携帯を見ては閉じるという癖が身についたようだった。
センター問い合わせを日々何回もし、来ないメールにため息をつく。
だが、その意味を考えないようにした。
身勝手な思考だと苦笑する。
彼のことになると、自分はひどく自分勝手で子どもっぽい思考になる。
仕事もやる気が起きず、今日は休んでしまった。
「大丈夫?顔色悪いね」
丁度彼女も休みで、オレの家に二人で過ごしていた。
「んー」
曖昧な返事をする。
どうしようもできない重い病のようだ。
ごろごろとやる気なく、小説を見ながら寝転んだ。
「好きだね、その本」
くすくす笑いながら、パソコンをしている。
穏やかで、ぬるま湯みたいな時間だった。
これの何がいけないのだろう。
なぜ、これで我慢できないのだろう。
なにが物足りないのだろう。
「あの、さ。カカシ」
「んー?」
「そろそろさ、私たちいい年じゃない?カカシの仕事も落ち着いたしさ。まだ付き合いは短いかもしれないけど」
彼女にしては珍しく歯切れの悪い口調だった。
何が言いたいのか分からず、体を起こすと、彼女の見ていたパソコンの画面には花嫁姿が画面いっぱいに広がっていた。
(ああ、そういうこと)
「ち、近くにさ、今日ブライダルフェアやっているところがあるの。行ってみない?」
「あぁ、うん。そーだね」
何の感情もなく言うと満面の笑みで喜んだ。
そんなこと言われても、何にも感じない。
それでも彼女が喜ぶなら、それで良かった。珍しくはっきりとした意志にこのままずるずると引っ張ってほしかった。
何にも考えたくない。
何も、何も。
ブライダルフェアでは模擬結婚式に参列した。
演技だろうが、華やかな衣装で嬉しそうに笑う笑顔はなんとなくもやもやした感情を少しは紛らわしてくれた。
(そういえば彼女と結婚式したなぁ)
派手なのは嫌いだと言う彼女のために、親しい人たちだけ呼んで、ささやかなお披露目会をした。白無垢を着た彼女はこの世の者と思えないぐらい綺麗だった。
日焼けした肌は白く塗られて、赤い紅を唇にひいて。
そこではっとなる。
やはりどこまでも彼女の面影を探している自分が情けなくなる。
「すごい、すごいよね。カカシ」
自分でもなければ友人でもないこんな見せかけの会なのに涙ぐむ彼女はすごいなぁと素直に感心する。
遠回しに結婚の話しをされたのに、乗らない自分はきっと薄情な人間だ。
『やっぱり、あんたは薄情だ』
彼の言葉を思い出して、ドキッとする。
そうだよ。オレは薄情な人間だよ。
自虐げに笑い、幸せそうな二人を見た。
良い時間なので、夕食に誘った。
「前連れて行ってくれた美味しい店が良いな」
それは以前イルカと行った店だった。彼と唯一行ったデートらしいデートだった。
「いや、あそこは止めとくよ」
あそこに行けば、きっと彼を思い出してしまう。まだ直視できるほど強くなかった。
少し離れた駐車場へ向かう。
街は人であふれかえっていた。
高校の近くだからか制服姿の学生がちらほらと歩いている。なんとなくそれを見ないよう歩いた。
「もうすぐクリスマスだもんね」
「んー」
生返事で答えながら、ぼんやりとした足取りで歩く。
小さな若者向けのアクセサリー店から、制服姿の男女が出てきた。
「!!」
それは、イルカだった。
隣にいるセーラー服の女と嬉しそうに歩いている。彼女の手には今買ったであろう綺麗にラッピングされた袋があった。
何、買ったの?
クリスマス近いもんね。
指輪?それをはめて幸せだって、オレに見せつけるの?
あんたなんか不要だって。
それでその子と何するの?
好きだって、愛してるって言うの?
触れて、抱き合って、キスするの?
そんなの許さない。
そんなの許さない。
だって、イルカはオレのだ。
ずっとずっとオレのものだ。
触れさせない、誰のものにもさせない。
愛してるんだ。愛してる愛してる。
かーっと血が上った頭は他の何も考えられなかった。
オレは無我夢中で彼に近づいた。
「イルカっ!!」
叫ぶとハッとしたようにこちらを見た。
ほら、気がついた。あの目がオレを見てる。
嬉しくなりながら、近づく。
あぁ、なんて遅い足だろう。
もっと早く走れれば、彼を抱きしめられるのに。
人とぶつかりながら走る。
だがイルカは隣の女に何か言うと、そのまま後ろを向いて、走った。
(逃げたっ!?)
