ムカつく奴がいる。

受付の入口でソイツを見つけて眉をひそめる。ゲー来たよ。こっちに並ぶなと必死に祈っているのに、それが叶うことは滅多にない。今日も俺の列に並ぶ。一番長い列なのにわざわざだ。嫌味か。早くしろって無言の圧力か。
ムッとしていつもより丁寧に見る。別に悪いことじゃない。むしろ丁寧に仕事をしているからいいことだ。
彼の前の奴が隣が少ないのに気づくと、隣に移った。ついでにお前も移れっと願うが、やっぱり叶うことはない。
視界に入るとなんか体中がもぞもぞして落ち着きがなくなるので極力視界に入れないようにする。無視だ無視。気にしては負けだ。
ゆっくりゆっくりと進んでいるが終わりは必ずくるもので、ついにソイツの番になる。
思わず顔を顰めてしまうのは条件反射だ。
「お疲れ様です」
「どーも」
どーもってなんだよどーもって。挨拶としては追試レベルだぞ。しかもそんなだるそうに。はいはい確かに高ランクの任務お疲れ様ですよ。だけどそんな「お前仕事遅いなそのぐらいの仕事さっさとしろよこの無能」みたいなだらしのない顔やめろよ。喧嘩売ってんのか?買うぞ?確実に負けるけど、そこは根性で買うぞコルァ。
「何か問題でも?」
少し止まってしまった俺を見てそう言った。ちょっと考えただけじゃないか。いいだろ考えても。確かにアンタの報告書はいつも完璧ですよー。内容も丁寧でわかりやすいし?字も綺麗だし?お手本にしたいレベルですよ?さすがビンゴブックに載るぐらいのエリート様ですねぇ。何させても完璧ですよー。
「確認しました。お疲れ様です」
受付としての意地でニコッと笑う。別に笑いたくて笑っているわけではない。これが仕事なのだ。
だが、ソイツは終わったのに動かなかった。
「あー、今日も暑いねぇ」
そう言って首元をパタパタさせる。
暑いならその鬱陶しい口布取れよ!首元がチラチラしてイヤラシイんだよ!と叫びたくなるのをグッと堪らえる。
「そうですね」
暑いのは事実だ。とりあえず同調する。
「こういう日はビール飲みたくならない?」
飲みたい。っていうか飲むさ。これが終わったらスーパーで500mlのビール三本買うつもりだ。
「そうですね」
それも事実なので頷く。
と、ピタリとヤツの動きが止まった。何事だろうと見上げると、フッと目を逸らされた。
何だよ。感じ悪っ。
その目線の先にはくノ一がいた。しかも美人で巨乳。ナイスおっぱいだ。
ん?もしかして俺に行っていると見せかけてあの美人さんに言っているのか。ここでくだらない世間話と見せかけて、じゃあ私と行かない?と言われるのを待ってるのか。それが誘いの手口なのか。きったねー。
一番ムカつくのは、その目線の先の美女さんがウキウキしているところだ!
「へーじゃあとっとと帰って飲まれてはいかがですか」
イラッとしながら言うと、はぁ?みたいな顔をされた。
その顔をしたいのは俺だ!
「アンタそんなつまんないことしか言えないの?さっきからそーですねそーですねって、どこかの番組じゃあるまいし」
「率直な感想を述べた迄です。たしかにその番組は好きだし終わったのは残念ですがそれが何か?問題でも?」
逆にはぁ?みたいな顔をしてやったぜ。
すると相手がムッとしたのがわかった。
「そーね。アンタってそういう人だぁね。鈍感で人の好意を土足で踏み荒らすようなニブチンだぁね」
「なっ!俺がいつそんなことしましたか!これでもイルカはイイ人だねって言われるんですよ」
「それって単に、どうでもイイ人ねってことじゃナイの?しかも絶対女だよね。代表的なフラレ文句じゃナイ」
ハンッと鼻で笑われ、実はそうなのでぐぬぬ・・・となる。
しまった。今のは墓穴を掘った。
「モテない人は可哀想だぁね」
「そーですねー。さすがおモテになられる上忍様。女関係では右に出る人がいませんよね。そうやって何人泣かせてきたのか」
「はぁ!?アンタどの噂聞いたの?嘘だから!オレ女関係で揉めたことないし。今はフリーだし」
何故か必死に弁解して笑える。
噂と言っても男なら羨ましいものばかりだ。
1日に十人も告白されたとか、同僚のカワイイあの子も彼に夢中☆とかの可愛いのから、大名の妻が彼に惚れ込み駆け落ちしようとしたとか遊女が彼としか寝たくないと自殺未遂したとか重いものまで様々だ。勿論すべて本当だとは思わないが、モグリな俺の耳まで届くぐらい噂が飛び交うとはそれだけ惹きつける何かがあるのだろう。
まぁ別に?俺には関係ないし?聞いた時はモヤモヤが体中を襲ってイライラして堪らなかったけど、それはきっと原因不明の病で彼の噂とは関係ないし?
「へぇ、フリーなんですか」
てっきり三日前に女と腕組んで歩いていたから彼女だと思ったのに違うのか。
へーそっか。
ニコッと笑うと、ヤツも嬉しそうに笑った。
「そっ。今恋人募集中なの」
へーそっかそっか。
あんな公然の面前で腕組んで楽しそうに歩いていても彼女でもなんでもないんだ。
へぇー、そーかぁー。
ってことはそういう関係の人ならたくさんいるってことだよな。

