カカシさんの話では大きなケガをしてこの時期は休んでいたと言っていた。
なのでいつ訪ねても居るはずだと。
とりあえず昨日と同じ時間に同じ場所に向かう。
緊張しながらインターホンを押す。
すると昨日よりは遥かに早く、だが一般的には待たされてドアが開いた。
「こ、こんにちは」
「・・・・・・また、アンタか」
はぁと溜息をつかれた。
「何なのアンタ。ここどこだか分かってるの?」
「は、はい。あの・・・」
やはり冷たい目をしている。警戒心が半端ない。
嫌な汗をかき、帰りたくて堪らない。
だが、そうもいかない。そうすると夜にあう彼が違う意味で怖い。
「ご、五分だけ話を聞いてもらえませんか!」
「はぁ?やだよ、何で?」
「き、聞いてもらえないと貴方の秘密をバラしますっ!」
「秘密?何それ」
フンと鼻で笑われた。
グッと押黙る。
本当に、昨日教えてもらった秘密は確かなのだろうか。
とても彼がそうだとは見えない。プライドの高そうな彼のことだ。間違えればただでは済まされないだろう。
でも、信じてもらうにはこれしかない。
(カカシさん!頼みますよっ!)
ドキドキしながら叫んだ。

「貴方がくまりんと名前をつけている大きな熊のヌイグルミを毎晩抱きながら寝てい」

バッタン!!
大きな音を立ててドアが締まった。
昨日と違うのは俺と彼が内側にいることだ。
「・・・・・・、どこで知った」
真っ赤な顔をした彼が睨むようにこちらを見ている。
怖い筈なのに、内容が内容だけにとても可愛らしく感じた。
そう、とても可愛い。
「どこで知った?誰から聞いた?まさか覗いたのか?いや、あの結界をアンタみたいな奴が破れるわけない!」
真っ赤な顔をしながら捲し立てるように言う姿は必死過ぎて猛烈に可愛い。
っというか、本当だったんだなぁ。
こんな怖い人が毎晩熊のヌイグルミを抱きながら寝ているんだ。
「聞いたんですよ」
「誰からっ!!」
「貴方です」
「はぁ!?」
「正確には七年後の、貴方からです」
そういうと眉を顰めながらも聞く体制になってくれた。
作戦はどうやら成功したらしい。
とりあえず一歩前進した。
ただし彼は大事な何かを失った気がする。