カァッとまた血がのぼる。
逃げられた。オレのこと避けられた。
嫌だよ、嫌だ。いつだってオレを正面から見てくれたじゃないか。
なんで逃げるの?
オレのこと、嫌いなの?
『あんたなんか、嫌いです』
彼の言葉を思い出す。
ちがうちがう。あれはイルカじゃない。名前も知らない、誰かだ。
『嫌いです』
「イルカっ!!」
ガシッと手を掴み、自分の方へ引き寄せる。
「離してください」
「何で逃げるの?」
「もう関わらないって言ったじゃないですか!あんただって納得しただろう」
「してない。そんなことしてない!」
「したよ!もう俺たちはもう関係ない」
聞きたくなくて、引きずるように歩き出す。
ダメだ。このままではイルカは捕られてしまう。その前にオレのモノにしないと。
自宅に行こう。そのまま縛って監禁しよう。暴れるだろうけど関係ない。ゆっくりと慣らしていけばいい。
あぁでもこの状態では車に乗せるのは大変だな。
なにかいい薬でもあればいいが、勿論そんなモノなどない。空も飛べなければ、瞬間移動もできない。
あぁそうだ。ホテルに行こう。
そこで抱き潰して気を失っているところで自宅に行けばいい。この辺にそんな店ごろごろしている。
一番近くて、多少訳ありでも受け入れてくれるホテルに入る。勿論暴れたが、気にしないで部屋へ投げ込む。
「カカシさん!!」
ギッと睨まれたが、そんなこと逆効果だった。
だってオレはこんな状況なのに、だからこそ、興奮している。
あぁよかった。またあの目にオレが映る。オレだけが映っている。これでイルカがオレのものになる。オレの、オレだけのものに。
両腕を一つにまとめて押し倒す。
「やめろ」
瞳が切なくゆれた。
そんな弱々しい姿に更に興奮する
「イルカ」
首もとに唇を落とす。
汗をかいているのか彼の臭いが全身から感じられた。
あぁイィ。すごくイィ。
これでオレのものにできる。
イルカ、イルカイルカイルカイルカ。
「やめろっつってんだろっ!!!!」
足が綺麗に鳩尾に入った。
「―――!!」
声にならない痛みが全身を襲う。
ひるんだ隙に起き上がって、逆に押し倒される。そのまま二、三発殴られた。
「あんた、こんなくだらないことまた繰り返すのかよっ!!」
言った後もう一発殴られた。
そうだ、もう力の差はない。あんなに歴然とあった力の差は見事になくなった。
あははと乾いた笑いがでた。
力がないなら、もう彼を縛り付けるものはなくなってしまった。もう何もできない。彼が他の人のものになるのをただ指をくわえてみることしかできない。
(みっともない・・・)
なんて無力なのだろう。
なんて浅はかで自分勝手な思考なのだろう。
力で脅して、体だけでもオレのものにしようなんて。
(ちがうちがう。もうそんなことしない。そうしたいんじゃない)
『生まれかわったら』
彼と一緒にいたい。
今度はちゃんと、好きだって伝えたい。
彼にオレのこと好きだって思ってほしい。
大好きだから。
こんなにもイルカのこと愛しているから。
「イルカ、イルカ」
涙が零れるを止められない。みっともなくて顔を手で覆う。
「大好きなんだ」
情けない。
こんな風に言うつもりなかったのに。
「誰にも、とられたくない」
愛してると狂ったように叫んだ。
言えば今まで堰き止めていた気持ちが溢れ出す。
「好き。イルカ愛してる。ずっと一緒にいたい。大好き。離れたくない。どこにも行かないで。イルカ、イルカ」
溢れ出てくる涙のように想いがとまらない。
ずっとずっと、大好きだった。
体の一部のようになくてはならないものだった。
今思えば、彼のいない世界はなんて味気ないものなのだろう。そんなものを必死で護っていたなんて何てバカらしい。
本当に欲しいモノはここにあったのに。
『もし、生まれ変われるのなら』
あの言葉は彼女じゃない。
あれはオレが彼に向かって言った言葉だった。
分かってしまった。
前世の記憶を、全て。
「イルカ、オレイルカのこと脅してたんだよね」
ひっくひっくと嗚咽がする。
情けない。泣きたいのはイルカの方だろう。
「脅して、好き放題してたんだよね」
ぎぃっとベッドが軋む音がした。
「えぇ、そうです」
なんの感情もない、声だった。
それが全てだった。
フイルムを巻き戻すように、頭に映像が流れてきた。
