「先生、せんせっ、気持ちイイ」
「んっ…」
ぬちゃっといやらしい音が狭い部屋中に響く。
その音から逃げるように身をよじるが、腰をがっちりとつかまれ、より深くつながってしまった。
低いうめき声と共に、中のモノが大きくなった。
「先生、動くよ・・・」
男が宣言通り狂ったように腰を振り、髪を乱す。
何度も何度も俺の名前を呼ぶ。
(まるで獣だ)
ハァハァと息を吐きながら、思う。
そんな獣に足を広げ、腹ばいになって、本来別の機能しかない穴に入れられてよがっている、自分。
(俺も同じか…)
「せんせっ」
ぎゅっと俺のモノを握った。
「ひっ、あ…」
予想しなかった動きにのけぞる。その姿を見て、男はゴクッと生唾を飲んだ。
「せんせぇ、すごい…」
器用に手を動かしながら、腰をふる。
あっ、あっともれる声を抑えられない。
こんな何も生まない行為に心を乱してよがるなんて。
「先生、気持ちイイ、イイ。あぁイキそう」
遠慮なく全身をぶつけて、俺もヒィヒィ泣いて。
同じ白いのをお互いにぶっかけて終わる。
なんてくだらない、行為。
「せんせ」
甘えた声で抱き着き、背中やうなじにキスをされる。
これもくだらない。
「せんせ、大好き」
くだらない。
疲れきった体を男がきれいに拭いていく。
優しい手つきで、まるで宝物を触るように。
それが勘に触り、男からタオルを奪い、床にたたきつける。
「止めてください」
そんな扱いするな。俺たちはそんな関係ではないはずだ。
「ご、ごめんなさい。でもオレ、今日いっぱい出したから、先生気持ち悪いと思って。それにこのままだと風邪ひくかもしれないデショ?」
おろおろしながら俺の顔色をうかがう。
健気な言葉で俺を気遣う。
その優しさとは言えない愚行が本当に本当に腹立つ。
「止めてください。俺、風呂入ります」
「あ、うん。そうだね。フロが良かったよね。先生フロ好きだもんね」
うまく起き上がれない俺に手を差し伸べる。
「っ、触るな!!」
ふれたくもなく、叫んだ。
彼は伸ばした手を慌ててひっこめる。
「もうセックスは終わりました。触らないでください」
痛む腰を庇いながら風呂に入った。
湯船につかっていると一瞬人の気配がした。
苛立ちとも呼べない心の乱れをそのまま相手にぶつける。
「くるんじゃねぇ!!」
「ご、ごめんなさい。き、きっと痛むから不自由してないか心配で」
心配?誰が?誰の?
「じゃあ、するなよ。セックス」
吐き捨てるように言う。
一瞬静かになったかと思うと、小さく嗚咽は聞こえた。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい先生。オレ、セックスしたいです。先生とセックスしたいです。ごめんなさい」
ひっく、ひっくと泣き出した。
顔が見えなくてよかった。
力いっぱい壁を殴った。
ドンっと大きな音がした。
「一人にしてください」
しばらくの沈黙後「ごめんなさい」と呟いて気配が消えた。
ふぅと息をつく。
きっとリビングで泣いているのだろうな。
顔を見れなくてよかった。
見てしまったら、きっと・・・・・・
「先生好きです。付き合ってください」
ナルトの上忍師として知り合って、個人的に誘われるようになり、だがまだ友人とは呼べない関係だったカカシさんにそう言われた。
「えっと…」
何の脈略もなく言われ、言葉を失う。
必死で頭をフル回転させる。
どう穏便に断ろうかと。
「すみません。俺婚約者がいるんです」
それは以前彼に言った言葉だった。
彼はその言葉を聞き、納得していた。
だからこんなこと言うなんて思わなかった。
「知ってますよ」
当然のようにニコニコと人懐っこい笑みで答えた。
知ってて言うなんて、きっとからかわれているんだ。
俺もつられてハハっと笑い、鼻を掻いた。
「でもオレ先生のこと好きなんです。付き合ってください」
キッパリと偽りなく。
ハッと顔を見ると、にっこりと笑っている。
だが目が。
青い瞳が、強く、どす黒い光を放っている。
それは初めて見る、彼の表情だった。
「えっと…」
俺は言葉に詰まった。
その言葉の意味を彼はわかっているのだろうか。
「それは、二股をしろってことですか」
「いいえ。オレ浮気はだめなんです。だから婚約者とは別れて、付き合ってください」
むちゃくちゃだ。狂っているのか。
どうしようもなく目をそらした。
からかっているんだ。こんな言葉冗談でも耐えられないが。
「すみませんが、俺彼女が好きなんです」
「オレも先生のこと好きです」
「も」ってなんだよ。
まるで言葉が通じない。
段々イライラしてきた。
「俺たち愛し合っているんです」
「オレも先生と愛し合いたいです」
「いい加減にしろっ!」
怒鳴って、睨みつけた。
カカシさんは気にする様子もなくニコニコしている。
「俺には彼女がいるから」
「彼女がいなければ、いいですか?」
相変わらず顔は笑っていた。
だが先ほどと違うひんやりとしたその言葉に違和感を感じた。
「彼女がいなければ、いいですか?」
同じ言葉を繰り返した。
急に、体の血が下がった気がした。
いなくなれば?
