朝起きたら目覚まし時計が止まっていて遅刻ギリギリの時刻に目を覚ました。
慌てて起きたら箪笥の過度に小指をぶつけた。
冷蔵庫を開けると牛乳と干からびた榎しかなくとりあえず牛乳を飲むと変な味がした。アカデミーではテスト用紙を自宅に忘れて一時間無駄になり、体術の授業の途中でお腹をくだした。
昼休みはトイレで過ごしたので昼食を食べ損ね、受付に行くと大きな部隊が帰還したためごった返していた。
途中差し入れをもらい休憩に入る前にミスに気づき、該当の上忍に会うと罵倒された。
ペコペコ謝って戻る途中恋人について美人のくノ一さんからまたもや罵倒された。今度はペコペコしなかった。
なんとか受付に戻ると差し入れはなくなっていた。
定時になっても交代の人は来ず、一時間後にわりぃとヘラヘラしながら来たときは殴ろうかと思ったが今後のために軽く注意するだけにしておいた。
トボトボと帰ると途中で溝に嵌り、ボロアパートが見えた途端、食料が干からびた榎しかないことに気がついたが、もう色々と面倒だったのですぐに寝ようと思いドアを開けると

一週間掃除や洗濯、皿洗いなどをしていなかった部屋が見違えるように綺麗になっており、ちゃぶ台にはおいしそうな料理がいくつも並び、容姿端麗で頭脳明晰、地位と名誉と財力を兼ね備えた恋人がフリフリのエプロンを着て待っていた。
10日ぶりのAランク任務から今日の夕方帰還したはずなのに。
もう何だか頭がぐちゃぐちゃになって