センター問い合わせを日々何回もし、来ないメールにため息をつく。
だが、その意味を考えないようにした。
身勝手な思考だと苦笑する。
彼のことになると、自分はひどく自分勝手で子どもっぽい思考になる。
仕事もやる気が起きず、今日は休んでしまった。
「大丈夫?顔色悪いね」
丁度彼女も休みで、オレの家に二人で過ごしていた。
「んー」
曖昧な返事をする。
どうしようもできない重い病のようだ。
ごろごろとやる気なく、小説を見ながら寝転んだ。
「好きだね、その本」
くすくす笑いながら、パソコンをしている。
穏やかで、ぬるま湯みたいな時間だった。
これの何がいけないのだろう。
なぜ、これで我慢できないのだろう。
なにが物足りないのだろう。
「あの、さ。カカシ」
「んー?」
「そろそろさ、私たちいい年じゃない?カカシの仕事も落ち着いたしさ。まだ付き合いは短いかもしれないけど」
彼女にしては珍しく歯切れの悪い口調だった。
何が言いたいのか分からず、体を起こすと、彼女の見ていたパソコンの画面には花嫁姿が画面いっぱいに広がっていた。
(ああ、そういうこと)
「ち、近くにさ、今日ブライダルフェアやっているところがあるの。行ってみない?」
「あぁ、うん。そーだね」
何の感情もなく言うと満面の笑みで喜んだ。
そんなこと言われても、何にも感じない。
それでも彼女が喜ぶなら、それで良かった。珍しくはっきりとした意志にこのままずるずると引っ張ってほしかった。
何にも考えたくない。
何も、何も。
ブライダルフェアでは模擬結婚式に参列した。
演技だろうが、華やかな衣装で嬉しそうに笑う笑顔はなんとなくもやもやした感情を少しは紛らわしてくれた。
(そういえば彼女と結婚式したなぁ)
派手なのは嫌いだと言う彼女のために、親しい人たちだけ呼んで、ささやかなお披露目会をした。白無垢を着た彼女はこの世の者と思えないぐらい綺麗だった。
日焼けした肌は白く塗られて、赤い紅を唇にひいて。
そこではっとなる。
やはりどこまでも彼女の面影を探している自分が情けなくなる。
「すごい、すごいよね。カカシ」
自分でもなければ友人でもないこんな見せかけの会なのに涙ぐむ彼女はすごいなぁと素直に感心する。
遠回しに結婚の話しをされたのに、乗らない自分はきっと薄情な人間だ。
『やっぱり、あんたは薄情だ』
彼の言葉を思い出して、ドキッとする。
そうだよ。オレは薄情な人間だよ。
自虐げに笑い、幸せそうな二人を見た。
良い時間なので、夕食に誘った。
「前連れて行ってくれた美味しい店が良いな」
それは以前イルカと行った店だった。彼と唯一行ったデートらしいデートだった。
「いや、あそこは止めとくよ」
あそこに行けば、きっと彼を思い出してしまう。まだ直視できるほど強くなかった。
少し離れた駐車場へ向かう。
街は人であふれかえっていた。
高校の近くだからか制服姿の学生がちらほらと歩いている。なんとなくそれを見ないよう歩いた。
「もうすぐクリスマスだもんね」
「んー」
生返事で答えながら、ぼんやりとした足取りで歩く。
小さな若者向けのアクセサリー店から、制服姿の男女が出てきた。
「!!」
それは、イルカだった。
隣にいるセーラー服の女と嬉しそうに歩いている。彼女の手には今買ったであろう綺麗にラッピングされた袋があった。
何、買ったの?
クリスマス近いもんね。
指輪?それをはめて幸せだって、オレに見せつけるの?
あんたなんか不要だって。
それでその子と何するの?
好きだって、愛してるって言うの?
触れて、抱き合って、キスするの?
そんなの許さない。
そんなの許さない。
だって、イルカはオレのだ。
ずっとずっとオレのものだ。
触れさせない、誰のものにもさせない。
愛してるんだ。愛してる愛してる。
かーっと血が上った頭は他の何も考えられなかった。
オレは無我夢中で彼に近づいた。
「イルカっ!!」
叫ぶとハッとしたようにこちらを見た。
ほら、気がついた。あの目がオレを見てる。
嬉しくなりながら、近づく。
あぁ、なんて遅い足だろう。
もっと早く走れれば、彼を抱きしめられるのに。
人とぶつかりながら走る。
だがイルカは隣の女に何か言うと、そのまま後ろを向いて、走った。
(逃げたっ!?)