本当、コイツ最低だな。

ギッと睨むと、ヤツは怯んだ。
「え?・・・え?」
「それは良かったですね。恋人じゃなくて女友だち?セフレってヤツですか?そういうの沢山いて羨ましいなぁ」
「は?いや、オレは」
「そういえば先程からあちらの方がチラチラ見ておられますよ。もしかして知り合いの方じゃないですか?それとも気があるんじゃないですか?羨ましいですね。ささっ、こんなところで長居されるより誘われてはいかがですか?飲みに行かれるんですよね?もうこちらは結構ですよ」
「いや、だから」
「お引取りを!」
強めにいうと、すごすご帰って行った。
フン、内勤舐めんな。おとといきやがれ!
ヤツを言い負かしてちょっといい気分だったが、彼の後を美人さんが追いかけるようにして出て行ったのを見送って、凹んだ。
試合に勝って勝負に負けた気がした。


ソイツの名を、はたけカカシと言う。
はいはい知ってますよねー有名ですよねー。写輪眼のカカシですよー。里の誉れさんですよー。スーパーエリートで俺の年収を1ヶ月ぐらいで稼いじゃう天才さんですよー知ってます?知ってますよね。有名人ですもんねー。
そんな人とまぁ生徒の引き継ぎの関係で知り合ったのだが、コイツとは最初からいけ好かなかった。
まず遅刻。二時間は待った。で、謝りもせずのっそり猫背で入ってきて一言。

「どーも」

どーもじゃねーよ!
だがその時は高名な方だと思いペコペコしたさ。腐っても中忍。規律社会で生きてるからな。
はじめましてと言いながら手を差し出すと、ジッと見られた。手をジッとだ。
はぁあぁぁ?だろ。
そう思ったさ。何、手見てんの?天才様は握手もしねーの?俺みたいな格下と握手すんのも嫌なのか?礼儀って知らないの?コミュニケーションとりたくないわけ?
数分睨みあって俺が折れた。
え?手なんか出してませんよ?握手ってなんですか?みたいな感じで先程までの出来事をスルーした。ヤツも何も言わなかった。
それで生徒について話した。特に思い入れのある生徒だったから熱が入り一生懸命説明していたのにヤツは、はぁ、そーですかを繰り返した。
絶対コイツ聞いちゃいねぇ。
そして質問ありますか?と聞くと真顔で聞いてきた。

「アンタ恋人は?」

はぁあぁぁあぁ?
それ今関係あるのか?ないだろう?ないよ!?
こういうタイプはクラスに一人はいる。いちいちちゃちゃを入れないと気が済まないタイプだ。
子ども相手なら叱り飛ばせばいいが、上忍様にはそんなこと出来ない。頬を引きつらせながら「い、いませんが」と答えるとふーんと興味なさそうに答えた。
なら聞くなよ!
ツッコミたいのをグッと我慢する。
「オレもいないけど」
「・・・・・・はぁ」
はぁ?だったらなんだ?生徒は紹介しねーぞ!犯罪か?それとも何か?

いない者同士くっつこうとでも誘われてるのか?


そんなわけねぇぇえええぇよ!