隠すのも面倒なので全て話した。
彼は一言も喋らず相変わらず冷たい目でこちらを見ていた。
聞き終わるとふぅと息を吐いた。

「アホらし」

一時間ぐらい身振り手振りで説明した感想が、それか。
まぁそんなものかなぁと俺も息をついた。
「確かにそんな術があるのは知ってるし、使った人も知ってる。だから未来からオレが来たのも、まぁ信じられる。だけど、なんでオレがアンタと付き合わなきゃいけない訳?しかも結婚前提?冗談じゃない」
ですよねー。
俺もそれに反論する言葉もなくただ頷いた。
「でもこのまま帰るわけにはいなかいんですよ。未来の貴方怒らすとすっごく怖いんですよ!」
「知らないしどうでもいい」
ふいっとそっぽを向かれた。
うーん。確かに彼の言う通り嫌なガキだ。
言えないけと。
「貴方にも影響あると思いますよ」
「はぁ?どこが?」
「このまま上手くいかなかったら今日みたいに貴方の秘密喋りまくっていくと思うんですけど」
そう言うと嫌な顔をされた。
まだ何かあるんだ。逆に知りたいかも。
あーとかうーとか唸りながら頭をかいた。
「つまり、何?アンタとヤればいいの?」
「は?何をですか?」
「何って、セックス」
「はぁああああ!?」
何故、どうしたらそうなる?
「だって恋人ってそういうことデショ?」
「違いますよ!何言ってるんですか!?」
「なに慌ててるの?別に変なこと言ってるわけじゃないデショ?あ、もしかして童て」
「あーあー!あーああー!」
耳をふさいで丸くなる。
すると後ろから爆笑された。
「っ、ど、童貞!その年で?信じられなっ!」
「お、俺は!結婚する人しかしたくないんですっ!」
「プッ!何その考え、古っ」
アハハハとさらに笑われた。これだからモテるやつは嫌いなんだ。ハイハイ、アンタは選り取りみどりだろうよ!
「・・・ヌイグルミと寝てるくせに」
ボソッと呟くと、途端彼の顔が赤くなった。
「っ!それ、二度と言うなっ!」
「さぁねー、俺口軽いからなぁ」
「言ってみろ、お前が童貞だってバラしてやるっ!」
「いいですよ、別に。誰もなんとも思いませんし」
昔バレて一瞬馬鹿にされたがすぐまぁイルカならと納得された。それもそれで屈辱であるが。
言い返されて悔しいのか真っ赤な顔して掴みかかってきた。
「ーーっ、痛」
握られた腕は力強かった。細身の彼からこんな力があるとは思えなかった。
無我夢中で暴れると脇腹に蹴りが入った。
「っ」
途端彼の力が弱まった。見ると脇腹を押さえている。
俺の蹴りの力がそこまであるとは思えない。
そう言えば彼は大怪我をしていると言っていなかったか。
「っ、すみません!!」
慌てて駆け寄ると血の匂いがした。もしかして傷が開いたのかもしれない。
「医療セットはどこですか!」
「触るなっ」
「いいからっ!!!」
怒鳴るとシーンと静かになった。
小さい声てあっちと指さされて隣の部屋に向かう。
そこは寝室らしくベッドの上に熊のヌイグルミがいた。
これを、見せたくなかったのかもしれない。
悪い事をしたなとおもいながらも医療セットを取る。
もしかして、誰にも傷を見せずこんなところで一人治療をしたのか。
可愛らしい象徴の熊のヌイグルミが、なんだか切なく思えた。

彼の傷は大きなものだった。普通なら即入院だ。
手早く治療すると病院に行ってくださいと呟いた。
彼はその言葉を無視してジッと傷を見た。
「アンタうまいね」
「・・・後方支援が多いので」
「ふぅん」
馬鹿にされるかと思ったがそうではないらしい。やけに静かになってしまった。
「今なら、オレのこと殺せるよ?」
「はぁ?なんで殺さなきゃいけないんですか?」
突然物騒なことを言い出した。
「なんでって・・・」
そう言うと口をモゴモゴと動かす。
「オレを殺したってなると、箔がつくよ。それに賞金だってかかってる」
「いりませんよ、そんなもの」
何言ってるんだと呆れたように見る。
「俺たちは同じ里の仲間じゃないですか」
そう言うと押し黙った。
急に妙なこと言い出して、変な奴。
医療セットをもとあった場所に戻す。
彼は止めなかった。
よく見ると寝室は他の部屋と違い物に溢れていた。
リビングなんてテーブルしかないくせに、寝室だけはカーテン、小物、植物、写真立てなどたくさんあった。植木鉢には名前が書いてある。もしかしたらあの熊のヌイグルミ同様一つ一つ名前があるのかもしれない。
こんな無機質のモノに囲まれて過ごしている彼はなんだかとても寂しく感じた。
彼ほどの人なら共に過ごしてくれる人などたくさんいそうなのに。