恋人にアッパーをくらわせた。



「せんせー、痛いです」
理不尽な扱いをされたのに彼は顎をさすりながらニコニコと笑った。
「すみませんカカシさん。八つ当たりしました」
正直に申告してもそうですかと特に怒る様子もなくニコニコとご飯をよそう。なんてできた人だ。俺なら三倍にして仕返しするのに。いやこの人はあれぐらいの攻撃よけられたはずだ。それなのに受けてくれ、しかも笑ってられるってなにそれ神か。
「今日はいいお肉が手に入ったのでせんせーの好きなすき焼きです」
どうぞどうぞと座らせ、卵を割ってくれた。
いい肉って、あんたが買ってくれる肉はどんなときでも俺が買う外国産の安い硬い肉の何倍もする肉しか買わないじゃないか。それよりいい肉ってこれはどんだけ高いんだ。値段聞いたら恐ろしくて食べれないほどか。
そう思ってもいい匂いが食欲を刺激する。今朝から何も食べていない(寧ろくだしたのでマイナスに近い)のでこの状況は一心不乱に食い尽くしたい衝動に駆りだたれる。
良いのか。
10日ぶりのAランク任務から今日の夕方帰還した恋人をこんな感じに持て成すのは普通逆じゃないか。俺なんか昨日10時間も寝たのに。
「せんせ、お肉良い感じになりましたよ。よそってあげますね」
卵の入った器に肉と野菜を綺麗に入れ、あーんと口まで運んでくれる。
それを奪い取りガツガツと食う。
美味い、美味すぎる。
冗談ではなく涙がでそうだった。
料理上手で綺麗好き、仕事から帰ると笑顔で迎えてくれ、イライラしても優しく包み込んでくれる。
まるで俺の理想の嫁さんだった。
例え長年譲れなかった溢れんばかりの巨乳ではなく男で「やーん、せんせぇ男らしい」とややオネエ言葉でクネクネしている里の誉れでも。
「カカシさん、うまいっす」
「よかった。作り置き一週間分しか作ってなかったから3日間どうしていたか心配だったんです。遅くなってゴメンネ」
いいえ、高ランク任務前にそんなことさせてこちらこそ本当すみません。一週間とても美味しかったです。三日前に遅くなると長い謝罪の書いた式を送ってくれて、自炊頑張ろうと思っていましたができませんでした本当すみません。
そう思うと本当に居た堪れない。
こんな理不尽な扱いをされてそれでもニコニコどうしたらできるのだろう。それが愛の力というのか。すごいぞ愛。らぶあんどぴーす。世界に愛を溢れろ、そして平和になれ。
「せんせ、今日なにかあったの?」
心配そうにこちらを見る。
あったといえばあった。
「朝起きたら目覚まし時計が止まっていたんですよ」
「えーやっぱりあれ寿命ですよ。明日新しいの買ってきますね」
「ありがとうございます。よく鳴るやつお願いします。それで慌てて起きたら箪笥の過度に小指をぶつけて」
「それは痛いですね。あとで薬塗りましょう」
「もう痛くないので大丈夫です。冷蔵庫を開けると牛乳と干からびた榎しかなくて、とりあえず牛乳を飲んだらおそらく傷んでて」
「ごめんねせんせ。オレがもっと賞味期限が長い保存食冷蔵庫に入れてなかったせいだね。今度から気をつけるね」
「いえ、俺がケチって半額のを買ったのが悪かったんです。今度から気をつけます。それでアカデミーではテスト用紙を自宅に忘れて一時間無駄になって、体術の授業の途中でお腹をくだして、昼休みはトイレで過ごしたので昼食を食べ損ねて」
「せんせー可哀相。でもアカデミーの子どもは先生に会えるだけで幸せだから気を落とさないで」
「そんなことないです。反省してます。それから受付に行くと大きな部隊が帰還したため大変でした」
「今度から先生の受付中には帰還しないよう命令しておきますね」
「それは結構です、仕事なので。でもつまんないミスして謝りに行ったら怒られて」
「えー誰そいつ。ミスぐらいで心狭いですね。オレ報復しますから名前教えてください」
「こちらのミスなのでそれは止めてください。相手も分かってくれましたし。それから美人なくノ一さんにもアンタのことで怒られて」
「…はぁ?ソイツ誰?マジぶっ殺してやるから教えて」
「おかげで差し入れ食べ損ねて」
「いや先生マジで教えて。無視しないで」
「交代の人が遅刻してきて」
「ねぇ美人だから!?美人だからかばってるの!?」
「帰りに溝にはまって」
「もしかして惚れたの!?ねぇ先生惚れちゃったの!?」
「もうなんかいっぱいありすぎて鬼おこぷんぷん丸なんです!おわりっ!!」
言い切るとすき焼きに手を伸ばす。
カカシさんはまだ何度か美人のくノ一について言ってたけど無視してたらそのうち治まって一緒にすき焼きをつついた。
「ごちそうさまでした」
「はーい。おそまつでした」
当然のように片づけだすカカシさんを慌てて止める。
「カカシさん、いいですよ。俺が片づけします。先風呂入ってください」
「もう先にお風呂入ったので大丈夫ですよ。オレもうすることないから、先生こそお風呂入って。あがったら晩酌しまショ」
早く早くと背中を押される。よく分からない言い分だったが本人が譲る気なさそうなので言われるまま風呂に入る。
温かいお湯が身に染みる。思わず「んあぁああ~」と叫ぶとドアの向こうでクスッと笑われた。
「せんせ、着替え置いときますね」
「あっ、はい。ありがとうございます」
今や持ち主の俺よりこの家のすべてを熟知している。たまに俺の持ち物なのに彼にどこにあるか聞く方が早いという事態になる。彼がここに住み着いてまだ半年なのに。
そう半年。
半年前、俺の世界は一変した。
事もあろうか、彼が俺に告白してきたのだ。
当時俺は彼が嫌いだった。大嫌いだった。
なぜなら彼は完璧だったから。
前から彼の噂は嫌と言うほど聞いていた。皆は彼を誉めていたが俺は心の中で罵倒していた。
なんて嫌味なやつなんだ。
才能も容姿も性格もいいなんてなんて不公平なんだ。一つぐらい俺にくれたっていいじゃないか。
理不尽極まりないが本当に本当に嫌いだった。そのぐらい完璧な人だった。誰も彼を褒め称え、嫌いなのは俺ぐらいではないかと思っていた。それでも俺は心の中で罵倒し、嫌っていた。
それが教え子を介して知り合い言葉を交わすようになっても変わらなかった。
そして突然の告白。
勿論断った。貴方に何も落ち度はありませんが俺が一方的に嫌いですとまで言い切った。
だが奴は諦めなかった。
気に入らなければなんても直す、容姿でも性格でも貴方が望むように全て直すとまで言い切った。
その瞬間悟った。
俺が、この人の汚点なんだと。
この完璧な人の唯一の汚点が俺みたいな冴えない中忍に惚れていることなのだと。
こんなつまらない俺に惚れてアンタは完璧な人生から転落するんだ。幸せな家庭も子どもも望めない。籍も入れれないからアンタは一生独身なんだ。ビンゴブックにも生涯独身もしくはホモと書かれるんだ、ざまぁみろバーカ。
それがなぜかとても清々しかった。俺のせいで嫌いなこの人が不幸になる。完璧だった人生に俺が唯一壊してやれる。このつまんない俺が。
「いいですよ」
そう頷いたときの彼の顔は見ものだった。
まるで懺悔から救われた哀れな子羊のようで、俺はまさに神になったような気分だった。
ふはははは、俺は神だーっと叫びたかった。
本当は彼の人生を堕落させる悪魔だというのに。
「そのかわり一生俺から別れることは許しません。別れれば殺します」
いや殺せないけど。相手は上忍でしかも里の誉れだぞ。返り討ちにされるに決まっている。分かっていたが、そのとき俺は神だった。
「そんな…」
彼はガクガクと震えた。
その瞬間俺は神から人に戻った。
しまったしまった。調子に乗りすぎた。
彼が必死だったから何でも許されると思ってしまった。ははは。彼は完璧な人だぞ。きっと目が覚めたのだろう、賢いからな。俺みたいな自己中心的でつまらない人間に何惚れちゃったんだろうって目を覚ましたな。せっかく彼の汚点になったのに、これでは何かの勘違いで男に惚れたがすぐに目を覚ました完璧な人だ。まぁ一瞬でも彼の汚点になったことには変わりないか。
「無理なら結構です。それでは」
さっさとこの場を離れて彼のホモ説を言いふらしてやろうとすると強く手を握られた。
えっ、ええぇっもしかして俺消される!?彼の汚点は抹殺されてなくなっているから完璧なのかと慌てると彼は泣いていた。
「それって一生そばにいてくれるってことですか。そんな、そんな幸せなことを望んでもいいんですか」
そう泣きながら握られた手に口づけされた。
いやいやはぁああ?と聞き返したかったが、俺はこの瞬間も悟った。
彼は俺にめちゃめちゃ惚れている。彼にとって俺は神になれる。いや神なんだーっと。
それから彼に対して傍若無人な態度を繰り返していたが彼はニコニコとすべての要求を難なくこなしていく。さすが完璧な人だ。彼にできないことはないのだろう、俺を嫌う以外。
まぁでも一生懸命尽くしてくれる姿に絆されるように、今は神というより恋人としているが、傍から見ればあまり変わっていないだろう。ただの俺の心境の変化だと思ってほしい。
風呂から上がると晩酌用に熱燗が用意されていた。チーズたらも。どうして俺が今日飲みたいと思っていた物が分かったのだろう。完璧な人だからか。すっげーよ、完璧すげーよ。
「はい先生。おつかれさまー」
「カカシさんこそお疲れ様です」
乾杯して酒を煽る。あぁなんて幸せだろう。彼がいなければ俺はお腹を減らしたまま寒い部屋で布団にくるまって寝ていたはずなのに。
「先生、寒くなってきたね。そろそろ半纏と炬燵出しますね。でも炬燵で寝ないでくださいね、風邪ひいちゃう」
「はいはーい」
「んもう、先生可愛い」
ヘラヘラ笑いながら彼に抱きつく。ぎゅーっとして頬にちゅっちゅすると彼は顔を真っ赤にさせた。
「あはは、カカシさん顔真っ赤。いぇーい」
「先生の酔っ払いっ、可愛い、大好きっ」
「あはははは」
笑いながら酒を煽り、彼を煽った。彼は顔を真っ赤にさせ俺からやんわり体を離しながら愛を囁いた。
彼は必要以上に俺に触れない。キスなんて数えるほどしかせず、セックスなんて夢のまた夢だ。
だから俺は酒に酔ったふりをしながら彼を煽る。彼は逃げる。その繰り返しだ。