これはアレだ。いないけど、その気になればすぐできるよ?見とけよ?ってヤツだ。
はぁあぁぁ、エリート様は羨ましいですねぇ。でも今は仕事中だから私語は謹んでくださいねー。
その後も「好きなタイプは?」「好きな食べ物は?」「休日は何してるの?」「住んでるとこどこ?」とちゃちゃを入れまくり青筋を立てながらかわしていく。
何とか説明し終えると、ヤツは呆れ顔ではぁと溜息をついた。

「アンタよく鈍いって言われない?」

うっせぇ!余計なお世話だ!
わりとよく言われるためちょっと焦った。
やはり天才エリート。中々鋭いな。
それからも何故かちょくちょく会うようになり、嫌味か意味不明なことばかり言ってくる。
決定打になったのがその生徒の中忍試験について。あの諍いからもう俺の中では敵認定されている。
無視していたが、ヤツが必要以上に話しかけるためついカッとなり、かなり酷いことを叫んだ。上忍相手にそんなことをすれば懲罰ものである。だがヤツはそのことを気にした風でもなく話しかけるため応戦している。そう言う意味では、まぁ男らしいかもしれない。


ふと外を見るとヤツが先程の美人さんと仲良く腕組んで歩いていた。
それを見ると何故かムカァッと腹の奥からマグマが爆発しそうになる。これがあれか!リア充爆発しろか!
なんだよなんだよ!あんな奴!あんな奴!
ビールぐらい一人で飲めよ!暑いならベタベタすんなよ!見てるこっちが熱くなるだろ!
それからっ!

俺の前で、女なんか誘いやがって。
人がどんな気持ちで見てるか知らねーくせに。

その言葉にハッとする。
いや違う。ちげーよ。これはあれだ、あれなのだ!女といれて羨ましいってヤツだ。そうだ、いいよなぁ。あのおっぱい。揉んだら弾力あって谷間に顔うずめたりしちゃって、そんでやらしいことしちゃうんだろうな。
いーよなぁいーよなぁ。そんで明日見せつけるように来るのかなぁ。
彼女だって。いや女友だち?セフレ?なんでもいいや。胸を二の腕に押し付けられながら羨ましい?って見せつけられるのかなぁ。

アンタじゃ無理デショ?おっぱいないし?
オレの隣はおっぱいない人お断りだから。


ってちげぇぇえぇ。
え?何?なんでアイツの隣にいたいと思われてるわけ?ちげーよちげーよ!そっちじゃない。女!女とイチャイチャしたいの!おっぱいぱふぱふしたいの!