「・・・・・・考えたんだけどさ」
戻って来たら、彼が神妙な顔をしながらそう言った。
「はい?」
「アンタに恋人ができればいいんじゃナイ?それもすっごいの」
「そりゃ、まぁ、俺はそうだと嬉しいんですけど」
素敵な恋人ができれば万々歳だ。
別に彼じゃなくていい。
彼じゃないといけないと思ってるのはカカシさんだけだ。
「オレがアンタに女紹介してやるよ。で、未来のオレにも説得してやる」
どう?と聞かれた。
なんかいきなりの展開についていけない。急にどうしたのだろう。
「どうされたんですか?」
「別に、アンタ鬱陶しいし。手っ取り早く追い払うにはそれがベストデショ?」
「はぁ、すみません」
そうだよな。俺迷惑かけてるよなぁ。
今更ながら気がつく。重病人の家に押し入って秘密バラされたくないなら付き合えって。
何だかそう考えると俺最低な気がする。
帰ろっかなぁ。
なにもその方法なら彼に頼まなくてもいい。カカシさんには適当なことを言おう。
「やっぱりいいです。病人に酷いことしました。秘密はバラしませんので気にしないでください」
失礼しますと立ち上がる。
「はぁ?ちょっと待っ」
慌てた様子で掴みかかってきた。
「ちょっと危ないですよっ!」
「何、急にしおらしくなっちゃって。もう今更デショ。いいからいうこと聞いてな」
「でも悪いし」
「今更!」
そう言われると、そうかもしれない。
座りなおすとホッと息を吐いた。
「どんな女が好みなわけ?」
「えー、そーですねぇ」
そう言われても、パッと浮かぶ人はいなかった。美人だな、可愛いなと思う人はたくさんいたが付き合うとなると少し違う気がする。
そう、例えば。
例えば、カカシさんとか。
あんなに全力で愛されたら、幸せなのだろうな。
「いないの?」
そう聞かれてハッとする。
危ない!カカシさんなんて言ったら間違いなくこの人男を紹介する。それはゴメンだった。
「うーん、分かりません」
「あっ、そ。じゃあオレが適当に集めるから」
そう言って式を飛ばした。
すごいな、式一つで集まる人がいるんだ。
やっぱりこの人のそばにいてくれる人なんてたくさんいるのだろう。
そう思うといい事なのに、どこか寂しかった。自分と重ねていたのかもしれない。
俺も物で溢れかえった部屋に住んでいる。最も彼のように寝室だけでなく借りている部屋全てだが。
あれは、淋しいからだ。
誰もいない静かな部屋が、淋しいからだ。


夕食時に会わせるということで、それまで暇になる。
その間くだらない事を彼と喋った。
主に女の口説き方だった。
「女なんてちょっと優しくして強引にいけばなんとかなるよ」
そんな適当なことを言う。
そんな簡単にいくのはアンタが美形で実力があるからだ。平凡な俺がやれば勘違いヤローで終わる。それをオブラートに包まずストレートに言うと、何とも可哀想な目で見られた。
なんかムカつく。
「こんな簡単なことすら出来ないなんて」
「バカにしてますね!絶対バカにしてますね!」
「バカにしてるっていうか、哀れ・・・」
これだから美形は嫌いだ!モテない辛さを知らなさすぎる!
「カカシさんは、恋人いないんですか?」
ふとそう聞くと、一瞬固まって小さい声でいるよと言った。
ドキッとした。
なぜかわからないがひどく動悸がし、頭が真っ白になった。
「へ、へぇ。やっぱり美形は違いますね!」
「・・・・・・まーね」
「どんな人なんですか?」
「胸と尻がデカくて頭が空っぽな女」
酷い言われようだ。顔を顰めると、何と不機嫌聞かれた。
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。恋人なんでしょ?」
「別に。あっちがそう言ってるからそうなんじゃナイ?体もいいし煩くないからほってるだけ」
「好きじゃないんですか?」
そう聞くと、ハッと鼻で笑った。
「そんなこと言ってるから、恋人できないんだよ」
冷たく言い切った。
これが、あのカカシさんなのだろうか。
あんなにひたむきに俺を愛してくれるカカシさんなのだろうか。
幸せそうに笑ったカカシさんなのだろうか。
なんて薄っぺらい。
自虐的で、すぐそこの快楽しか見ない。
悲しい虚しい生き物なのだろうか。
(嫌だ)
同じ顔をしないでほしい。
同じ声をしないでほしい。
嫌な気持ちがもやもやと胸を支配する。
「オ、オレのことはいいんだよっ!」
黙りこくった俺に気がついたのか、慌てた様子で話をそらした。
「今はアンタのこと。アンタなら、きっといい恋人見つかるよ」
「・・・はい」
彼は親切にしてくれているのに。
俺とはただの知り合いで、彼のこと何か思えるほどの関係ではないのに。

なぜかもやもやは消えることはなかった。
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