「いなくなれば、付き合ってくれますか?」
カチッと音がした。
カチカチカチカチ…。
歯が小刻みに揺れて、音がする。
歯だけではない。体中が抑えることができないぐらい震えている。
上忍師だけでない、彼の過去の肩書を思い出す。
元・暗部。
決して表に出ない、人殺しを仕事とする。
暗、殺――…。
「こ、殺すのか?」
自分でもびっくりするほど声が震えていた。
そんなことしても、おかしくない。そうできる権力のある人。
「殺す?あぁそれもイイかもね。でもそうしたら先生泣いちゃうデショ?そんなもったいないことしないよ。誰も殺さない。ようは相手が別れたいって思えばいいんデショ?」
なんてことないように言う彼はひどく嬉しそうで。
俺は怖くて堪らなかった。
「拷問…」
「拷問もしないよ。勿論関係者を脅したりしない。痛いことはなんにもしないよ」
だからね、と耳元で囁く。
「彼女と別れたら、オレと付き合ってください」
恐怖で動けない俺の返事を待たずに、彼は去っていった。
それからなるべく彼女から離れないようにした。
勿論事情は話したが、あまり本気にはしてくれなかった。
ただ俺には仕事があって、勿論彼女にもあって、ずっと一緒にいることは叶わなかった。でもそう簡単に人の気持ちが動くとは思わなかった。
だが段々、段々と彼女との時間がなくなっていき。
焦って彼女の気を引こうとしても無駄で、ほんの数週間で別れを告げられた。
そしてその帰り道、彼は前よりも嬉しそうに俺のアパートの前に立っていた。
「先生、好きです。付き合ってください」
「ふっ、ざけんなっ」
殴ってやろうと思った手は簡単にとられ、抱きしめられた。
それを力一杯押し返すと心底不思議そうに顔をのぞき込んだ。
「なんで?約束したデショ?」
「何が約束だ!彼女に何をしたんだ」
「何って、別に?先生に言ったことと同じように言ってやったんだ」
その答えは一番聞きたくなかった。
「あの女に好きだって、付き合って欲しいって。そのためならなんでもするって。そしたらあの女嬉しそうにしちゃってさ。抱いてって言うから抱いてやった。正直、女の体見ても何にも感じなかったけど、先生あの中に入れたんだよね?そう思ったらすっごく興奮しちゃって。あぁ先生もこの中に入れたんだって、一緒だって」
うっとりするその表情は偽りもなく無邪気で。
それが一層俺を恐怖する。
「だから殺してないし、痛いことも、脅してもないよ。ただあの女が選んで決めたこと。ねっ、先生。そうデショ?」
嬉しそうに、まるでほめてもらいたいかのように誇らしげに。
「狂っている」
この男は狂っている。
そんなことして本当に愛など手にできるか。
「うん。狂っているよ。先生のこと好きすぎて狂っちゃった。ねぇ先生、好き。大好き。先生を手に入れるためならオレなんでもできる。人だって殺せるし、女だって抱ける。邪魔なものは全部排除できるよ。ねっ、先生えらいでしょ?」
ニコニコと笑いながら、手をとった。
叫びたい。
大声を出して、手を振りほどき、逃げてしまいたい。
だがそんなことしても結果は目に見えている。
逃げたって、どこに隠れたって、助けを呼んだって。
きっと彼は笑いながら抱きしめ、愛を叫ぶのだ。
「ダメ?もしかして他に好きな人いるの?誰?教えて。その子諦めたらオレと付き合ってくれる?ねぇ、ねぇ」
足がすくみ、しゃがみ込んだ。
眩暈がする。
目の前がチカチカし、目の前が光に包まれる。
銀色の鈍い光に、あぁあれは光ではなく髪の色だと気づく。
世界が銀色に染まっていく気がした。
怖い、怖い。
なんで俺なんだ。どうして俺なんだ。どうしたら逃げられるんだ。何が彼を狂わせたのだ。
そんな答えがないことをぐるぐる考える。
「・・・先生?どうしたの?」
いつもの優しい声がする。
「先生どこか痛いの?足?おなか?えっ、・・・そうだ、病院行く?オレ良い医者知っているよ。良い薬も持っているし。ねっ、ねっ、先生?」
