「ハッピーバースデートゥーユー」
「いきなり!?ロウソクまさか二十本立てたの!?」
「ハッピーバースデートゥーユー」
「っていうかその歌本人歌っちゃダメデショ!?オレが歌うから」
「ハッピーバースデーディア俺~」
「ちょっ、まっ」
「ハッピーバースデートゥーユー」
「終わった!一人で歌い終わった!」
「はい!じゃあカカシさん吹き消してください」
「何で!?」
そういいながら俺が吹き消して、カカシさんは不貞腐れながらロウソクの後始末をしてくれた。ぶつぶつ言いながらも付き合ってくれる。案外表面上はどうあれ、世話好きなのかも知れない。新たな一面を知れば知るほど彼との関係が縮まるようで嬉しくなる。
「じゃあケーキ入刀!」
包丁を持つ手にカカシさんの手を無理矢理重ねた。
「なにそれプロポーズ?」
「ーーっ!?」
危うく包丁を落とすところだった。
いきなり何言い出すんだ!?と思って彼を見ると、頬を染めてそれでもしっかり俺を見ていた。
「いや!えっと・・・」
どう言っていいか分からずあたふたする。だが、彼は茶化すことなくジッと俺を見つめていた。
「っ、プロポーズは、もっと、ちゃんと、します」
「・・・・・・そっ」
素っ気ない言葉だったが、満足したのか笑い、手を重ねた。
「にゅーとー」
「にゅーとー」
二人はいい。
半分こすればいいのだから。

それはとても明確で、わかり易く、切り分けやすい。

「今日、さ」
ケーキをまるで苦い薬のように食べているカカシさんに向かって話す。
「朝起きたら、一緒に両親がいる慰霊碑行ってくれますか?」
「勿論」
結構緊張しながら言ったのに、カカシさんは何てことないように、軽く頷いた。
まさか意味知らない、はずないよな。一番最初にそれが目的だって言ったんけど。
「あの、意味分かってます?」
「当たり前デショ?あ、オレの親とか先生とかもそこにいるからさ、ついでに挨拶しよーよ」
「・・・いいですけど」
何だか軽いなぁと思ってしまう。
まぁそれも仕方がないのかもしれない。所詮、両親はいない。挨拶と言っても直接会いにいくのとは違ってくる。それに俺にとっては結婚前提(勿論同性とは結婚ができないことは知っているが気持ちの問題だ)の挨拶のつもりだが、彼にとっては恋人の一人を紹介する感じなのだろう。
いいけどさ。
実際、結婚できないし。俺が満足すれば、それでいいじゃないか。
「何よ?不服そうだけど」
「カカシさん軽いから」
「軽いって何?これでも結構色々考えたつもりだけど?」
そう言いながらケーキの上にのっている苺を食べた。
「確認するけど、婚約ってカタチでいいんだよね?」
「こっ!?」
婚約・・・。
そういうことになるのか?なんか言葉にすると違和感を感じる。
「違うの?」
ムッとされて睨まれた。
「ち、がわない・・・、ですけど」
「ど?」
「なんか、カカシさん軽い・・・」
そんなことさらっと言われると何だか慣れてる感じがする。いや、この人がモテるのは知っているし、直接見たし。
こうやって、きっと幾人もしてきたのかと思うと、正直寂し・・・
「あーもー!」
途端、カカシさんがフォークを置き、頭をガシガシとかいた。
「絶対変な誤解してると思うけど、オレはただ、さっさと婚約したいだけだから」
「は?」
「今日イルカの両親に報告したら、ずっと一緒にいてくれるんデショ?そうやって既成事実作っておいたら、そう簡単には別れないって思ってるだけ」
それだけ言うと残りのケーキをガツガツと食べた。それは幼い子どもが嫌いな食べ物を無理矢理食べているのに似ていて、そうか、甘い物嫌いなのだと分かった。
また一つ、いや二つ彼のことを知った。
彼はとても、とても愛おしく、俺のことを思ってくれている。
「嬉しいです」
素直にそう言った。
「カカシさんと、婚約できて、嬉しいです」
くすぐったくて、温かい。
やはり恋はいいものだ。
こんなに。
こんなに幸せだ。
「・・・・・・未来のカカシさんは、未来の俺に、会えましたかね?」
ポツリと呟いた。
きっと一心不乱に駆け寄るだろう。
彼は第一声なんて言うだろうか。
俺はなんて言うだろうか。
誤解、解ければいいな。
彼のあの優しい目に、俺がうつればいいな。
「当たり前デショ」
フンと彼が笑った。
「きっと今頃押し倒してヤりまくってるよ」
「なっ!?」
「久々に会えた恋人だよ?再会したら、それ以外することないデショ」
「カ、カカシさんのバカッ!デリカシーなさすぎですっ!!」
「はぁ?何赤くなってるの?もしかして想像した?ねぇ、どんなこと想像したの?」
ニヤニヤと人が悪そうな顔で笑う。
せっかく感傷に浸っていたのに、全部パァだ。
プンプンと怒っていると、急にカカシさんが真顔になった。
「イルカ」
「・・・、はいっ」
何だろう。深刻そうな雰囲気だ。
もしかして何か隠してることがあるのだろうか。
例えば、実は既婚者とか!?隠し子とか!?
