朝は決まった時間に起こされる。
寝不足で八つ当たりしてもニコニコしてくれるので、朝から嫌な気はしない。
秘技「シリガイタイ」を発動すると、せっせと世話を焼いてくれる。
美味しい朝食を食べ、綺麗に洗濯された服を着て髪を結ってもらい玄関に向かうとエプロン姿のままカカシさんもついてきた。
「今日はお昼一緒に食べましょう。迎えに行きます」
「はい、待ってます」
弁当を手渡されない時点で分かっていたのでわざわざついてきたのは行ってきますのちゅーをしたいのだろう。
ちゅっとほっぺにキスすると、かあぁぁと赤くなったが何だか不服そうだった。
理由が分かっているのでどうしようかなぁと思ったが昨夜のことを思い出し止めておいた。秘技「シリガイタイ」はまだ発動中なのだ。

アカデミーまで徒歩一分の道を歩く。
カカシさんに「アンタのせいで通勤が大変です」と言ったらアカデミーの近くに家を建ててくれた。おかげで遅刻ギリギリまで寝れるが、今まで徒歩30分の所に住んでいたので運動不足になる。そう訴えるとなぜか頬を染め「頑張りマス」と宣言し、毎晩頑張ってくれた。おかげで尻は痛いが運動不足は軽減された。

職員室に入ると職員に挨拶し席に座る。
俺も気がつけば一番長くここにいることになる。いつのまにか主任になり、誰よりもアカデミーに詳しくなった。
朝礼で今日の主な出来事を確認し合う。
スズメ先生が風邪で休みのため時間割を大幅に変更した。代わりの先生を頼むと進路が分からないと言われたので日案と必要な付随する資料と生徒の特徴をまとめた物を渡した。ついでに使用する道具を取ってくるとすごいと感心された。

「さすがうみの主任、完璧ですね」


全くもって自覚はないが、どうやら周りから俺は完璧に見えるらしい。
アカデミーでも受付でも自身の仕事は勿論、他人のフォローまででき、聞けばなんでも答えてくれる、俺に知らないことはないとまで言われている。
おまけに人柄もよく愛想もいい。みんな平等に分け隔てなく接し、筋の通ったことしかしない。教える生徒も優秀だらけで、是非うみの先生にという保護者が後を絶たないとか。
昨日一楽が臨時休業で、どうしてもラーメンが食べたいと疲れて帰ってきた恋人に強請って作ってもらった俺が、だ。
とても他の人には家での傍若無人な態度は見せられないなぁとヒヤヒヤしている。
また内勤の割にはバランスのとれた体つきをしている。三食ちゃんとしたものを用意され体も髪も全て恋人が綺麗にしてくれるおかげで今のところ加齢臭ではなくふろーらるな香りがする。これも密かに評判だ。

つまり、何がいいたいかというと。
完璧な恋人と付き合っているおかげで俺も完璧になりつつあるということだ。

まさか自身だけではなく身近な人まで完璧にするとは。さすが桁外れの完璧。神に愛されすぎだ。
おかけで人生で初めてモテ始めた。女性から告白されたのは一度や二度ではない。喜ばしいはずだが問題があった。
ヤキモチ妬きの恋人である。
初めて女の人に告白されて、恋人がいるものの悪い気はしないなぁと思っていた(ただしその場で断った。人として当然である)それをどこで聞きつけたのかカカシさんが詰め寄った。疚しいことは一つもないので「喝っ!」とババチョップを仕掛けると易々と腕を取られ「何誤魔化しているんですか?」とすごい殺気で睨まれた。
いつもなら「ヤラレター」とニコニコしながら倒れてくれるのに。
すごい殺気で動けないでいると質問攻めに合い、いつの間にかヤられていた。外で犯されたのはあれが初めてだった。草むらで騎乗位になり、カカシさんだけ、カカシさんしかいらないと叫ばされた。
モテるの怖い。
まさかそんなことを思う日が来るとは人生とは分からないものである。ついでに男からも告白されたがあんまり嬉しくなかった。俺はホモじゃない。ただ恋人が男なだけだ。