さっきとは違い、おたおたしだした。
それが出会った頃のカカシさんで。人間らしい、優しいカカシさんで。
俺はまた怖くなった。
こんなに優しい人なのに。
俺がケガしたらすごく心配して大騒ぎする人なのに。
はたけ上忍ではなく名前で呼ぶと嬉しそうに顔を赤くして俯く人なのに。
俺が狂わせたと言うのか。
俺がカカシさんの気持ちに気づかず、友人として接してきたから、優しくも脆い彼の心を壊してしまったというのか。
「ぁぁああああ」
俺は顔をふせて力一杯叫んだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
まるで恐怖に抗うように。
罪の重さに恐怖するように。
彼との思い出に蝕まれるように。
力一杯叫んだ。
狂うなら全て狂えば良いのに。
彼は嫉妬で狂う以外は以前のカカシさんなのだ。
嬉しそうに笑って、恥ずかしそうに俯いて。
ひどいことを言っても泣くばかりで、俺を責めない。
優しい、人間だ。
風呂から上がるとカカシさんが部屋の隅っこで泣いていた。
俺が部屋に入るとハッと顔を上げて縋り付いた。
「ご、ごめんなさい。先生を苛つかせてごめんなさい。先生は無理矢理付き合ってくれているのに、オレのこと、き、嫌い・・・っ、なのに、セックスさせてごめんなさい。せ、先生のこと、好きで、ごめんなさ・・・っ」
うっ、うっと嗚咽を漏らす彼を決して慰めない。
自分が狂っていると分かっても愛を叫ばずにいられないのが愛だと言うのなら
慰めない代わりに払いのけることもしない
この行為を何と呼べば良い?
「んっ…」
ぬちゃっといやらしい音が狭い部屋中に響く。
その音から逃げるように身をよじるが、腰をがっちりとつかまれ、より深くつながってしまった。
低いうめき声と共に、中のモノが大きくなった。
「先生、動くよ・・・」
男が宣言通り狂ったように腰を振り、髪を乱す。
何度も何度も俺の名前を呼ぶ。
(まるで獣だ)
ハァハァと息を吐きながら、思う。
そんな獣に足を広げ、腹ばいになって、本来別の機能しかない穴に入れられてよがっている、自分。
(俺も同じか…)
「せんせっ」
ぎゅっと俺のモノを握った。
「ひっ、あ…」
予想しなかった動きにのけぞる。その姿を見て、男はゴクッと生唾を飲んだ。
「せんせぇ、すごい…」
器用に手を動かしながら、腰をふる。
あっ、あっともれる声を抑えられない。
こんな何も生まない行為に心を乱してよがるなんて。
「先生、気持ちイイ、イイ。あぁイキそう」
遠慮なく全身をぶつけて、俺もヒィヒィ泣いて。
同じ白いのをお互いにぶっかけて終わる。
なんてくだらない、行為。
「せんせ」
甘えた声で抱き着き、背中やうなじにキスをされる。
これもくだらない。
「せんせ、大好き」
くだらない。
疲れきった体を男がきれいに拭いていく。
優しい手つきで、まるで宝物を触るように。
それが勘に触り、男からタオルを奪い、床にたたきつける。
「止めてください」
そんな扱いするな。俺たちはそんな関係ではないはずだ。
「ご、ごめんなさい。でもオレ、今日いっぱい出したから、先生気持ち悪いと思って。それにこのままだと風邪ひくかもしれないデショ?」
おろおろしながら俺の顔色をうかがう。
健気な言葉で俺を気遣う。
その優しさとは言えない愚行が本当に本当に腹立つ。
「止めてください。俺、風呂入ります」
「あ、うん。そうだね。フロが良かったよね。先生フロ好きだもんね」
うまく起き上がれない俺に手を差し伸べる。
「っ、触るな!!」
ふれたくもなく、叫んだ。
彼は伸ばした手を慌ててひっこめる。
「もうセックスは終わりました。触らないでください」
痛む腰を庇いながら風呂に入った。
湯船につかっていると一瞬人の気配がした。
苛立ちとも呼べない心の乱れをそのまま相手にぶつける。
「くるんじゃねぇ!!」
「ご、ごめんなさい。き、きっと痛むから不自由してないか心配で」
心配?誰が?誰の?
