「カ、カカシちゃんっ!」
「イルカちゃん!!」


同僚と里一有名人が顔を合わせた途端、お互いをちゃん付けしながら叫んだ。どちらも驚き、この世の終わりのような表情をしている。
事前に話を聞いていた俺・かたくちイワシにとって予想できた事態なので、だろうなぁーとため息をついた。


話の発端は同僚・うみのイルカの幼馴染についてだった。
曰く、とても美人で可愛い女の子がいた。あまりの可愛さに早く自分のモノにしようと出会ったその場で結婚の約束をした。彼女も嬉しそうに頷いてくれた。そしてその子に全てを捧げるため大人になるまでお互い純潔でいようと誓い合った。なので俺は童貞だが意味のある童貞だとなぜか誇らしげに言い、ほとほと呆れた。
んなもん、子どもの戯言だろーが。あっちは忘れてるにきまってるっつーの。
とは思ったが、「いるかせんせーしょうらいけっこんしてあげるー」という生徒の可愛い言葉にも「ごめんなー、先生はもう決めた人がいるんだよ」と毎回律儀に返しておりひどく哀れに思った。
このままではこいつは一生独身だ。
早く現実を見せないと。
その幼馴染兼婚約者を探すためイルカに特徴を聞いた。
「すっごく美人でー、髪は銀色だった」
銀色と聞いて思考が停止しそうになる。
銀色なんて珍しい人は俺の知る限り一人しかいないが、彼は男だ。ならば里の者ではないのかもしれない。
「んー、でも上忍だって言ってた。当時10代前半だぜ!すげーだろ」
ならば亡くなったのかもしれない。そうなると哀れだなぁとなぜか涙が込み上げてきた。
「名前が分かればなぁ・・・」
それが分かれば苦労しないかと半ば願望のように口にするとイルカはきょとんとした。
「あ、分かるよ。下の名前だけだけど」
「はぁぁああああ!?それじゃあもう分かったも当然じゃん!」
「それがさー、いないんだよ。同じ名前の人はいたんだけど、男でさー」
その言葉に若干さっきからある人物がチラチラしていた。
「そ、それってまさか・・・」
タラリと冷や汗をかく。

「その子、カカシちゃんって言うんだ」

はい終了―、お疲れ―っと話を切り上げようとすると「なんでだよー」と縋ってくる。
「そいつははたけカカシ上忍だ。決定」
「いや、だから彼女は女だって」
「お前が今言った内容で該当するのははたけ上忍しかいねーよ」
「でもはたけ上忍は男だろ」
「お前はその幼馴染の体見たのか!?女だって断言できるか!?」
「あんな美人、女としか言いようがないだろ」
知らねーよ馬鹿、と罵りつつやっぱり可哀相だなと思った。
だって恋い焦がれた相手が男だったのだ。しかもその恋のためにこの年まで童貞なんて・・・。俺なら死ねる。
それでもイルカはいかに彼女が魅力的だったかを熱く語ってきてそれが一層哀れだった。
こうなれば可哀相だが現実を知って、淡い初恋だったと終わらせよう。
所詮、初恋は実らないのだ。
そうして顔馴染の上忍に頼み、初めて彼らは顔を合わせ、冒頭に戻る。


