し猫背になりながらゆっくりと歩いている。
あぁっと歓声ともため息ともとれない声が漏れる。
会いたかった。
愛しいあの姿をもう一度見たかった。
心が、身体が彼を渇望している。見た瞬間、枯れた大地に水が降り注がれるように満ち溢れた。
好きだ。
こんなにも彼が好きだ。
もう心はとっくに彼に捕まってしまった。
心が壊れるほど、深く。
彼もこちらに気づき、唯一見える右目を大きく見開いた。
意識してくれただけでも嬉しかった。
どうしようか。
このまま彼の横を通り過ぎようか。
それとも最後に彼と言葉を交わそうか。
もう二度と会えないが好きだと告げようか。
いや優しい彼のことだ。長期任務を知ればもしかしたら気を病むかもしれない。同情して、付き合うというかもしれない。あの人のように。そしていつかは捨てられる。
分かっている。
何も言わず、この場から、彼から、彼のいる里から姿を消そう。そうして彼のいない地で彼のことを想いながら里のために死のう。
ぎゅっと唇を噛み歩き出す。
ドキドキと激しい動悸がする。頭が真っ白になり、汗も出てきた。何も考えられない。何も言わず通り過ぎよう。言葉を交わしては駄目だ。きっと何もかも吐露してしまう。早く、早く通り過ぎよう。
彼との間が1メートルぐらいになった時、彼の後ろから美しい女性が彼に抱きついてきた。
瞬間、胸を刺す痛みに倒れそうになる。
美しい人だ。きっと彼の新しい相手であろう。横に並べばお似合いだ。入る隙間なんてない。
あれから彼女の家にいるのだろうか。彼女の家でメシ食って風呂に入ってセックスして。俺としていたように、いや本当の恋人同士ならそんなものではない。愛を囁き合い、育むのだ。恋人だから。
恋人だから。
彼は女に腕をとられながらも、チラチラとこちらを見ている。
邪魔だというのか。
見られたくないから早く立ち退けと言いたいのだろうか。
それとも俺との関係を暴露してほしくないのだろうか。
そんなこと、しやしないのに。
とにかく彼はここに俺がいてほしくなさそうだ。俺だっていたくない。
早く去ろう。
この場から、彼から、この里から。
速足になりながら彼の横を通り過ぎようとする。
彼が俺の名前を呼んだ気がしたが応えられるはずなどない。これ以上俺を惨めな思いをさせないでくれ。アンタに相応しくないなんて分かっているから、これ以上現実を見せつけないでくれ。
ぱあぁぁっと目を輝かせた彼を思い出す。
『そんなのいくらでも買ってあげる。他にほしいものがあったらなんでも買ってあげるよ。オレ上忍だし、金いっぱい持ってるし、アンタが望むものならなんでも叶えてあげるよ』
嘘つき。
『アンタが望むものならなんでも叶えてあげる』
嘘つき嘘つき。
何にもくれないじゃないか。
俺のほしいのはただ一つ。
アンタの心だけだ。
「はたけ上忍っ!!」
女に捕まれていない反対の腕をギュッと掴む。
「だ、大事な話があります。お時間宜しいでしょうか」
縋るように彼を見上げると、大きく見開いた目が
ぎゅっと弧をえがいた。
「離せ」
低い声で言われて、慌てて手を離す。
しまった。彼女が誤解してしまうかもしれないのに軽率な行動だった。
離した手がカタカタと震えていた。
あぁ、心が死にそうだ。
その手をみながらぼんやりとそう思った。
「アンタじゃない」
離した手をぎゅっと掴まれた。そのまま力強く引き寄せられる。
「お前ウザい。二度と触るな、気持ち悪い」
ドンと女を押しやると俺の手を掴んだまま足早に歩きだす。女が叫んでいたが振り返りもしなかった。
そのまま空き部屋に入ると、ドアを閉めた瞬間深く口づけされた。
息苦しいほど、何度も。
会えなかった時間分を取り戻すかのように長く深い口づけだった。
「好きです」
言うべきはずではなかった言葉が涙と共に溢れ出す。
「好きです」
「うん」
「好きです、はたけ上忍のことが好きです」
好きという度に頬に、唇に、米神にキスされる。ワンワンと泣き叫ぶ俺をギュウギュウと抱きしめてくれた。
「オレもイルカが好きだよ」