「じゃあ、するなよ。セックス」
吐き捨てるように言う。
一瞬静かになったかと思うと、小さく嗚咽は聞こえた。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい先生。オレ、セックスしたいです。先生とセックスしたいです。ごめんなさい」
ひっく、ひっくと泣き出した。
顔が見えなくてよかった。
力いっぱい壁を殴った。
ドンっと大きな音がした。
「一人にしてください」
しばらくの沈黙後「ごめんなさい」と呟いて気配が消えた。
ふぅと息をつく。
きっとリビングで泣いているのだろうな。
顔を見れなくてよかった。
見てしまったら、きっと・・・・・・
「先生好きです。付き合ってください」
ナルトの上忍師として知り合って、個人的に誘われるようになり、だがまだ友人とは呼べない関係だったカカシさんにそう言われた。
「えっと…」
何の脈略もなく言われ、言葉を失う。
必死で頭をフル回転させる。
どう穏便に断ろうかと。
「すみません。俺婚約者がいるんです」
それは以前彼に言った言葉だった。
彼はその言葉を聞き、納得していた。
だからこんなこと言うなんて思わなかった。
「知ってますよ」
当然のようにニコニコと人懐っこい笑みで答えた。
知ってて言うなんて、きっとからかわれているんだ。
俺もつられてハハっと笑い、鼻を掻いた。
「でもオレ先生のこと好きなんです。付き合ってください」
キッパリと偽りなく。
ハッと顔を見ると、にっこりと笑っている。
だが目が。
青い瞳が、強く、どす黒い光を放っている。
それは初めて見る、彼の表情だった。
「えっと…」
俺は言葉に詰まった。
その言葉の意味を彼はわかっているのだろうか。
「それは、二股をしろってことですか」
「いいえ。オレ浮気はだめなんです。だから婚約者とは別れて、付き合ってください」
むちゃくちゃだ。狂っているのか。
どうしようもなく目をそらした。
からかっているんだ。こんな言葉冗談でも耐えられないが。
「すみませんが、俺彼女が好きなんです」
「オレも先生のこと好きです」
「も」ってなんだよ。
まるで言葉が通じない。
段々イライラしてきた。
「俺たち愛し合っているんです」
「オレも先生と愛し合いたいです」
「いい加減にしろっ!」
怒鳴って、睨みつけた。
カカシさんは気にする様子もなくニコニコしている。
「俺には彼女がいるから」
「彼女がいなければ、いいですか?」
相変わらず顔は笑っていた。
だが先ほどと違うひんやりとしたその言葉に違和感を感じた。
「彼女がいなければ、いいですか?」
同じ言葉を繰り返した。
急に、体の血が下がった気がした。
いなくなれば?
「いなくなれば、付き合ってくれますか?」
カチッと音がした。
カチカチカチカチ…。
歯が小刻みに揺れて、音がする。
歯だけではない。体中が抑えることができないぐらい震えている。
上忍師だけでない、彼の過去の肩書を思い出す。
元・暗部。
決して表に出ない、人殺しを仕事とする。
暗、殺――…。
「こ、殺すのか?」
自分でもびっくりするほど声が震えていた。
そんなことしても、おかしくない。そうできる権力のある人。
「殺す?あぁそれもイイかもね。でもそうしたら先生泣いちゃうデショ?そんなもったいないことしないよ。誰も殺さない。ようは相手が別れたいって思えばいいんデショ?」
なんてことないように言う彼はひどく嬉しそうで。
俺は怖くて堪らなかった。
「拷問…」
「拷問もしないよ。勿論関係者を脅したりしない。痛いことはなんにもしないよ」
だからね、と耳元で囁く。
「彼女と別れたら、オレと付き合ってください」
恐怖で動けない俺の返事を待たずに、彼は去っていった。
それからなるべく彼女から離れないようにした。
勿論事情は話したが、あまり本気にはしてくれなかった。
ただ俺には仕事があって、勿論彼女にもあって、ずっと一緒にいることは叶わなかった。でもそう簡単に人の気持ちが動くとは思わなかった。
だが段々、段々と彼女との時間がなくなっていき。
焦って彼女の気を引こうとしても無駄で、ほんの数週間で別れを告げられた。