お互い思いっきり驚愕したあと、二人して俯いた。
「俺はカカシちゃんが上忍で忙しそうだから、俺は内勤になって支えるために家事とかめっちゃ頑張ったのに」
「オレだってイルカちゃんが中忍にしかなれないって泣いてたからオレが養ってあげるって思って貯金してたのに」
はぁっとお互い深くため息をついた。
イルカのメシが上手いのはそのためかとかはたけ上忍の貯金いくらだろうとか全く関係ないことを考えた。
どっちにしろ終わりだろう。
今日は酒でも奢ってやろうとイルカに近づこうとするとはたけ上忍にすごい顔で睨まれた。
何でだ!?
「カカシちゃんは将来絶対高嶺の花になるって思ってました。当時だって宝石のようにキラキラ光ってて、その上、上忍だし。きっと里の代表となる忍になるなって・・・。まぁ実際そうなりましたけど。だからプロポーズしたのに」
「オレもイルカちゃんは可愛過ぎて、絶対男にモテるだろうなって思ってました。実際お嫁さんにしたいランキング上位だし。呪詛かけといて本当良かった」
呪詛?
なんだか物騒な言葉が聞こえた気がして、隣にいる上忍を見ると視線をずらされた。
ええー!?
「俺、カカシちゃんがはたけ上忍じゃないといいなってずっと思ってました」
「!!」
そういうとはたけ上忍はこちらからでも分かるぐらい地面にめり込むように凹んだ。
「そんな・・・」
唯一見えている右目はうっすら涙目になり、カタカタと小刻み震えだした。
「だってはたけ上忍ですよ!?里の誉れですよ!?その上美形で仲間想い!?なにそれ素敵すぎ!人じゃない!高嶺の花どころか月とすっぽんじゃないですか!」
ん?
思わぬ言葉に俺と隣にいる上忍は固まる。状況についていけてない。
一人だけはたけ上忍だけが、ぱぁぁと顔を輝かせた。
「オ、オレだってイルカちゃんがうみのイルカじゃなきゃいいなって思ってました!」
そういうと、途端イルカは目に涙を浮かべ、ぎゅっと唇を噛んだ。
「そう、ですよね・・・」
力なく笑い俯く。
「だってうみのイルカだよ!受付の天使!地上に降りた最後の女神!!アンタ自分がどのくらいモテるか知ってるの?一目アンタの笑顔見たら落ちない相手はいないって言われてんだよ!?大名にも言い寄られてるって知ってる!?オレが里の誉れだろうが所詮ただの忍、アンタの相手にもならないーの!」
んん?
何この展開・・・。
二人は顔を見合わせ、火が噴くような真っ赤になる。
「な、なにが天使ですか!?俺なんてただのもっさい中忍ですよ!カカシちゃんは素敵です!何年たっても、いや年を重ねるごとに!!」
「イルカちゃんは天使なの!永遠の女神なの!昔を抜きにしても今でもその威力は健在なの!毎日笑顔を見れるだけで幸せなんだからっ!オレなんかもうすぐ30のオッサンだし、人には言えないこといっぱいしてきたし、手は血塗られてるし、・・・・・・太陽のようなイルカちゃんには相応しくないよね」
「な、何言ってるんですかっ!カカシちゃんは里のために尽くしてる凄い人です!とっても綺麗な人です!カカシちゃんの傍にいれたらどんなに幸せか」
「イルカちゃん・・・」
見つめ合い、手と手をとる。
なんか、めっちゃどうでもよくなってきた。
何コレ、バカっぷる?
さっきから口から砂糖がとろけ出そうなことばっかり言い合って、聞いてるこっちの身にもなってみろっつーの。
「アホくさ」
「何で俺たちこんなところにいるんでしょうね」
上忍と頷き合う。
もう帰りたい。
「もう結婚しろよ、お前ら」

「「結婚っっ!!」」

二人でハモった。
「バ、バババカ言えっ!オレは勿論望むところだけど、イルカちゃんが嫌に決まってるだろっ!」
「そ、そそそそうですよ!俺はすごく嬉しいけど、カカシちゃんはこんな男より美人な女性の方がお似合いですよっ!」
「女なんて興味ないよ!オレはずっとイルカちゃんと一緒になることしか考えてなかったんだから!」
「俺だってカカシちゃんとしかしたくなかったから意味のある童貞を貫いてましたよ!」
「でも、オレが男だからもう約束なんて無効だって思ってる・・・、でしょ?」
「まさかっ!俺の伴侶は永遠カカシちゃんですよ!カカシちゃんこそ俺が男だから結婚する気なんてない・・・、ですよね?」
「そんなことないよ!イルカちゃんさえよければオレは今すぐにだって結婚したい。イルカちゃんを永遠オレのモノだけにしたいよ」
「俺だってカカシちゃんさえよければすぐに結婚して一緒に暮らして、手料理食べさせてあげたいです」
「本当・・・?イルカちゃん・・・」
「カカシちゃん・・・」

「もう結婚しろよ、お前ら」
バカっぷるを見ながら、俺何やってるんだろなぁと黄昏た。


この日から、木の葉一のバカっぷるが誕生し、あちらこちらで被害をもたらした。
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