「おい、イルカ・・・」
同僚に話しかけられてハッとする。
なに一人で叫んでいたのだろう。
「大丈夫か?お前・・・」
「いや、大丈夫だ」

そんなの見たくないなぁ。
ポツリと思った。


「あー、そういえば任務あっただろ。簡単なヤツ。あれやるわ」
気がつけばそんなことを言っていた。


。+ฺ・。ฺ・



「私の質問に正確に答えてください。貴方は敵の術にかかりましたね?」
「はい」
「それはどんな術なのですか?」
「相手が質問形式で聞かれたことに正確に答えてしまう術です」
「そうですか。それでは試してみます。貴方のお名前は」
「うみのイルカです」
「所属は?」
「アカデミーと受付をしています」
「受付の書類はどこにありますか?」
「っ、く・・・っ、第三倉庫です」
「アカデミーの抜け道は?」
「く、っ・・・、体育館の銅像の下です」
「童貞ですか?」
「!!ど、童貞です・・・」
「完璧に術に嵌りましたね」
屈辱だ。屈辱しかない。
絶対喋ってはいけない書類の場所やぬけみち、そして大事にとっておいた童貞を赤の他人に喋ってしまうなんて。
泣きたくなるのをぐっと堪らえる。いや、俺が悪いんだ。お使い程度の任務で敵に遭遇し、術にかかってしまうなんて。
でも童貞は聞かなくても良かった気がする。
自白させる目的の術にかかり、相手を倒して里に帰ってきたものの、こんな状態になってしまった。これで敵に捕まったらと思うとゾッとする。
すぐに病院に連れていかれて処置された。効果は二日。それまで自宅待機になった。
質問形式で聞かれれば何でも答えてしまうため、外に出ずじっとしておこう。
医師に頭を下げ、その場を後にする。
散々だ。
ヤケのように飛び出した結果こんな変な術にはまるなんて。
これも全部アイツのせいだ・・・っ!
ムゥとしながら極力早足で病院から出ようとすると入口の方で誰かがこちらに向かってきた。
よく見るとそれはヤツだった。
(げぇぇえええ!)
一番会いたくないヤツだったのに、何故か息を切らせて向かってくる。
忍のくせになに息を切らせてるんだよ!そんなに急ぐことでもあるのかよ!見舞いか?女の見舞いか?
いや是非行ってくれ。俺に話しかけるなかけるなかけるな!見るな寄るなもう帰れ!
「イルカ先生!」
大声で叫ばれて思わず立ち止まる。
「ケガしたって聞いて・・・」
はぁはぁと肩で息をしている。
なんだよ。まるで心配してかけつけたみたいじゃないか。違うだろ。これはアレだ。嫌味を言ってやろうとしてるんだ。こんな低ランクで術にかかるなんてププーッする気なんだ。うるせぇ!余計なお世話なんだよ!
そう叫びたかったが、声が出なかった。
この術は聞かれたことしか答えられず、その間は他のことも喋れないのを思い出した。
ヤバイ!
サーッと血の気が下がっていくのを感じた。
つまり状況を説明できない。このまま会話したらもしかしたら変なことを言ってしまうかもしれない。
こうなったら・・・。
(逃げる!)
走りだそうとする前に腕をつかまれた。
「何走ろうとしてるの?怪我人が。アンタどんくさいんだから大人しくしなよ」
(うるせぇ、余計なお世話だ!)
そう言いたいのに言えない。手荷物を取られ、逃げ場をなくされた。
「全く。この程度の任務で怪我するなんて。本当どんくさいんだから。この際外勤辞めたら?アンタは里の中にいればいいんだぁよ」
(うっせ!うっせ!やっぱりバカにしやがって!)
だが、やはり声は出ない。なんとか逃げ出そうと考えながら下手なことを言わないように俯く。何となく、顔を見られたくなかった。
「何よ?今日は静かだぁね。いつものギャンギャン吠えるくせに」
フフンと鼻で笑われた。
ギャンギャンだとぉ?!人を犬のように言いやがって。
プイッと顔を背ける。それぐらいしか抵抗できなかった。
「何よ。本当に静かになっちゃって。もしかして疲れた?どこか痛い?」
「痛くないです」
ようやく声が出たが、嫌な予感がする。
いいから何も聞くな!ほっといてくれ。だがもちろん声には出なかった。
「どうしたの?もしかしてオレに会えなくて寂しかった?」
ククッとバカにしたように笑う。
んなわけねーだろ!と叫ぼうと思ったら。

「はい」

なぜかそんな声が出ていた。

は?
は?

何が起こったのか分からなかった。二人して顔を見わ合わせ目を見開き。
かぁぁあぁと同時に顔を赤くした。
いや、ない!ないから!
「え?え?あ、イルカ先生・・・?」
ヤツもアタフタと慌てている。当たり前だ。ヤツにとってはギャクみたいなものだったのに、それを俺が真面目で返してしまい滑ったんだから。
いや真面目で返してねーよ!
だがフォローしようにも声が出ない。とりあえず全力で手を回してみた。
「な、なに弱気になってんの。そんなにヤバかったわけ?そういうヤバイの行かないでよね。オレの心臓止める気?」
はぁ?何言っているんだ?なんでアンタの心臓止めるんだよ。呪いか?呪いがかかってんのか?俺が死んだらアンタも死ぬのか?
「あー・・・、せっかくだしさ何か食っていく?何食べたい?」
「ラーメン」
「一楽?アンタそこ本当好きだぁね」
そう言ってクスクス笑う姿は、バカにしてない純粋な笑みだった。なんとなく目を合わせられなくて俯く。
なんで、そんな顔して笑うんだよ。
そんな嬉しそうにしやがって。
俺とそんなに食べたかったのかよ。
(っ、違う!ナイ!ナイナイ!)
っていうかなんで俺がアンタと食わなきゃいけないんだよ!帰る!帰らせてくれ!
「アンタ本当どうしたの?どこか悪いんじゃないの?」
「悪くないです」
「じゃあ、さ」
そこでヤツは口を閉ざした。言いにくそうにもごもごと口を動かす。
何だろうと見ると、真剣な目でこちらを見た。
「オレと食いに行くのは、嫌?」
真剣な顔してそう言った。
嫌に決まってるだろ!嫌だ!ほら言え。嫌だって。