そしてその帰り道、彼は前よりも嬉しそうに俺のアパートの前に立っていた。
「先生、好きです。付き合ってください」
「ふっ、ざけんなっ」
殴ってやろうと思った手は簡単にとられ、抱きしめられた。
それを力一杯押し返すと心底不思議そうに顔をのぞき込んだ。
「なんで?約束したデショ?」
「何が約束だ!彼女に何をしたんだ」
「何って、別に?先生に言ったことと同じように言ってやったんだ」
その答えは一番聞きたくなかった。
「あの女に好きだって、付き合って欲しいって。そのためならなんでもするって。そしたらあの女嬉しそうにしちゃってさ。抱いてって言うから抱いてやった。正直、女の体見ても何にも感じなかったけど、先生あの中に入れたんだよね?そう思ったらすっごく興奮しちゃって。あぁ先生もこの中に入れたんだって、一緒だって」
うっとりするその表情は偽りもなく無邪気で。
それが一層俺を恐怖する。
「だから殺してないし、痛いことも、脅してもないよ。ただあの女が選んで決めたこと。ねっ、先生。そうデショ?」
嬉しそうに、まるでほめてもらいたいかのように誇らしげに。
「狂っている」
この男は狂っている。
そんなことして本当に愛など手にできるか。
「うん。狂っているよ。先生のこと好きすぎて狂っちゃった。ねぇ先生、好き。大好き。先生を手に入れるためならオレなんでもできる。人だって殺せるし、女だって抱ける。邪魔なものは全部排除できるよ。ねっ、先生えらいでしょ?」
ニコニコと笑いながら、手をとった。
叫びたい。
大声を出して、手を振りほどき、逃げてしまいたい。
だがそんなことしても結果は目に見えている。
逃げたって、どこに隠れたって、助けを呼んだって。
きっと彼は笑いながら抱きしめ、愛を叫ぶのだ。
「ダメ?もしかして他に好きな人いるの?誰?教えて。その子諦めたらオレと付き合ってくれる?ねぇ、ねぇ」
足がすくみ、しゃがみ込んだ。
眩暈がする。
目の前がチカチカし、目の前が光に包まれる。
銀色の鈍い光に、あぁあれは光ではなく髪の色だと気づく。
世界が銀色に染まっていく気がした。
怖い、怖い。
なんで俺なんだ。どうして俺なんだ。どうしたら逃げられるんだ。何が彼を狂わせたのだ。
そんな答えがないことをぐるぐる考える。
「・・・先生?どうしたの?」
いつもの優しい声がする。
「先生どこか痛いの?足?おなか?えっ、・・・そうだ、病院行く?オレ良い医者知っているよ。良い薬も持っているし。ねっ、ねっ、先生?」
さっきとは違い、おたおたしだした。
それが出会った頃のカカシさんで。人間らしい、優しいカカシさんで。
俺はまた怖くなった。
こんなに優しい人なのに。
俺がケガしたらすごく心配して大騒ぎする人なのに。
はたけ上忍ではなく名前で呼ぶと嬉しそうに顔を赤くして俯く人なのに。
俺が狂わせたと言うのか。
俺がカカシさんの気持ちに気づかず、友人として接してきたから、優しくも脆い彼の心を壊してしまったというのか。
「ぁぁああああ」
俺は顔をふせて力一杯叫んだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
まるで恐怖に抗うように。
罪の重さに恐怖するように。
彼との思い出に蝕まれるように。
力一杯叫んだ。
狂うなら全て狂えば良いのに。
彼は嫉妬で狂う以外は以前のカカシさんなのだ。
嬉しそうに笑って、恥ずかしそうに俯いて。
ひどいことを言っても泣くばかりで、俺を責めない。
優しい、人間だ。
風呂から上がるとカカシさんが部屋の隅っこで泣いていた。
俺が部屋に入るとハッと顔を上げて縋り付いた。
「ご、ごめんなさい。先生を苛つかせてごめんなさい。先生は無理矢理付き合ってくれているのに、オレのこと、き、嫌い・・・っ、なのに、セックスさせてごめんなさい。せ、先生のこと、好きで、ごめんなさ・・・っ」
うっ、うっと嗚咽を漏らす彼を決して慰めない。
自分が狂っていると分かっても愛を叫ばずにいられないのが愛だと言うのなら
慰めない代わりに払いのけることもしない
この行為を何と呼べば良い?
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