お昼になるとカカシさんが職員室に顔を出したので笑顔て駆け寄る。
朝から唐揚げの匂いがしたので楽しみだった。
中庭のベンチに座りお弁当をひろげる。案の定唐揚げがぎっしり詰まっていた。
「美味しそうですね」
「唐揚げ粉を変えてみたんです。自信作ですよ」
嬉しそうに微笑まれあーんと食べさせてくれた。美味い。美味すぎる。
「さすがカカシさん。美味しいです」
「愛情たっぷりですから」
そんなの知っている。にこーっと笑いながら箸をすすめる。肉ばかり食べていると「野菜も食べてくださいね」と食べさせてくれた。全くもって甲斐甲斐しい。忙しいはずなのにここまで尽くしてくれる。それなのに俺が人格者?完璧?そんなの彼のお溢れをもらっているだけだ。
お礼にほっぺにちゅーすると、真っ赤な顔をしてわたわたしたが、ちょっぴり不服そうだった。どーしよーかなぁーと思ったがニシシと意地悪く笑い、彼を見上げた。
したいなら、アンタからすればいい。
そう思って待っていたがチラチラ見るくせに何もしてこなかった。
お昼の時間が終わり、夕方迎えに来ると言って彼と別れた。
カカシさんは優しい。
尽くして尽くして尽くしてくれる。
だけど俺に多くを強請らない。
キスだってしてと言えばいいのに。
自分からしてくれればいいのに。
いつも何か言いたげに見つめてくるだけだ。
もしかして強請ったらいけないとか思っているのかなぁ。
もう何年一緒にいると思っているのか。
彼は一方的に尽くすだけだ。


夕方、迎えに来たカカシさんと買い物をして帰る。
「今日は何食べたいですか?」
「肉!」
いつもの質問にいつも通り答えるとクスクス笑われた。
野菜も食べてくださいねと野菜を入れながら高い肉を買ってくれた。
帰り道隣並んで歩く。正面に綺麗な満月が見えた。
「月が綺麗ですね」
「そうですね」
お互いの顔を見合い、小さく笑った。
一瞬、彼の手が触れた。
恐らく偶然であろう。
だがその瞬間パッと手が離れ、こっそり彼を見ると赤くなっていた。
手ぐらい、なんてことないのに。
握ってやろうかと思ったが、やめた。
ただし今度は故意に手をぶつけた。
一瞬ビクッとなったがなにも言うこともなく歩く。
意気地なしめ。
もう時間さえ合えば体を繋ぐ仲なのに。
一軒家を買い、表札だって二人の名前を書いたのに。勿論名前は俺が先だけど。
上層部からも美人なくノ一からも文句を言われなくなり、逆に色んな人から茶化されるぐらいなのに。
アンタはいつまでも臆病者だ。

帰ると夕食を当たり前のように作ってくれる。その間に俺は丸つけをする。資料を作る。家事をしなくていいからこそ俺は仕事に集中できるのだ。
夕食を食べ、一緒に風呂に入る。
風呂はこだわりの風呂だ。大人二人入っても狭くないよう作った。金は腐るほどあるからな。主にカカシさんが。
先に体を洗いっこする。気がつくとカカシさんのムスコさんは立派になっていた。
「大きいデスネー」
「デスネー」
恥ずかしいのか手で隠しながらモジモジする。
「先生、一回どうですか」
彼はセックスだけは積極的だ。
わりと積極的に誘ってくれる。
「だが断る!」
「えー」
不満そうに口を尖らせた。
残念ながら俺は風呂でセックスするのは嫌いだ。神聖なる風呂場でするなんて邪道だ。そんなことをする人はお風呂好きの称号を剥奪しなければならない。
「その代わり今日は二回していいです!」
「ホントですか!?」
子どもっぽく無邪気に笑う。あまりに可愛かったのでほっぺにちゅーしてやった。
真っ赤な顔をしたが、やはり不満そうな顔をするのにやり返してはくれなかった。

