次の日、溜まっていた家事を済ませると昼過ぎになった。そろそろ人が訪ねても平気な時間になった。
メモ帳を頼りに三つ書かれた住所に向かう。
って言うか、三つって三つも住むとこがあるのかよ。強い上忍になると狙われやすく、その為いくつもの住むところを転々とするとは聞いたことがあるが、本当にしている人は初めて見た。
とりあえず一番上から訪ねてみる。
一つ目は上忍専用のマンションだった。
ドキドキしながらインターホンを押す。
約十分ぐらいだろうか、長い時間待たされて静かにドアが開いた。
そこには昨日見た彼よりも若く、冷淡な面持ちの彼が立っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰?」
「あのっ!」
そう言われてハタッと気づく。

なんて言えばいいのか。

一から説明するべきだろうか、いや長過ぎる。だからっていきなり貴方の運命の人ですなんて言えない。そんなこと言えるのは頭のネジが外れた奴だろう。例えばカカシさんとかカカシさんとか。
って言うか、一目で惚れられるんじゃなかったのか。どう見ても怪訝そうだ。早く帰れオーラが半端ない。
グルグルとパニック状態になりながら考えついた答えは。

「俺と、友だちになってくださいっ!」

シーンと静まり返る。
なんて陳腐な言葉だろう。でも一番的を得ている気がする。
そろっと彼の様子を伺うと、眉一つ動かさず冷たい目でこちらを見ていた。
そしてフッと息を吐いた。

「帰れ」

無情にもドアは閉められた。
おいこらぁあああぁカカシさんんんん!!
話が違うぅぅうううう!!

とりあえず。
することないので言われたとおり、帰った。



「えー、そこはもうちょっと粘ろうよー」
「嫌ですよ。カカシさんの嘘つき。めっちゃ怖い人じゃないですか」
夜に現れた彼に今日合った出来事を話した。最も内容がないのでものの数分で終わったが。
「んー、そういえばこの時期は結構荒れてた時期だったかなぁー。あー嫌なガキだよね、せっかくのチャンスなのにさー」
そう言いながら笑う。全く笑い事じゃないよ。期待していた分落ち込んでせっかくの貴重な休みを何もせずに終わってしまった。
「一目惚れなんて嘘ですよ。絶対俺のこと興味なさそうだったし」
「そんなことないよー。興味なかったら安眠妨害されたってボコボコにされててもおかしくないもーん」
「ゑ?」
何それ。やっぱり怖い人じゃないか!?
「辞めます!もう彼に会うの辞めます!!」
「まぁまぁ。そう言わず、ね?ね?」
「嫌です!他の人探しますっ!」
ドンっと真横から音がした。
見るとカカシさんが俺の真横の壁を殴っていた。
コンクリートの壁がパラパラと落ちる。
正面に座っていた筈なのにいつの間に来たのかすら見えなかった。
「他って何?」
「え、と・・・」
「イルカ浮気するの?オレ以外の恋人作る気なの?」
冷たい目でこちらをギロリと見下ろされた。
確かに昼間会った彼は本気で怒ったわけではないと分かった。
彼の本気の怒りは、これだ。
「だだだだって」
「そんなことしたら、タダじゃおかない」
怖ーっ!!!
ガクガク震えながら頷くと、フッと彼が離れた。
「ごめーんね」
困ったように笑う。
「脅かすつもりじゃなかった。ごめん」
それはいつもの飄々とした彼で。
でもどこか傷ついていて。
それを必死に笑顔で隠しているようで。
とても痛々しかった。
俺は自然と肩の力を抜いた。
「び、吃驚しましたー。やっぱりカカシさんってとても強い人なんですねー」
おどけた感じでいうと彼も笑ってくれた。
「イルカの方が強いよ。オレの強さなんてたいしたことない」
多分この先も昇進しないであろう万年中忍にそんなこと言われてもあまり嬉しくない。
「ごめーんね。オレ、イルカ好きすぎて。いっつも他に取られたらどうしようって不安なんだ」
「そう、ですか・・・」
そんなに他に取られるほどモテるわけじゃないのになぁ。
だが、彼の手が微かに震えていたのを見逃さなかった。
たかが、根拠のない発言にあんなに必死になるなんて。
そんなに俺のこと好きでいてくれるんだなぁ。
ちょっぴり嬉しいと思うのは変かなぁ。
「それじゃあ、どうすればいいか考えてくださいよ」
「うーん・・・」
そう言うと考え込んでしまった。
そんなに難しいのか。
いやむしろこんなに簡単に信じてしまう自分が愚かなのか。
「やっぱり、この状況を教えるべきかなぁ」
「でも取り繕う暇がないというか、話聞いてくれそうになかったんですよ」
「バカなガキだからね。・・・そうだ!いい事教えてあげる」
フフッと笑いながら手招きされた。
「オレの秘密」
そう耳打ちされたのは、とても彼に似つかわしくない秘密だった。
「ええぇーー!」
「誰にも言ったことがないからね。きっと信用してくれるよ」
嬉しそうにウインクした。
その目は。
その目は確かに彼と同じ赤い写輪眼だった。
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