「先生?寝ちゃったの?」
彼の声が頭上から聞こえる。怠くて起き上がる気力すらない。そのままにしていると彼は片づけをし、俺をベッドまで運んでくれた。
「先生、可愛い。大好きだよ」
ちゅっと額に口づける。
「せんせ、俺ねつまんない人生しか送ってこなかったの。毎日人を殺して殺して殺して殺して。本当人生に何の価値もなかったの。皆はそれを褒めて羨ましいっていってくれたけど、何言っているのか分かんなかった。だってオレの人生人殺していることしかなかったんだよ」
何言ってるんだ。アンタは人一倍任務してきたじゃないか。人が嫌がるような過酷な任務をしてきたじゃないか。だから褒めてるんだよ。そんなこと誰にでもできることじゃないからな。
「里でもね、顔がいいとか性格が優しいとか知らない人から何度も言われたけど信じられなかった。オレのこと何も知らない癖にって」
アンタと少しでも一緒に過ごしたらアンタのよさぐらい分かるわ。アンタ命がけで仲間を守るだろう。仲間を傷つけないようにいつも必死じゃないか。あと容姿はそう簡単に手に入るものじゃないからありがたくもらってろ。
「こんなつまんないオレをそばに置いてくれてありがと、先生。先生は神様みたいだねぇ」
何言ってるんだ。神はあんただろう。完璧なくせにそんなこともわかんないのか。あははーそうだったな、アンタは俺のことになるとダメになる。ベタ惚れだからな。汚点の俺、最強だな。
「先生の傍にいれるなら何でもするよ。先生が嫌がることや痛いことなんて絶対しない。約束する。だからあんまり煽らないでね。オレこれでもいっぱいいっぱいなんだから」
嫌がることってなんだよ。痛いことってなんだよ。
アンタの頭ん中で俺どうなってるの?SMプレイ中か?それとも縛られているのか?そういうプレイが好きなのか?それとももしかしてセックスのことを言っているのか?俺がセックスを嫌がってるって思ってるのか?痛いって?アンタの完璧な思考がそう言っているのか?だとしたらまた汚点が増えたな。アンタの思考は段々完璧じゃなくなってきてる。俺がそばにいるせいで、アンタは段々とその完璧さを失っているんだ。ははは、ざまーみろ。

俺がいつ、嫌だって言ったんだ。


手ぐらいだせよ。俺は神なんかじゃない。アンタの恋人なのに。



次の日受付に行くと俺を罵倒した上忍と美人のくノ一さんと遅れてきた交代の人が綺麗に土下座していた。
俺は名前も言っていなかったのに、どうやってこんな短時間で調べられたんだ。
彼の完璧さを改めて思い知った。

スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。