その後カカシさん手作りのつまみを食べながら晩酌する。
蛸わさうまー。
「先生」
「はい?」
「大事な話があるんですけど」
ぐびっとビールを飲むと正座した。
「オレ、六代目になることになりました」
「・・・はい」
思った以上に大事な話で慌てて俺も正座する。
六代目の打診は以前から何度か耳にしていた。いつか彼から言われるのだろうなとは思ったが、まさかこのタイミングとは思わなかった。せめて酒はやめとけよ。
「忙しくなるので、もう家事はできません。料理も洗濯も掃除も。風呂も一緒に入れなくなるし髪の手入れも出来ません。丸付けの手伝いも花壇の水やりも資料集めもできません」
「はい」
寧ろそんな個人的なことまで手伝わせてスミマセン。
「できないということは、その負担は一緒に暮らす先生に全部いくことになります。それ以上に、業務の手伝いや渉外とかお願いするので、アカデミーも受付も辞めてもらわないといけません」
「はい」
そこまで言うとふぅっと息を吐いた。
俺は身動ぎせず彼の次の言葉を待った。
気がつくと手を握り締め微かに震えていた。
次の言葉。
その言葉で、きっと何かが変わる。
もう俺たちは今まで通りにはいられないのだ。
何と、言うのだろう。
一言。
たった一言間違えれば、取り返しのつかないことになる。
それを俺はただ、彼に委ねた。
カカシさんはグッと覚悟を決めると一瞬強い光りをした目でこちらを見た。
ギラリと光る瞳は鋭いがなんの感情も読み取れなかった。
カカシさん。
完璧なアンタなら、間違えないでくれ。
俺のことに関してだけ完璧でなくなる俺だけのアンタなんていらないから。
どうか完璧でいてくれ。
間違えないでくれ。
俺の。
俺の幸せを。
どうか間違えないでくれ。
カカシさんはグッと目を伏せ。
その場で綺麗に土下座した。

「オレのために、全部辞めてついてきて下さい」

大きく、高らかに言い切った。
「先生が、今まで培ったもの全部奪ってしまうことになるけど、オレは」
オレは。
「先生と一瞬も離れたくないから」

決めてたことがある。
彼が俺に全て捨ててついてきて欲しいと言ったら。
臆病者で意気地なしの彼が、それでも俺のこと手放せないと叫んだら。

「今日はセックス禁止です!!」
「えぇぇ!?」
驚く彼を尻目に資料を取り出す。
「せ、せんせ?怒った?ねぇ怒ったの?」
わたわたと機嫌を伺う彼を払いのける。
グスンと鼻が鳴った。
それに彼が気づき、フッと笑うと抱きしめてくれた。
決めていたんだ。
カカシさんは一人で悩む人だから。
きっと言うのにいっぱい悩んで、悩んで悩んでギリギリまで悩む人だから。
言った瞬間、引継ぎの文書作らなきゃいけないって。
俺の仕事を立派に引継いでもらって、心残りがないようにしないといけないって。
「せんせ。オレも引継ぎ手伝うから」
「当たり前ですっ!」
そう言うと涙を拭き取りながらキスしてくれた。
ようやく。
ようやく俺はアンタの伴侶になれた気がした。

その後、彼の手伝いのおかげでその日のうちに引継ぎ文書が終わった。
「カカシさんって完璧ですね」
半分嫌味っぽく言うと、彼はきょとんとした。
「そういう自覚ないところも完璧っぽい」
そう言うとふんわりと笑った。
「オレにしてみたら、先生の方が完璧デスヨ」
「はぁ?」
どこが、と言いかけて先ほどの自分の言葉を思い出す。
「オレは先生がいるから、完璧なんですね」
得意げにふふっと笑った。

つまりまぁ、そう言うことだ。

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