「嫌です」

言った瞬間、頭が真っ白になる。

え?嫌だっけ?と思った。

いや、嫌だろう!嫌だ!そう嫌なのだ。なに戸惑ってるんだよ。だってコイツと食べに行きたいのか?嫌だろ。耐えられないだろ。
ふと、ヤツを見ると真剣な表情は消え、ぼんやりとこちらを見ていた。
「嫌?」
嫌だよ。当たり前だろ。
「なんで?」
性懲りもなく聞いてくる。
そんなの決まってるだろう!アンタといても楽しくないからだよ!イヤミばっかりいうし。それに。

「カカシ先生、いつも女の人といるから」

う、
う、

うぎゃあぁぁあああ!!


何言ってんのマジキモイマジキモイ!!
なに?カカシ先生ってなに?きっもー☆
違うこれは本心なんかじゃない変な術なのだ変な術なのだ!!
「女?いないよ」
「・・・・・・」
はい、うっそー。いるくせに。毎回見る度に女コロコロかえてるくせに。
って、どーでもいいんだよそんなことーっ!
「言ったデショ?今フリーだって。本当誰もいないから」
「・・・・・・」
はいはい恋人はいないんですよねー。恋人は。
分かりました分かりましたからもう話しかけんな!
「もしかしてさ」
一歩、近づいた。
「嫉妬、してた?」

「はい」

ちげぇぇえぇよぉおぉぉ!!
頼む。頼むからもう黙ってくれ。
あーもー黙れぇぇええぇ。
「オレ、本当先生と出会ってから身綺麗にしたよ?本当誤解されることはないけど、何が気がかりなの?」
「四日前女の人と腕組んでた。昨日も違う女の人と腕組んでた・・・」
やめろっ!本当に気にしてるみたいじゃないか!ぎゃー違う!違うからぁあ。
「あれはっ、勝手にっ!・・・ごめん。そういうの気をつけるから」
結構ですぅ。
何だよこの流れ。なんか本当に嫉妬しているのをフォローしているこの感じ。やめろっ!本当頼むからもうやめてくれぇぇ。
頭を抱えたくなりながら俯いていると、ふと白い指が伸びてきて、俺の髪をひと房掴んだ。
「今日、なんか素直で可愛いね」
は、はぁ?可愛い?大の大人に何言ってんだか。こ、これはアレだから。恥ずかしいこと言われて呆れてるから顔が赤くなっただけで照れているわけじゃないからっ!
っていうか、そっか。
素直だと、可愛いのかぁ・・・。
じゃあいつもの俺は素直じゃないから可愛くないのか。
「いや、いつも可愛いけど!」
しゅんとしたのが分かったのか慌ててフォローされた。
途端、ぱっと心が明るくなるのが分かった。
い、いや!違う!別に嬉しくない!嬉しくなんかない!
声に出して怒れないから、プクッと頬を膨らませて怒ってますアピールした。
フグみたいに、プクッってさ。
可愛いは失礼だろ。男なんだからカッコイイとか言えよ!本当わかってないな!
すると、髪に触れていた手がプクッとなった頬に触れ、ぷにぷにとつつかれた。
何だよもう!俺は怒ってるんだぞ!

「可愛い 」

そう言って、ヤツが笑った。
ふにゃぁってさ。こういうの、なんて言うの?
大好物のもの食べて幸せーみたいな?
なんかその笑顔見てたら、俺なんで言い訳ばっかり並べてるんだろと思った。誰も聞いていない、自分自身に言い聞かせるように、必死になって。
不本意だが、本音?を言えばなんかイイ感じになって。
俺ってもしかして変な意地はってた?
自分が傷つかないようトゲトゲのバリア張ってた?
それを取りやめれば、ヤツのあんな笑み見れるんだと思ったら、さ。

なんか自然に笑ってた。
ヤツと同じように、幸せーみたいな?やつ。

「あー、あのさ」
ヤツはボサボサの髪をかきあげた。

「ラーメンやめて、ウチ来ない?旨い酒あるんだけど」

目線を合わさず、だが耳まで真っ赤にして。
まるで照れているように。
そう言って誘った。

質問形式じゃなかったので、声は出なかった。
だからかわりに、コクリと小さく頷いた。

それはまぎれもなく、俺の本心だった。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。