カァッとまた血がのぼる。
逃げられた。オレのこと避けられた。
嫌だよ、嫌だ。いつだってオレを正面から見てくれたじゃないか。
なんで逃げるの?
オレのこと、嫌いなの?
『あんたなんか、嫌いです』
彼の言葉を思い出す。
ちがうちがう。あれはイルカじゃない。名前も知らない、誰かだ。
『嫌いです』
「イルカっ!!」
ガシッと手を掴み、自分の方へ引き寄せる。
「離してください」
「何で逃げるの?」
「もう関わらないって言ったじゃないですか!あんただって納得しただろう」
「してない。そんなことしてない!」
「したよ!もう俺たちはもう関係ない」
聞きたくなくて、引きずるように歩き出す。
ダメだ。このままではイルカは捕られてしまう。その前にオレのモノにしないと。
自宅に行こう。そのまま縛って監禁しよう。暴れるだろうけど関係ない。ゆっくりと慣らしていけばいい。
あぁでもこの状態では車に乗せるのは大変だな。
なにかいい薬でもあればいいが、勿論そんなモノなどない。空も飛べなければ、瞬間移動もできない。
あぁそうだ。ホテルに行こう。
そこで抱き潰して気を失っているところで自宅に行けばいい。この辺にそんな店ごろごろしている。
一番近くて、多少訳ありでも受け入れてくれるホテルに入る。勿論暴れたが、気にしないで部屋へ投げ込む。
「カカシさん!!」
ギッと睨まれたが、そんなこと逆効果だった。
だってオレはこんな状況なのに、だからこそ、興奮している。
あぁよかった。またあの目にオレが映る。オレだけが映っている。これでイルカがオレのものになる。オレの、オレだけのものに。
両腕を一つにまとめて押し倒す。
「やめろ」
瞳が切なくゆれた。
そんな弱々しい姿に更に興奮する
「イルカ」
首もとに唇を落とす。
汗をかいているのか彼の臭いが全身から感じられた。
あぁイィ。すごくイィ。
これでオレのものにできる。
イルカ、イルカイルカイルカイルカ。
「やめろっつってんだろっ!!!!」
足が綺麗に鳩尾に入った。
「―――!!」
声にならない痛みが全身を襲う。
ひるんだ隙に起き上がって、逆に押し倒される。そのまま二、三発殴られた。
「あんた、こんなくだらないことまた繰り返すのかよっ!!」
言った後もう一発殴られた。
そうだ、もう力の差はない。あんなに歴然とあった力の差は見事になくなった。
あははと乾いた笑いがでた。
力がないなら、もう彼を縛り付けるものはなくなってしまった。もう何もできない。彼が他の人のものになるのをただ指をくわえてみることしかできない。
(みっともない・・・)
なんて無力なのだろう。
なんて浅はかで自分勝手な思考なのだろう。
力で脅して、体だけでもオレのものにしようなんて。
(ちがうちがう。もうそんなことしない。そうしたいんじゃない)
『生まれかわったら』
彼と一緒にいたい。
今度はちゃんと、好きだって伝えたい。
彼にオレのこと好きだって思ってほしい。
大好きだから。
こんなにもイルカのこと愛しているから。
「イルカ、イルカ」
涙が零れるを止められない。みっともなくて顔を手で覆う。
「大好きなんだ」
情けない。
こんな風に言うつもりなかったのに。
「誰にも、とられたくない」
愛してると狂ったように叫んだ。
言えば今まで堰き止めていた気持ちが溢れ出す。
「好き。イルカ愛してる。ずっと一緒にいたい。大好き。離れたくない。どこにも行かないで。イルカ、イルカ」
溢れ出てくる涙のように想いがとまらない。
ずっとずっと、大好きだった。
体の一部のようになくてはならないものだった。
今思えば、彼のいない世界はなんて味気ないものなのだろう。そんなものを必死で護っていたなんて何てバカらしい。
本当に欲しいモノはここにあったのに。
『もし、生まれ変われるのなら』
あの言葉は彼女じゃない。
あれはオレが彼に向かって言った言葉だった。
分かってしまった。
前世の記憶を、全て。
「イルカ、オレイルカのこと脅してたんだよね」
ひっくひっくと嗚咽がする。
情けない。泣きたいのはイルカの方だろう。
「脅して、好き放題してたんだよね」
ぎぃっとベッドが軋む音がした。
「えぇ、そうです」
なんの感情もない、声だった。
それが全てだった。
フイルムを巻き戻すように、頭に映像が流れてきた。
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