「・・・・・・オレたち婚約したってことは、今日からシていいの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!?」
駄目だこの人。さっきからそれしかない。
「深刻そうに何を言うかと思ったら!」
「大事なことデショ?オレ任務後だし、ちょっとムラムラして」
「知りません!知りません!」
ギャーギャー言って話を終わらす。
不服そうな彼を風呂に連行し、その間片付けをした。
ふとした瞬間、未来のカカシさんの最後の笑顔が脳裏にちらつく。
あんなに優しい人だったのに。
何が彼を狂わせてしまったのだろう。
普通に俺と出会い、恋愛できなかったのだろうか。
それの答えが、恋や愛などと言うのなら。
その危険性は、この先の俺たちでも有り得るのかもしれない。
ずっと、ずっと憧れていた一生の恋。
それは美しく温かく幸福にしてくれるが、一歩間違えば重くて歪で人を狂わせる。
そのことを忘れてはいけないと思う。
その想いが重ければ重いほどリスクがあるということを。
それでも。
手放したいとは、もう思えない。
彼がいない、そんな生活にはもう戻れない。
ワガママで寂しがり屋のくせに人を疑い、そのくせたくさんの人を魅了する。意地悪で口は悪く、そしてエロい。
だけど、誰よりも俺のことを思ってくれている、優しい人。
この世で一番、愛しい人。
「何ニヤニヤしてるの?」
「ーーっ、うわっ!」
背後に立たれて思わず仰け反る。
そういう力の差を見せつけるのやめて欲しい。
「べ、別にっ!」
「エッチなこと?」
「違いますー!」
もぅと怒れば背後から抱きしめられる。
風呂に入ってより一層温かい。
「オレのこと?」
「ーーっ!あ、当たり前じゃないですかっ!」
叫ぶとフフッと息が首にかかった。
「オレも、イルカのことずっと考えてるよ」
そういう、恥ずかしいこと本当さらっと言う。
自分の顔が赤くなるのを感じ、恥ずかしさを紛らわすためにうがー!と仰け反り、カカシさんから離れた。
「もう寝ますよ!起きたら忙しいんですから!」
「はいはい」
そう言って一緒の布団に入る。
狭いけど、温かい。
「おやすみなさい、カカシさん」
「おやすみ、イルカ」
抱きしめられながら、目を閉じる。
早く寝ないと。特別な誕生日の時間が終わってしまう。
起きたら一緒に朝食を食べよう。そして二人で慰霊碑に行くんだ。
そう言えば。
ふと思う。
まだ、一度も彼に告げていない。
好きだとか。
愛してるとか。
きっと言わなくてもわかっていると思うけど。
言えるときに言わないといけない。
そう未来のカカシさんから教わった。
慰霊碑のところで、言おう。
そして誓うんだ。
彼とこれから共に生きていくのだと。
最愛の、俺の婚約者だと。
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