涙が治まるころには日がすっかり影っていた。一体何時間ここにいたのだろう。仕事が気になるが今は考えたくない。
「ん?もういいの?」
彼が腕を解く。恥ずかしくて顔があげれなかった。
冷静になれば恥ずかしくて居た堪れない。いい年した大人が好きだ好きだと叫びながら大泣きするなんて。
彼だって嫌だっただろう。呆れかえっているかもしれないと恐る恐る顔を見上げるとニコニコ笑いながらこちらを見ていた。
「アンタは本当泣き虫だーね。そんなに泣かなくてもオレはそこまで怒ってなーいよ」
「は?えっと、あの…」
「アンタが可愛く謝ったから許してあげる。まっ、オレも大人げなかったからね。いつまでもアンタが元カレ引きずっているからさ、恋人のオレとしては気が気じゃないデショ?」
「は?」
「ん?」
見上げるとちゅっとキスをされる。
驚くほど甘く蕩ける様な笑みを浮かべており、ポーッとなりながら、いやいやまてまてと首をふる。
「恋人?」
「ん?」
「俺とはたけ上忍が?」
「そーだけど?何、今更?」
いや、いやいやいやいやまてまてまて。
なぜそうなる?っていうかいつからそうなのだ?
「いや、だっていつから…」
「オレは最初っからそのつもりで抱いてたけど、アンタなんだと思ってたの?」
「だって、あれは…」
あれはただの性欲処理ではないか?オレ専用だからといったセリフは、もしかして告白だったのだろうか。
「アンタ、抵抗もせずに応えてくれたじゃナイ。違ったの?」
「上忍命令だと…」
答えるとこれ見よがしに深いため息をつかれた。
いやどう考えても俺の思考の方がまともだろう。なぜ俺が間違っているかのように責められなければならない。
「オレのコト、良いように勘違いする奴らはいっぱいいるけど、なんでアンタは悪いように勘違いするかなぁ」
はぁっと再度ため息をつきながら頭を掻いた。
「まぁ最初はちょっと強引過ぎたかなって思うし、あんまりオレに心開いてくれてない感じだったからオレもちょっとムキになったけどさ」
悪かったよと小さく謝ってくれた。
「まっ、これからは恋人として付き合っていこーね」
「いえ、無理です」
抱きしめる彼をやんわりと、しかし力強く押し返すと思いっきり嫌な顔をされた。
「はっ?何で?アンタさっきあんなに泣きながら好きって言ってくれたじゃナイ」
そのことを言われるとひどく恥ずかしい。正直忘れてほしい。
「はたけ上忍のことは好きですが、恋人にはなれません」
「なんで」
「……はたけ上忍は、気が多いですよね。俺はそういうの耐えられません」
恋人と言ってもらえて嬉しい。死ぬほど嬉しいが、この人の恋人になろうとは思えない。彼の想いは俺一人では満足できない。それを責めるつもりはないが、恋人の地位を得てまでその現実に突き付けられるのは耐えられない。それならいっそ他人でいい。
彼を見るとポカンとし、やがてクククッと喉を鳴らした。
「そこは素直に浮気しないでって言えばいいじゃナイ」
「貴方にそれを求めるのは無理でしょう」
「何で?言っとくけどアンタと付き合って、まぁ付き合ってると思ってた時期にはアンタしかいなかったつもりだけど?」
「……短期間だからでしょう」
「あのねー。何の噂聞いているか知らないけどオレ自身が言ってるんだから。浮気しないでって言うなら浮気しない。ね?」
甘やかすように頭を撫でられたが頷くことはできない。
そんなことありえない。
この人が俺を好きなことも、俺だけで満足することも。
そんな価値、俺にはない。
そんな幸せ、この世にはない。
首を横に振ると、もう一度ため息をつかれた。
「まっ、そう簡単に信じてもらえないか。オレの過去の言動みたら説得力ないもんね。でも、オレは本気だから。信じられないなら信じられるまでどろどろに甘やかしてあげる。特別だって分からしめてあげる。アンタを手放す気なんてないからね、せいぜいオレの愛に溺れてな」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられて、止まっていた涙があふれ出しそうになる。
体はこれ以上なく歓喜している。
愛されて幸せだって。
体は震え、彼が触れているところは熱を帯びている。
このまま彼の手を取り、ぐずぐずと彼の愛に溺れたい。
でも心は追いつかない。
記憶を失ってからの彼の行動を思い出す。
女も男も見境なく何人も共にしてきた。あれがなくなるなんて思えない。珍しがって俺を傍に置いてくれるだけだ、すぐ飽きる。そして捨てられるんだ。

優しかった、あの人のように。


またあんな目に合うより彼から離れた方がいいのではないか。
幸い手はある。この長期任務に就けばもう二度と会えない。
無意識に懐に入れていた任務表をぎゅっと握りしめた。
「ん?何それ」
しまったと思ったが彼は驚くほどのスピードでそれを取り上げた。
「あっ、それは…っ」
慌てて取り返そうとするが、強い力で押しのけられる。
内容を読むにつれ彼の顔が険しくなる。
「何これ、……アンタの?」
「……」
「ふーん。アンタってホーント強情」
手に持っていた任務表が一瞬にして燃え上がった。
「くだらないこと考える前にさ、少しはオレのこと信用してもいいんじゃナイ?オレはあんたの元カレとは違う。何でも望み叶えてあげるって言ったデショ?浮気しない。アンタのことだけ愛してあげるから。ほら、他にしてほしいことあるなら言って?」
ぎゅっと抱きしめられる。暖かい彼の体にこのまま目を瞑り何もかも委ねてしまいたい。
だが、そうはできないぐらい、俺の心は冷たく凍っている。
カカシさん。
大事な話があると言ったままいなくなった彼を思う。
考えないように心の奥に追いやっていたあの日の言葉。
大事な話とは、一体なんだったのだろう。
俺は初めてその言葉の先を知りたかった。
「…時間を」
「ん?」
「まだ色々と混乱してて。時間を頂けませんか」
もっと色々考えたい。
彼のことも。
カカシさんのことも。
「ん。まっ、いーよ」
彼は相変わらず力強く抱きしめてくれる。
「その代り、オレの傍から離れないでね」
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